皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ダークエンジェルさん |
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平均点: 7.50点 | 書評数: 2件 |
No.2 | 8点 | バイバイ、エンジェル- 笠井潔 | 2002/08/07 12:54 |
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なんとこんなガチガチの本格ミステリーが、島田荘司の「占星術殺人事件」よりも前に書かれたのだ。それだけでも驚嘆に値する。 一見ヴァン・ダイン風な古風な本格ミステリーに思えるが 、実際は一つひとつのパーツの精度がとてもたかく、それが寸分の狂いも無く組み立てられている。また全く関係の無いようにおもえるものが有機的に組み合わさっているのだ。その斬新さ、堅固さは初期矢吹駆シリーズにしかないものである。 笠井潔自身もいうように、「バイバイ・エンジェル」は連合赤軍事件によって体現されたテロリズムの意味を読み解くために書かれた。それは間違いないのだろう。小説の構成自体も明らかに最後の思想的対決がメインになっている。しかしその思想、観念の評価が即「バイバイ・エンジェル」の評価になるのではない。この小説が犯罪小説、観念小説ではなくミステリーとして書かれたことにこの作品の固有性が見出されるべきなのだ。ただ最後の場面のためだけにこれほどの完璧なミステリーが書かれたとうことによってのみ、その観念は説得力をもちうる。 「バイバイ・エンジェル」はあの瞬間にだけ奇跡的に書きえた。まさにそのとき笠井潔には何かが憑いていたのだろう。 |
No.1 | 7点 | 哲学者の密室- 笠井潔 | 2002/08/07 12:12 |
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笠井潔の作品にたいしてよく言われる「ミステリー形式と思想が分離している」とか「扱ってるテーマはいいんだけどミステリーとしてはちょっと」といった批評は処女作品「バイバイ・エンジェル」にたいしてはある程度妥当であるかもしれないが、この「哲学者の密室」にたいしては何の意味も持ちえない。なぜならこの小説はまさにその「なぜミステリー形式が要請されるのか」ということをテーマにしたものだからである。またともすればそれは安易なメタ構造をとりたくなるテーマであるが、笠井潔はあくまで本格ミステリーにこだわって書ききっている。 一連の矢吹駆シリーズの例にもれず、今作でも実際の人物をモデルにした登場人物が存在する。専門的に哲学をやっている人にしたら、納得できないところもあるだろう。実際「レヴィナスではハイデッガーは解体できない」という声もきこえる。しかし作中においてそれらは完結しているように思われる。 「哲学者の密室」は笠井潔作品の集大成なのだろうか。確かに日本のミステリー史上に残る傑作であることは間違いない。しかし笠井潔自身も含め多くの人が大作と認める「ドグラ・マグラ」、「黒死館殺人事件」、そして「虚無への供物」とは異なった感触がある。集大成というよりはむしろミステリーに対する笠井潔の態度表明であるように思える。「哲学者の密室」の真価は自作以降によってより示されるのではないだろうか。 |