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ミステリの祭典

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宿命と雷雨

作家 多岐川恭
出版日1967年01月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 人並由真
(2022/10/24 08:53登録)
(ネタバレなし)
 交通事故での負傷を原因に大学を中退し、その後は実家の薬局を手伝っていた26歳の青年・坂出伊佐夫は、中堅企業「堀野建設」の中途採用に応募した。彼の入社は叶い、社長で55歳の堀野万治の秘書となる。だがその堀野は、20代半ばの美人予言者・及川泉から、今年の8月中旬に何らかの形で絶命すると予告されて精神の平衡を失いかけていた。坂出は堀野から、預言者・泉の霊感が本物かどうかの調査を命じられ、彼女の故郷である山口県に向かうが。

 アイリッシュやカーター・ディクスンの諸作を思わせる、<霊感で予言された死の運命>を主題にしたミステリ。

 物語の途中で当該の人物、堀野社長か、あるいは読者の裏をかいて別の人物が死亡し、そこからオカルトがらみの論理でしか説明できない不可能犯罪ものとかに転調するのだろうと、途中までは期待していた。
 しかしいつまで経っても……(以下略)。なんじゃこりゃ、とあきれ、若干の欠伸を嚙み殺しながら読み進めていくと、ようやく終盤の方で確かに一応はミステリの枠内に収まる。
 
 妙にひねったクセのある作品で、創元の旧クライム・クラブの諸編あたりの雰囲気でもある。
 良くも悪くも定石を外した分、謎解きミステリとしてはお話の組み立てからしてダメダメになってしまったところもあるが、ちょっとぶっとんだ犯罪の動機はなかなか印象に残る(どっかで読んだような気がしないでもないが)。

 登場人物は全部で40人程度。総数はそんなに多くもないんだけれど、名前のあるキャラの6~7割くらいの人物造形がしっかりなされ、みっちり叙述されているから、妙なほどに濃いめの群像劇に付合ったような軽い疲労感を覚えた。
 まあ面白かった、という言葉通りの作品なので、この評点で。

No.1 5点 nukkam
(2016/02/08 02:21登録)
(ネタバレなしです) 松本清張責任監修による「新本格推理小説全集」の10冊の1冊として1967年に発表された作品です。8月中旬の雷雨の夜に死ぬという予言に怯える建設会社社長から予言した及川和泉という女性の調査を社長秘書の坂出が命じられるプロットです。事件がかなり後半にならないと起きない上に及川和泉が予言者としてよく当たるのかというのは謎としての魅力に乏しく、サスペンス的には物足りません。光文社文庫版の巻末解説では「人間の謎を追及した推理小説」と紹介されていますがまさしくその通りで、第三者である坂出の視点を通じて登場人物の心理描写に重点を置いています。私はエラリー・クイーンの「十日間の不思議」(1948年)を連想しました。坂出が推理する場面もありますが真相は彼の独力では明らかにならず劇的な最終章で場当たり的に解決しており、本格派推理小説というよりサスペンス小説に分類すべき作品だと思います。

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