皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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フリップ村上さん |
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平均点: 7.73点 | 書評数: 26件 |
No.3 | 10点 | 姑獲鳥の夏- 京極夏彦 | 2003/03/07 20:44 |
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再読によるコメント。 量産型とは設計思想からして違う、最強にして突出した『京極堂シリーズ』のプロトタイプ。 発表より9年。あるいは初読では気のつかなかった瑕疵が目に付くかと思いきや、改めて本作の突出した構築美に酔わされる結果となった。 確かに《密室からの人間消失》で引っ張ってあのオチでは、納得がいかぬと立腹する向きもわからぬではないが、言うなればそれさえも《謎の解明》以前に《事件のありよう》を明らかにすることが眼目であるという本作の特殊な構成を隠蔽するための(相当ひねくれて難易度の高い)ミス・ディレクションなのだと理解しては如何だろうか? 本作においては、全ての登場人物、全てのセリフ、全ての設定が《世界の見え方の差異が生み出す悲劇の連鎖》という《事件のありよう》を浮かび上がらせるためのパーツとして機能している。常識であるとか物理法則であるとかはこの際無視して、物語の世界に身を沈めれば、恐ろしいまでの精密さで破綻なく組み立てられた《ロジックの美しさ》に圧倒されることだろう。 キャラクターの魅力が前面に立って物語を牽引していく次作以降とは完全に似て非なる独自世界。怪談・SF・哲学・ミステリ・エロス・民族学。全てがないまぜとなった幻惑感は、それこそが《京極印》と認識される以前ならではの、原初的混沌に満ちあふれている。 日本ミステリ史上五本の指に入る屈指の大名作という確信は強まるばかりである。 |
No.2 | 10点 | 姑獲鳥の夏- 京極夏彦 | 2002/07/19 22:13 |
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はっきり言ってとんでもない大傑作。 チェスタトン、天城一ばりのシニカルな認識論トリックを中心にすえて、このボリューム、めくるめく物語。 超能力探偵という物理法則を無視した設定を持ち込むことで、一見ミステリに背を向けていると思わせて、「実は超能力があるからではなく……」と明かされる真相の凄まじさ。比喩でなく腰を抜かしそうになったものだ。 構成の巧みさ、世界観のこなれかた、キャラクターの魅力等々、小説としての完成度は後に続くシリーズにおいてますます深まってゆくとになるが、これはこれで、独立した作品として、ある意味別の地平に屹立する奇跡のミステリといえるのではなかろうか。 |
No.1 | 8点 | ルー=ガルー 忌避すべき狼- 京極夏彦 | 2002/07/17 22:59 |
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販売戦略的にライトノベルを書いてみたというより、他ならぬ京極氏自身が、アニメ・サブカル文化における《闘う美少女》もののひそかな愛好者だったとみるのも充分に「アリ」かも。 それほどまでに楽しんで書いてます。 妖怪ものにおける膨大なウンチクは、確かに当人の血肉となっているだけの凄み、説得力を感じさせるが、所詮は「書物で得た知識」。未来を舞台にした、つまりはイマジネーション一本勝負の世界で、同じクオリティの世界構築を求めるのは酷というものかも。 それよりも私が感動したのは、『赤ずきん』の本歌とりというやや安直な構成を持つこの作品が、「どうして人を殺してはいけないのか?」という問いかけに対する、それはそれで誠意あふれる大人側からの回答としても読み取れるという点。そういう意味でも、若い読者層にターゲットを絞ったのは正解なんだろうな。 |