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風車さん
平均点: 7.30点 書評数: 10件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.6 7点 暗いところで待ち合わせ- 乙一 2003/10/23 19:36
 ある男女二人が希望の見えない現実に耐えながら生きていたが、最後に少しだけ救われる話。
 ミステリとしては評価できない。何とも微妙である。ある登場人物が殺される場面で、ある技法を使っていたのだが、それは新鮮でよかった。だが、やや疑問が残るのは、主人公が何故に目の見えない女性の家に隠れねばならぬのか、という点。一応理由はちゃんと語られていたが、無理にそうする必要はないだろうと思った。疑われるだけなのに、敢えてそんな事をする愚か者は現実には絶対にいないと思う。小説だから許されるのかもしれないのだが、折角リアルな設定にしたのだから、もっと現実味を帯びた理由付けをしてほしかった。
 さてそんなわけで、ミステリとしてはやや不満が残るのだが、「小説」として見れば非常に面白い。男の描写はともかく、目の見えない女性の描写が非常に上手かった。何故ストーブの温度を下げたぐらいで不法侵入者を「いい人」だと認識するのかは謎だったが、それ以外の感情描写、特に最後の二ページは、自分が救われたような気がして、すっかり感情移入していた自分に気付いた。

No.5 3点 暗黒童話- 乙一 2003/10/23 19:22
 この作品において氏は、何故ここまでグロさを出す事を追求したのだろうか。はっきり言って、このグロさは殆どストーリーと絡まないから要らない。読む人によっては、気持ち悪いだけだし、本を手放す原因にもなるだろう。
 氏はこの作品で初めて長編を書いたという。だから慣れていないのがひしひしと伝わった。「短編」の設定が引き伸ばされて長編になっただけだから、全体的に、氏の作品の大きな特徴であり、また持ち味でもある、読者の感情に訴える「強烈さ」がない。終始薄味。
 また、いつもは許せる不条理な設定も、今回に関しては疑問が残る。トリックも、長編を締めくくるモノとしては小技すぎる。
 思うに氏は、「夏と花火」や「天帝妖狐」の頃の、いわば天性の成せる、滲み出るような純粋な怖さを目指したが、下手に技巧に頼りすぎた結果、何とも中途半端な作品になってしまったのではないだろうか。もう少し何とか出来ないだろうかと思う作品だった。
 だが慣れてきたのだろうか、この後に書いた長編は、実に上手い「長編」になっている。しかしこの作品に関しては、誰かに薦められる程いいとは思わない。

No.4 8点 ZOO- 乙一 2003/09/29 19:58
 中々面白い。短く薄味な作品が多いが、それぞれに個性があり、乙一しか書けないだろうなこの作品、と思った作品もいくつかあった。上手いと思う。
 特によかったのは「SEVEN ROOMS」。これは実は既に読んでいた作品だったのだけれど、これに収録されて非常に嬉しい。これほど読ませ、感情移入してしまう作品には中々お目にかかれない。結末がどうなるのか、読みながら色々自分も考えてしまったが、あの悲しいラストは確かに考え得る最良の選択肢だと思う。自分は思いつかなかったが。それにしても面白い。
 逆に表題作等、十編中四編は微妙だったのだけれども、その微妙さを跳ね飛ばすぐらいあの作品はよかった。
 しかし天才と冠されるのが大袈裟でないと思った作家など、今のところ氏以外には居ないなあ。

No.3 5点 GOTH リストカット事件- 乙一 2003/09/29 19:45
 つまらなくはない。驚きはあった。だが、乙一作品に共通する「深み」が、今作ではあまり感じられなかったのが残念。ラストに重点を置きすぎていたのではないだろうか。そのため、物語の中に読者を入り込ませてしまうような文章装置も、今回はあまり機能していなかったような気がする。
 さて、作品個々で見ると、「犬」は個人的には、ラスト、とってつけたような気がしてやや許せなかった。「暗黒系」「記憶」「声」は乙一が書かなくてもよさそうな作品で、氏特有の味が無かった。
 でも「土」と「リストカット」は面白かった。特に「リストカット」は、非常に考えられていて、伏線の張り方も巧妙だと思った。さすが乙一、と心中で唸ってしまった。
 まあ、これは個人的な意見。面白いと思う人が沢山いるのも事実。でも自分の全体評価は、五点ですな。

No.2 8点 夏と花火と私の死体- 乙一 2003/09/29 19:29
 自分が乙一作品にはまった契機となった作品。表題作の、序盤のとんでもない描写に驚き、震えてしまった。だが表題作に関してはそれ以外、大して怖かったわけでもなく、感情を昂ぶらせようと意図している場面でもそれほど心を動かされはしなかった。それは多分、結果――結末という意味ではない――が判っていたからだろう。この作品だけなら六点ぐらいだった。
 本当に楽しめたのは、その後の「優子」という作品だ。これには本当に驚いた。乙一の巧みな技法をよく知らなかった、つまり免疫のなかった自分は、見事にやられてしまった。新鮮で、美しかった。だからこの作品は文句なしで十点だ。
 平均して八点としました。

No.1 9点 死にぞこないの青- 乙一 2003/09/29 19:19
 この作品の主人公の思考回路に入り込んでしまった。自分も小学生の時分、似たような脆い性格だったからだろう。乙一という作家はどこまで素晴らしい作品を読ませてくれるのか、読みながらずっとそう思っていた。ラストに関してはやや許せない部分もあるのだが、あまりに悲しい中盤にすっかり同調してしまったため、大満足。

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