皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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モトキングさん |
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平均点: 6.06点 | 書評数: 78件 |
No.6 | 7点 | どんどん橋、落ちた- 綾辻行人 | 2003/12/04 15:35 |
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表面的には、単なる楽しいパズル、若しくは間違い探しクイズ。 しかし、長いことミステリファンをやってきて、そして綾辻行人という作品を読み続けた自分にとっては、この作品は作者の苦悩の吐露に感じる。 自分はこれからどこへ行くのか。 何が書けるのか。 何を生み出せるのか。 「どんどん〜」「ぼうぼう〜」そして「意外な〜」。この3作に登場する「彼」の存在こそが、作者にとって、この短編集の価値であり、本質であると思ってしまう。 むしろ、いわゆる本編の物語の方は、過去のエピローグ(大学時代の自分の創作意欲や情熱…)をそのまま紹介しただけで、その後に来る「彼」とのやりとりこそが、作者にとっては大事…というか、発表すべき告白なのだと感じた。 ミステリはクイズではない。やはり小説なのだ。 作者もそう思っているのだと、私は思う。 ミステリ作品としては2、3点だと思うが、この本はそういう本ではない。 点数は…考えても良くわからない。ので、とりあえず今の平均点に最も近い点数を。 |
No.5 | 7点 | 時計館の殺人- 綾辻行人 | 2001/12/26 17:34 |
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インパクトは、もう既にこの世に「十角館」を出してしまった後なので、あまり無いが、館シリーズの中では最も作品全体の締まりがある整合のキチンと取れた作品といえる。 「時計館」という館の必要性も、シリーズ中、唯一納得できる。 ただ、相変わらず作中人物に対するトリックが頂けない。読者を対象に叙述を展開する、その切れ味は、館シリーズ全体に際立っているが、登場人物には全く無害なため、あんなにあっさり犯人の意図が通るとは思えない。 でもまあ、面白いので、他の館等と比べてこの点数。 |
No.4 | 4点 | 殺人鬼- 綾辻行人 | 2001/11/30 10:25 |
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まあ、作家が綾辻ってだけで、これを「ミステリの祭典」で採点するのもどうかと思いますが。 皆さんの書評を見てみると、やはりという感じで、「超A級スプラッタ!」みたいな評価を与えている人は評価が高く、ミステリとして捉えている人は、幾らホラー的に完成度が高いとしても評価は低くならざるを得ないと思います。 全体的にホラーであり、その中のアクセントに、何気なく叙述トリックをおひとつ、ってな感じでは、それはホラー小説の一種という以外の何者でもないでしょう。 究極的にいって、たとえ殺人鬼的な役回りの登場人物(人なのか?)が登場しても、最後に殺人鬼の正体が判明するのがミステリで、それが有耶無耶でも何でも良いのがホラーでしょう。ホラーってそういうもんだ、という意見は最もです。チャッピーだってジェイソンだって、その正体について、何か本当か嘘かわからないような、非現実な一応の解釈は付きますが、やっぱホラーといえば「続編」が付き物なので、最後は正体不明、生死不明(死ぬのか?)で何となくハッピーエンド(ハッピーか?)ですもんね。 しかし、それを許してくれないのが、ミステリのミステリたる所以であり、私はそんなミステリが好きです。 よって、この作品のミステリ的要素に着目すると、叙述トリック的にはごく普通。綾辻作品と思って読めば、他の作品を2編以上も読んだ方なら、このお遊び的トリックには、読み始めてすぐ気が付くでしょう。 だから、この点数です。まあ、やっぱり綾辻先生には、こういう作品に時間と労力を消費させたくないというのが一番ですね。だから厳しく。 |
No.3 | 6点 | 霧越邸殺人事件- 綾辻行人 | 2001/11/29 18:09 |
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これは大多数の皆さんの意見に賛成です。つまり、綾辻の代表作として挙げられるほど、この作品は良くはない、と感じます。 幻想性と論理性とは相反する性質ですが、私の好きなミステリには、この2つの要素が必ず、それもたっぷりと盛り込まれています。 これは、非常に矛盾している表現ですが、単純にその構成を説明すると、解かれるべき謎が冒頭に登場した際、この謎が非現実的かつ非科学的であり、不可思議であればあるほど、その幻想性は大きく、言ってみれば霧がかかったような状態といえます。そんな五里霧中の中、物語が進んでいく過程で、探偵(役)が劇中に鏤められた証拠や証言を元に、その霧を徐々に晴らしていき、最後には、探偵の論理の刃が、非現実で理解不能な出来事を、現実に理解可能な出来事へと変えていくのです。この場合、最後に霧が晴れて明らかになる面積が、事件全体に占める割合が大きいほど、そしてその晴らし方(論理性)が鋭いほど、その作品の「転」と「結」は見事に締まり、推理小説として面白い作品と皆に評価されるのではないでしょうか。 もちろん好みもありますので、幻想性云々は関係なく、論理性自体が大事と考える、かのクイーン作品の某も、誰が何と言おうと間違いなく傑作だと思います。 前段が長くなりましたが、要はこの作品は、その結末での霧の晴らし方が中途半端なのです。例えば100ある謎の1だけを、探偵といえど解決できない残された謎として、余韻作りをすることは、手法としては効果的な場合もあります。この解釈としては、事件を構成する99ある人為的意図的事実の中に潜む、たった一つの偶然だったというものであれば、それはそれで論理性の延長にあると考えることも出来ます。 しかしながら、この作品は、偶然性に頼りすぎていて、ミステリにおける論理性の重要さというものを軽視している傾向が見て取れます。偶然にも必然性は必要です。つまり、偶然でなくてはならない必然性ということですね。この作品は、舞台設定や全体的なモチーフに、徹底的に本格ミステリ風な色づけをした、単に雰囲気だけの作品であり、それは私の考えるミステリではありません。 しかしながら、雰囲気は十分に楽しめましたし、作者のミステリに憧れる姿勢には好感が持てます。もしかしたら、アンチミステリとして、既存のミステリに対するアンチテーゼを唱えたのではと些か勘ぐりましたが、よくよく考えてみると、作者は叙述トリックの冴えだけが際だつ、作品しか描いていないですし、やはり単に「物理トリック」のキレで勝負してきた過去の本格の作品群への憧れを踏まえて、己の能力内で、出来る限り似せてみようと頑張った結果なのでしょうね。 よって採点は、あくまで「本格風なアンチミステリ」としての面白さに着眼して、こんなもんです。 |
No.2 | 3点 | 人形館の殺人- 綾辻行人 | 2001/11/28 16:13 |
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下手な叙述トリックですね。 今まで散々大業叙述トリックを駆使しながら、4作目でこれが来ますか。大業と言えばこれも今までに勝るとも劣らない大業ですけど。 まあ、今までの作風を持って読者をミスリードさせるタイミングは良い。この大業自体の着想も良い。 しかし、はっきりいって面白くない。これは思うに、単純に小説としての出来が悪いのだ。見せ方、構成、文章力、そして特質すべきは、前述のミスリードが何も生かされないような見え見えの展開。この酷さには、作者の体調が悪かったのかなどと勘ぐってしまいたくなる。何故なら、その他の作品では、文章力でグイグイ引っ張られてきたのだから。 それと、ミスリード云々の話はあるが、これを館シリーズとして発表することにある意味凄さを感じる。何たってこれはシリーズレギュラーが誰一人登場せず(名前のみ)、実際にはそこら辺にある「○○ふるさと館」とか、単に少し大きめの屋敷みたいなのが舞台であり、館シリーズ設計者と何の関係もないのである。さらにこれが、シリーズに組み込む意図が思い切り外れてしまったのだから目も当てられない。 作者自身は何だか随分この作品に思い入れがあるらしいが、私としては、同じトリックでもこの作者ならもっと上手く作品化出来ると思うのだが…。 |
No.1 | 9点 | 十角館の殺人- 綾辻行人 | 2001/11/28 15:38 |
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言いたいことは山ほどあるが、絶対的に面白い。 1行で、本当に本当の1行で全てをひっくり返す。 この言葉、口で言うのは容易いし、新刊の帯広告でよくその手の言葉を見かけるが、こんなに見事に作品中で決めているのは、断筆先生の傑作「ロートレック荘事件」かこれぐらいではないだろうか。 叙述トリック自体、一昔前までは、卑怯でアンフェアな手法と罵られていたが、今では「叙述の怪物」折原一を筆頭に、数多く見かけるようになった。中には叙述トリックの方が、物理トリックより好きという人もいる。 読後感がかなり爽快なだけに、あまり文句は付けたくないのだが、「わざわざ島で殺人を犯す必要性」と「最後の殺人方法」については疑問が残る。 この2点は、この作品を作る上で、絶対的にネックとなるが絶対的に避けてはいけない部分だと思うが、大した根拠も説明もなく流されていた。 …だって、島に行ったって、犯人の殺人方法は島特有というわけでも何でもないわけで。逆に、犯人候補の輪が内地よりもの凄く狭まくなるし、困難なだけじゃん。被害者は読者じゃないし、当然、彼らにとって騙されるようなトリックは何一つないんだよ。 …それに、最後の2人になれば、犯人じゃない方は、絶対もう一人を疑うって。そこで殺すなんて至難の業よ。大業に加えてもう一つ、この点をクリアするトリックが必要だったんじゃないかな〜。いわゆる叙述トリックではなく、作中人物に向けたトリックを。 それにしても惜しむべきは、この作品が面白いということ。 この2点をクリアすれば、日本推理小説史に残る大傑作になったんじゃないかな。 |