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ミステリの祭典

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報復

作家 ドン・ウィンズロウ
出版日2015年12月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 5点 小原庄助
(2017/06/19 16:41登録)
テロとの戦いをテーマにした冒険小説はすでに数多く書かれているが、この作品もその系譜に連なる作品。とはいえ、この作者にしてはかなりの異色作。
旅客機爆弾テロで、妻子を失った元特殊部隊員が、資金を集め、傭兵を集め、自らの手でテロリストをかりたてる。
作者の魅力である独特の語り口をあえて抑えて、ぜい肉をそぎ落とした文体で語られる物語。
テロリストに対する、そして祖国アメリカに対する怒りをも内包した作品。

No.1 7点 Tetchy
(2016/01/25 00:01登録)
久々のウィンズロウはノンシリーズの復讐劇。妻子をテロリストに殺された元デルタフォースの男が遺族たちの賠償金を募ってそのお金でかつての上司が率いる世界各国の精鋭たちを集めた傭兵部隊を雇い、テロリストを追い詰める物語だ。
とにかく物語の展開はスピーディで、勿体ぶったところがなく、デイヴが精鋭たちを雇うのは全ページ610ページ強のうち、178ページと3分の1に満たないところだ。そこからウィンズロウは主人公デイヴ達が標的に迫っていく様を世界中を舞台に入念に語っていく。

さてそんな物語の中心となるデイヴの上司マイク・ドノヴァンが率いる“ドリーム・チーム”の面々はウィンズロウらしく実にキャラが立っている。

訳者が変わったせいではないだろうが、短い文章でテンポよく物語を運ぶのはウィンズロウらしさがあるものの、彼の持ち味であるユーモア交えた小気味いい文体が本書では一切ない。実にストイックに家族を喪い復讐に燃える男のストイックな物語が、専門知識をふんだんに盛り込まれながらも悪戯に感傷を煽るようにならず、ほどよい匙加減で切り詰められた文章で進んでいく。特に描写がリアリティに満ちていて実に痛々しい。例えばよく映画で目の前で敵の頭が吹き飛び、血漿を浴びるセンセーショナルなシーンがあるが、本書ではさらに砕けた頭蓋骨の破片が顔に突き刺さり、それらを除去しないと感染症に罹ってしまうという実に生々しい説明が付け加えられる。
また飛行機から飛び降りる高高度降下落下傘にしても単に潜入するだけに留まらない。高高度から飛来することの危険性―気温が摂氏マイナス48度であるから凍傷や低体温症の危険性がある、飛来する人が“X”の形で降りるのは風の抵抗を受けて少しでも落下スピードを落とす為で、落下スピードが速すぎるとパラシュートを開いた瞬間の衝撃で関節が外れてしまう、等―を詳らかに数行に亘って説明する。それも決して熱を帯びていなく、あくまで淡々と。『野蛮なやつら』や『キング・オブ・クール』で見られた実験的な文体を書いた作者と同一人物とはとても思えないほどの変わりようだ。

特に最後のテロリストの巣窟への襲撃戦はさながらマクリーンの『ナヴァロンの要塞』のようだ。難攻不落の要塞に高難度の進入を果たして12倍もの敵と対決し、ターゲットであるテロリスト、アブドゥラー・アジーズへと迫っていく。そのさなかで過酷な訓練を通じて友情を勝ち得た仲間たちと主人公デイヴは哀しい別れをしなければならない。
デイヴの報復が成就した今、恐らく彼らの物語の続きが描かれるか微妙だ。ウィンズロウ版『ナヴァロンの嵐』がいつか読めることを期待しよう。

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