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ミステリの祭典

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死人狩り

作家 笹沢左保
出版日1965年01月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 人並由真
(2020/06/12 14:16登録)
(ネタバレなし)
 その年の7月。西伊豆の下田と沼津を繋ぐ西海岸沿いの崖脇の道路から、運転手と車掌を含めて27人の男女を乗せた定期バスが墜落し、全員が死亡する。原因は何者かが走行中のバスの正面ガラスに散弾銃を撃ち込んだためだった。死んだ乗客の中に妻の和子と娘の千秋、息子の不二男を確認した静岡県警捜査一課の34歳の刑事・浦上達郎は、以前からの相棒の同僚・伊集院虎雄とともに「犯人は誰を殺そうとしていたのか」を最初に暴くべく、被害者たちの身元と当時に至る状況を洗い出す「死人狩り(しびとがり)」を開始するが。

 大昔にテレビドラマ版をちらりと観たような気がするのでwebで調べたら、1965年と1978年に連続ドラマ(前者は半年、後者は全5回の短期)になっている。評者が覗いたのは後者のショーケン主演版の方。トクマノベルズ版はこれに合わせて刊行されたのだろう。
(ちなみに1965年版は主演が車周作、相棒が江戸川総司令、交代で応援の若手刑事がキカイダー01ですって。こりゃ東映の製作だろと思ったら、まんまそうだった。一度観たい。)

 こういう派手で大胆な趣向で設定の作品だから、どうせ大半の被害者の調査が空振りに終わるのはわかっているのだが、とにもかくにも物語の勢いのなかで主人公がほぼ全員の捜査を相応に強引に貫徹(仕事の分担として他の刑事が一度調べた相手まで、一部、洗い直している)。その辺のリアリティに関してはまあギリギリ。
 その上で、真犯人の殺人計画に直接は関係なかった巻き込まれた被害者たちのプライバシーが、さらには「もしかしたら、こいつが犯人か?」と疑われた遺族や故人の関係者の内情までがひとつひとつ赤裸々に暴かれていく。この下世話な覗きストーリーの物量感がぢつに面白い(……といっていいのか?・汗)。
 これはすぐに連続テレビドラマ化されるわけだよ、だって毎回のエピソードがネタ話だもの(とはいえ当時、ネットの実況サイトとかあったら、どうせ今週も空振りだろ、終盤まで真相はわからんのだろ、と原作未読派からも軽口を叩かれそうな気もするが)。

 最終的な決着は予想の通りにアレでアレでしたし、その真相から逆算すると途中の筋運びも「うーん」という感じもあるんだけれど、まあこの作品は中盤の小エピソードのとてつもなく長めの串ダンゴ構成が身上でしょう。そういう意味では楽しめた(面白かったというには微妙だし、出来がいいとは絶対に言えないが)。
 なお、この作品のバージョンアップが天藤真の『死角に消えた殺人者』だというのは、nukkamさんがそちらのレビューで語ってられる通りですな。あとちょっと佐野洋の『赤い熱い海』にも通じるところのある設定だけど。

 気分的には6点あげてもいいんだけれど、こういう<ソッチの方向に特化して力入れた作品>をあんまりホメちゃいけないよね、ということであえてこの評点。良い意味で、退屈な時間に読むなら最適の作品かもしれない。

No.1 5点 nukkam
(2016/02/10 13:15登録)
(ネタバレなしです) 1965年発表の本書はタイトルに「狩り」という言葉が使われていたのでアクションを伴うサスペンス小説かと最初思ってましたが地道な捜査の本格派推理小説でした。走行中のバスが散弾銃で狙撃されて海中に転落、乗っていた27人全員が死亡という大事件が発生します。警察の捜査会議で乗客の1人を殺すための緻密な計画に基づく犯行と判断されます。真に狙われた被害者は誰なのか、被害者の身辺捜査のことを「死人狩り」と命名したのです。犠牲者が27人もいるため関係者(容疑者)も含めるとかなりの人数が登場しますが、一つ一つの捜査は簡単に終わるので意外と読みにくくはありません。ある手掛かりから容疑者を絞り込んでいますが現代の読者にはこの推理はぴんとこないと思います(当時の常識だったのでしょうか?私にはわかりません)。それ以上に気になったのがそもそも捜査の最初であのことを(ネタバレになるので詳しく書けないのですが)考えつかなかったのが不思議でなりません。徳間文庫版では意外性を誉めていますが、個人的には意外でも何でもないと思います(私でさえ可能性として考えたぐらいですから)。ものすごく遠回りして解決に至っているという印象が残りました。

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