皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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フェノーメノさん |
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平均点: 5.79点 | 書評数: 19件 |
No.2 | 6点 | 時空犯- 潮谷験 | 2022/01/10 21:40 |
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前作よりは好み……かな。タイムリープ(ループ)を題材にしたミステリは数あれど、こういう妙な理屈をこじつけてくる作品にはあまりお目にかかったことがないのでそういう部分での創意工夫は興味深く読めました。
ただ前作同様引っ掛かる点と前作同様の弱い点があるのであまり推す気にはなれないのが正直なところ。 以下ネタバレでございます。 うろ覚えで書くので用語等間違えているかもしれませんが悪しからず。 中盤で犯人が研究所を襲撃して鏖にした際、なぜ爆弾を使わず閃光弾を使ったのか、またなぜ研究所の火事を消火したのか、というのが問題になりました。これに対し、研究所にある何かを破壊したくなかったからだ、それを壊すのがループのトリガーになっているんだ、と主人公は推理します。こうして虹の欠片(だったかな?)を壊す=ループのトリガーと気づいた主人公は虹の欠片を破壊することでもう一度ループを引き起こします。 この時点で、作品内の論理としては「犯人は虹の欠片を壊したくなかった」=「もうループを起こす気はなかった」となります。 然るに、終盤で犯人が雷田くんと判明し、動機も明らかになった際、まだループを起こす気だった、と語られます。 これは明らかに犯人の思考として先に語られた推理と矛盾します。この部分は大前提のはずです。前提をあえて崩すなら、それ相応のフォローは必須のはず。しかしそのフォローが一切ありません。 まだループを起こす気なら、虹の欠片が壊れたって構わなかったはず。どうせ壊さなきゃいけないんだから。だったら、なぜ爆弾を使わなかったんでしょう? なぜ火事を消火したんでしょう? もちろん、理屈はいくらでもこじつけられます。爆弾を使っても確実に壊せるとは限らない。爆発で崩れ落ちた瓦礫に金庫が埋もれるだけに終わってしまう可能性もある。そうなることを危惧し、自分で確実に欠片を壊すために爆弾を使わなかった。ついでに火事も消火した、等々。 しかし、だとしたらその点についても作中でちゃんと説明すべきではないでしょうか。それが無いのは、単なる作者の見落としを勘繰られても仕方ないと思います。 また前作同様、犯人当て部分も物足りないです。 論理を突き詰めるでも複数のアイデアを組み合わせるでもなく、ひとつのアイデアを軸に消去法を行うというのはミステリの構造としてかなり寂しく映ります。というか、「犯人特定の要素」がひとつしかないのは消去法といえるのか?と思います。仮にも消去法による犯人当てを試みるなら、最低二つ三つの「犯人特定の要素」を用意して然るべきではないでしょうか。形ばかりの消去法に思えてしまいます。 小説としては前作とは違うタイプの作品ですが、ワンアイデアの犯人当てがミステリ部分の核になってる辺り、ミステリとしてはかなり似通っているように感じました。次もこの路線でいくなら、もっと犯人当ての部分に力を入れてほしいです。だって本格ミステリなのですから。 それと前作もそうでしたが、悪意がストーリーの根底にありながら最終的には善意の話になる辺りも、ガワが違うのに読後の印象が似通ってしまっている要因かと思います。作風と言ってしまえばそれまでですが、とはいえもっと様々な手札、もとい引き出しの中身を見せてほしいところです。 |
No.1 | 5点 | スイッチ 悪意の実験- 潮谷験 | 2022/01/10 19:10 |
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他人の人生を破壊するスイッチを渡されてうんぬんという設定からもっとファンタジー寄りの作品かと思ったが、至って現実に即した内容で、メフィスト賞らしい尖りを期待した身からすると少々拍子抜けな至極スタンダードな造りのミステリとなっております。
以下ネタバレ全開ですので悪しからず。 それなりにまとまっているとは思いますが、ちょっと文句をいうと、そもそもアリバイトリックの必然性が感じられないのが引っ掛かります。 読んでから間が空いてるので少々記憶が覚束ないのですが、これ、誰のためのトリックなんですかね? 警察じゃないですよね? じゃあ実験の参加者? でもわざわざこんな手間かけて参加者に向けてトリックを弄する必要あります? そもそもみんなで口裏あわせをして誰か一人が捕まる覚悟なら、余計な小細工をする必要ないのでは? ここの説得力が感じられなかったです。 アリバイトリックと称しながらただ口裏あわせを補強する効果しかないから、犯人サイドのメリットが感じられませんでした。 スイッチを押したから事件が起こったのではなく事件が起こったからスイッチを押した、という連城的?な逆転の構図がそもそもの発想としてあったのでしょうし、その目の付け所自体は面白いと思うのですが、そこにばかり目がいって全体の造りがチグハグになっていると感じました。また犯人当ての部分も、途中までは期待をもたせる流れながら、最終的にはもうひとつキレが鈍かったように思います。 |