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ROM大臣さん
平均点: 6.07点 書評数: 135件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2 6点 雪の階- 奥泉光 2023/09/07 13:48
昭和十年、女子学習院に通うう学生が親友の死の真相を追求する物語は、推理小説的興趣に事欠かないし、武田泰淳「貴族の階段」の本歌取りともいうべき設定で、兄と妹、女同士の関係、セクシャリティの主題、重要な場面での睡眠薬の使用など、武田作品を踏まえている。
文学的には心霊音楽協会、霊視能力などオカルト的な要素も満載して、現実と虚構の境界を著しく浸食していく点と、自由自在に視点が移動する精緻かつ濃密な語りは至高の技巧だろう。

No.1 8点 『吾輩は猫である』殺人事件- 奥泉光 2021/06/14 14:54
一冊丸ごと夏目漱石のパロディというか文体の模写。特に感心したのは、メインプロットとは関係のない益体ない、どうでもいいような与太話がキチンと書かれているところ。
プロの読みのすごさというか、「吾輩は猫である」の作中、漱石が適当に描いたために生まれた謎を再構成してミステリに仕立てているところ。
全体の構成もうまい。漱石が、初期には「吾輩は猫である」のような精神的に安定した文章を書きながら、晩年にはなぜ「行人」のように不安を漂わせた作風になっていったのか、そういう漱石文学の全体の謎もうまく盛り込んでいて得心がいった。

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