皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ことはさん |
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平均点: 6.28点 | 書評数: 254件 |
No.5 | 7点 | へびつかい座ホットライン- ジョン・ヴァーリイ | 2024/08/16 16:16 |
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「八世界」シリーズは、相変わらず特殊な世界設定を使って、まあ奇妙な話が展開する。これを最初に読んだら、世界設定の把握に注力させられて、筋を追うだけでいっぱいいっぱいだったと思う。本書は、短編を読んで、世界設定を把握してから読んだほうがいいと思う。
いまでは、ラノベやアニメに類似の設定/展開も多いけれど、この作品が先駆けのひとつなのだろう。ラストは、「ファースト・コンタクト」テーマに収斂して、じつに面白い。「残像」と同様、ある有名作の影響を感じた。 |
No.4 | 8点 | ブルー・シャンペン- ジョン・ヴァーリイ | 2022/06/19 01:04 |
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「プッシー」と「タンゴ・チャーリーとフォックストロット・ロミオ」以外は既読。この2作を目当てで読んだ。
「プッシー」 ちょっと切ないSF話。いい話だけど、これがヒューゴー賞/ローカス賞受賞はちょっとできすぎ。 「タンゴ・チャーリーとフォックストロット・ロミオ」 これはいい。 最初はどういう状況かわからない。説明抜きで現場の描写がされる。それから少しずつ、どこで、なにが起きていて、以前になにがあったのか、これからどうなりそうなのか、見えてくる。状況が見えてくるにしたがい、どんどん深刻さがわかってくる。そこからはスリリング。一気読み。最終盤はかなり深刻な状況なのに、描写は淡々としていて、これもヴァーリイの味だ。これが絶版か。残念。 解説の「あらゆる悲劇がTVカメラの眼でとらえられ(中略)提示される、今の現実の世界の苦さ」というのは秀逸。解説が書かれたのは1995年だが、これは今のほうが皮膚感覚でわかる。 また解説に、「ブルー・シャンペン」の続編とあるが、メインストーリーは「ブルー・シャンペン」と全然絡まず、バッハ以外にも共通の登場人物が登場して「ブルー・シャンペン」の後日談が近況報告のように少しあるだけなので、続編といっても、映画のシリーズ(007シリーズでQとかMとかは毎回でるといったような)ものの第2作というほどの感覚だろう。シリーズ第3作がないのが残念だ。 短編集全体としては、これも『逆光の夏』と同レベルのベスト盤といってもいい。個人的には「残像」がもっとも好きなので、『逆光の夏』を押すけれども。 |
No.3 | 7点 | さようなら、ロビンソン・クルーソー- ジョン・ヴァーリイ | 2022/06/19 01:01 |
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短編集『逆光の夏』がよかったので読んでみた。〈八世界〉全短編2。
「びっくりハウス高価」 これは描写を楽しむ話だろう。ストーリーは好みではなかった。 「さようなら、ロビンソン・クルーソー」 書評済みなので略。本短編集のベストの1つ。 「ブラックホールとロリポップ」 メインの設定が途方もない。そこから展開されるサスペンスフルな1編。本短編集のベストの1つ。 「イーノイノックスはいずこに」 1巻の「歌えや踊れ」で説明された”共生者”の冒険譚。本作は「歌えや踊れ」の後のほうが”共生者”のイメージがわいていいかも。 「選択の自由」 ”変身”がまだ日常になっていない時代の人々の戸惑いを描いた話。現在のほうが、より現実のジェンダー問題とつながるというのは、さすがの視点というべき。 「ピートニク・バイユー」 異世界での法の問題が面白い。 以上だが、レベルは高いが、やはり『逆光の夏』がベスト盤だったのだと思う。 |
No.2 | 7点 | 汝、コンピューターの夢- ジョン・ヴァーリイ | 2022/06/19 00:59 |
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短編集『逆光の夏』がよかったので読んでみた。〈八世界〉全短編1。
「ピクニック・オン・ニアサイド」 少年の冒険譚。ただし舞台は月。ほろ苦い青春物の味わい。 「逆光の夏」 書評済みなので略。 「プラックホール通貨」 遠い宇宙空間でのぎりぎりでの交流を描いた話。孤独感と切なさがいい。 「鉢の底」 『逆光の夏』の解説にあった「太陽系名所案内の趣」がもっともでている1編。 「カンザスの幽霊」 人体改造などの〈八世界〉の設定がひねって使われたサスペンス風味の作品。本短編集のベスト。 「汝、コンピューターの夢」 サイバーパンク風の、おかしいような怖いような1編。どこか既視感があるが、本作の発表が1976年ということを考えると(『ニューロマンサー』が1984年)、これが最初期の作で、以降、類似作が作られたのだろう。 「歌えや踊れ」 ”共生者”という設定を掘り下げた話。”共生者”については、次巻でまた使用される話がでてくる。 以上だが、レベルは高いが、やはり『逆光の夏』がベスト盤だったのだと思う。 |
No.1 | 9点 | 逆行の夏- ジョン・ヴァーリイ | 2021/09/25 13:11 |
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初ヴァーリイだったが、これは傑作。外れ無し。きっとヴァーリイのベスト盤といっていい選択なのだろう。
基本、全作品にアイデンティティ/コミュニケーションの問題があり、(発表年は70-80年代だが)それが今でも、まったく有効であり、面白い。 SFはかじる程度しか読んでいないが、この年になってオールタイム・ベストの入れ替えを考える本に出会うとはおもわなかった。特に「残像」は、(本でなく)短編で選ぶならば、私のSFオールタイム・ベスト短編の1つとなった。 1作ずつふれてみよう。 1. 逆行の夏: ネビュラ、ローカス賞ノミネート 八世界シリーズ。解説によると本シリーズは太陽系名所案内の趣があるとのことだが、水星の灼熱の世界が描かれる。そこで、八世界特有の性/親子の問題が、日常の問題として描かれる。青春小説の味わいもあり、趣深い。 2. さようなら、ロビンソン・クルーソー: ローカス賞ノミネート 八世界シリーズ。冥王星のディズニーランド(地球環境を模した地下世界)が舞台。ここでも八世界特有のアイデンティティが物語の根幹にあり、恋愛/青春小説の味わいもある、充実した話。後半のシーンの壮麗な描写もよい。 3. バービーはなぜ殺される: ローカス賞受賞、ヒューゴー賞ノミネート 同じ容姿の人物を自由に作れる設定(八世界と共通)での、殺人事件。このような状況で、なにが”普通(アイデンティティ)”なのかを考えさせられる。 4. 残像: ヒューゴー、ネビュラ、ローカス賞受賞(トリプルクラウン) 目が見えない人の閉鎖コロニーを舞台にした、一種のファンタジー。コロニー内で行われている独特のコミュニケーションが強烈。ラストはある有名作を想起させるが、私はその有名作では「気持ち悪さ」「不可解さ」をまず感じたが、本作では「説明できない感動」を感じた。傑作。 5. ブルー・シャンペン: ローカス賞受賞、ヒューゴー賞ノミネート 障害をもった主人公(視点人物の対になる人物)の、特殊な道具を使用したコミュニケーションと生き様を描く。世界設定は楽しげな空間だが、ストーリーはずしりと重い。 6. PRESS ENTER ■: ヒューゴー、ネビュラ、ローカス賞受賞(トリプルクラウン) SFホラーと分類するのが適当といっていい。これだけは、ホラーに寄せたためか、少し古びてしまっている気がする。それでも、一種のコミュニケーションを主題にしたホラーで、日本の有名作を想起させられた。トリプルクラウンは出来すぎかな。逆にこれ以外が古びていないことがすごいといえる。 |