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まだ中学生(仮)さん
平均点: 6.58点 書評数: 109件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.109 7点 グレイス・イヤー 少女たちの聖域- キム・リゲット 2024/04/14 21:56
理不尽に晒される女性たちとそれに抗う少女を描いたディストピア小説。
女性に男を惑わせる魔力があると信じられる土地で受け継がれる、十六歳の少女が森の奥深くに送り込まれる「グレイス・イヤー」という風習に参加したティアニーは生死を賭けた戦いに挑む。
男女が分断され、女性が一方的に不当な扱いを受ける現代への風刺に圧倒されるとともに、あくまで戦いを抜こうとする主人公の姿に胸を打たれる。

No.108 5点 姫君と侍女 明治東京なぞとき主従- 伊勢村朱音 2024/03/26 22:02
時代は明治初期、絵を描くのが好きな少女の佳代が、奉公先の旧大名家の姫、雪姫に侍女として仕えることに端を発する。
天真爛漫な佳代と、沈着冷静でどこか物憂げな美少女雪姫の心温まる交流と、明治初期の空気感を反映したトリックを有するバディミステリ的展開が軽快に綴られている。

No.107 5点 最後の語り部- ドナ・バーバ・ヒグエラ 2024/03/02 21:23
彗星の衝突が迫る地球を逃れ、植民宇宙戦へ乗り込んだペトラ。語り部になりたいペトラは、冷凍睡眠中に民間伝承や神話を習得するはずだったが目覚めると。
反乱でディストピア化した宇宙船で、地球の記憶を持つのはペトラひとりだけ。それでも祖母から受け継いだメキシコの伝承を、人心を掴む武器にして生き抜こうとする。SFの枠組みの中に、「語りの力」というファンタジーの源泉を流し込む。そうして見えてきたのは希望だ。

No.106 7点 嘘の木- フランシス・ハーディング 2024/02/07 21:09
高名な博物学者の父に嫌疑がかかり、イギリス本土から家族で人里離れた島に身を隠した十四歳のフェイス。だが父が謎の死を遂げ、少女は敵だらけの島でひとり、真相を暴く決意をする。
嘘を養分にして育つ木をめぐり、科学と宗教の関係という西欧社会の根源的問いに斬り込みながら、ヴィクトリア朝時代の女性の抑圧を逆手に取り、従来の少女探偵小説を現代的に書き換えたファンタジー冒険小説。

No.105 6点 ファンタスティックガール- キム・ヘジョン 2024/01/19 21:33
少女の目を通して韓国の現代社会の生きづらさと、そこからの解放を描き出すタイム・トラベルストーリー。
主人公は、モデルになるためには日々の厳しい食事制限や美容のための労力を惜しまない十七歳の少女オ・イェスル。容姿は美しいが、太った人間への蔑視を隠そうともしない傲慢な人物。そんなある時、彼女の乗る飛行機が乱気流に巻き込まれ、彼女だけ十年後の世界に飛び、そこで自分とは思えないほど太り公務員を目指す未来の自分と出会う。
当然激しく反発する過去のイェスルだが、未来の自分がたどった道を知るうちに、誰から見ても「美しくあること」の難しさ、モデルになる理由、幸せであることの意味など、様々な概念の再構築を迫られる。
SF的に特筆すべきところはないが、多様性をテーマにしたシンプルで力強い物語。

No.104 7点 エヴァーラスティング・ノア この残酷な世界で一人の死体人形を愛する少年の危険性について- 高橋びすい 2023/12/25 21:12
経済と技術が進んだ先進国が作るユニオンと、足りない経済力を死体人形と呼ばれる一種のゾンビの活用で補おうとした発展途上国が加盟するアライアンスが激突。日本は死体人形の技術開発を担ったこともあってアライアンスに参加し、ユニオンによって侵攻を受けて千葉に拠点を作られていた。
首都圏が落とされるのも時間の問題となる中で、アライアンスからサクトという名の少年と、ノアという少女をはじめとした死体人形がレジスタンス勢力を支援した反攻に出ようとする。生前の記憶を持っていない死体人形は、破壊された再生される際にもその時の記憶を失ってしまう。
戦友のサクトに親愛の情を抱きながらも、ノアが死地へと送り込まれる展開の残酷さに涙したくなる。一種の細菌によって動かされている死体人形に、人間と同じ自我はあるのかといった哲学的な問いかけも深い。

No.103 6点 水の剣と砂漠の海 アルテニア戦記- 森りん 2023/12/04 21:36
文明崩壊後に砂漠化した世界を舞台にしたファンタジー。帝国に滅ぼされた少数民族の少女シリカが、あらゆる生命を凍らせる力を持つ秘宝・水の剣を手に入れた。
瞳が虹色に光り、死に至る虹染病、シリンだけが操れる水の剣など物語を動かすギミックは魅力的。温かく柔らかい読み心地。世界の構築にも奥行きを感じる。

No.102 6点 雨月先生は催眠術を使いたくない- 奥野じゅん 2023/12/04 21:31
アプリ上で根も葉もない陰謀論を展開する人気配信者。彼に入れ込む友人を案じた京橋大学二年生の織辺玲は、心理学科准教授の有馬雨月に相談を持ち掛ける。
雨月は人の記憶や秘密を引き出す能力を持ち、その代償として気力や体力を消耗するのだが、相手が曖昧に覚えている事柄を正確に言わせることが出来る。
雨月は、この催眠術に似た力を利用しつつ、憎んでもいる。重い過去を抱えたひねくれ者の彼を、高校時代からの友人で刑事の不破修平と、なぜ雨月の力が通用しない天真爛漫な玲が支える。キャラクターの掛け合いが魅力的で、続編も期待できそうだ。

No.101 7点 夕凪修理館と秘密に満ちた客人たち- ココロ直 2023/11/14 20:46
小学五年生の「ささみ」こと佐々木美結は、人間に大事にされてきた「物の声」が聞こえるという不思議な能力を持っている。愛用していたぬいぐるみを直してくれたアンティーク品の修理店「夕凪修理館」店主の手伝いを始めたささみは、「物の声」と依頼人の言葉に矛盾があることに気付いていく。
翼の折れた飛行機模型の持ち主が本当に伝えたかったことは何か。「人形が泣きやむようにしてほしい」という依頼に隠された悲しい真実とは何か。ささみと店主は客人たちの秘密にどう迫っていくのか。
無愛想な店主とささみが次第に力を合わせていく様子に心温まる謎解き短編集。

No.100 7点 魔女のいる珈琲店と4分33秒のタイムトラベル- 太田紫織 2023/11/14 20:39
ピアノが得意で、かつて神童とまで呼ばれた女子中学生の陽葵。英国に留学したが、事故で指を怪我したため帰国し、札幌市で暮らす。そこには不思議な能力を持つ魔女がいた。
陽葵が時間を遡ることが出来る喫茶店の店主・時花と共に、様々な人々の過去に立ち会う。時花は、後悔を抱えた人を過去に連れて行き、4分33秒の間だけ「やり直し」のチャンスを与えられる。
心残りを解消し、未来を変える人もいれば、うまくいかず同じ過去を繰り返す人もいる。当初は見守るだけだった陽葵も、終盤には難しい決断を迫られる。優しくも苦みを含んだ世界観に引き込まれるファンタジー。

No.99 7点 are you listening? アー・ユー・リスニング- ティリ―・ウォルデン 2023/10/25 22:38
前半は現代米国を舞台にしたヤングアダルト小説そのままの展開。主人公は家にいられなくなった、自称18歳の女の子ビーと20代の初めから働き続けたあげく「今は麻痺したみたいに動けなくなったって」という車の整備工で27歳の女性ルー。
二人はルーの車でテキサス州を走ることになるのだが、お互い自分のことはあまり話さず、ぎこちない関係が続く。やがて少しずつ打ち解けそうになった時、不思議な猫を拾ったことがきっかけで、不気味な連中に追いかけられるようになる。
こういった流れに乗って、空や町や道など、まわりの情景が生き物のように動き、色がダイナミックに変わっていく。特に中盤当たり、派手なカーチェイスの場面から、二人が理解し合う廃屋のプールへの転換は息をのむほど見事。相手を思う気持ちが言葉にも絵にも美しく映し出される。「小説+絵」の楽しさがここにある。

No.98 7点 ペピーク・ストジェハの大冒険- パヴェル・チェフ 2023/10/25 22:26
いつも同級生にいじめられている男の子が青い石を拾い、青い本を手に入れ、転校してきた青い目の少女に出会うところから物語が始まる。
少女と町を冒険するうちに男の子は少しずつ自信を持つようになるのだが、川に張った氷の割れ目に落ちて肺炎になってしまい、一カ月寝込んで学校に戻ると、少女は消えていた。やがてその子から助けを求める手紙が。男の子は、目的地の灯台へ。
ある意味、子供っぽいファンタジーが、額縁に入れれば一枚の絵として飾られそうなくらい見事に描き込まれた絵でつづられていく。吹きだしの言葉にしがみついていないと、目眩のするような深みに引きずり込まれそうな気さえする。これこそ、グラフィックノベルならではの魅力だ。

No.97 7点 放課後レシピで謎解きを うつむきがちな探偵と駆け抜ける少女の秘密- 友井羊 2023/09/30 21:50
夏希は高校二年生。陸上部を辞めた彼女は、同級生の結と調理部に入る。結は極度のあがり症で、人との会話も一苦労。二人が日常で遭遇する料理が絡む事件の謎を解き明かす中で、二人と周囲の人間関係も変わっていく。
猪突猛進タイプの夏希と、おとなしい結。対照的な二人のバディものであり、二人が事件と向き合うことで周囲と向き合い、他者との関係を、そして自身を変えていく物語。
料理のプロセスが、登場人物たちの抱えた悩みや秘密とも重なり合い、謎解きを支える。真摯なテーマを扱いつつ、爽やかな読後感を残す。

No.96 9点 ラブカは静かに弓を持つ- 安壇美緒 2023/09/06 22:06
舞台は現代日本。主人公の橘は、音楽著作権管理団体に勤め、ごく平凡に日々の業務をこなしている会社員。
ある時、上司から呼び出された橘が、音楽教室への二年間の「潜入調査」を命じられるところから、物語の幕が開く。調査の目的は、著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。
人と人とが出会い、時を重ねて生み出される信頼という感情。そのかけがえのなさが、チェロの深い響きと共に真っすぐに胸を打つ。橘が最後に何を選び取るのか、ぜひ見届けて欲しい。

No.95 6点 ウィンダム図書館の奇妙な事件- ジル・ペイトン・ウォルシュ 2023/08/10 23:42
イモージェン・クワイの本職はカレッジ付きナースだが、学寮長から学生、時には警察に至るまで頼られ、ほとんど悩み事相談係になっている。
学生が図書館で変死を遂げ、折しも資産家からの寄付を受ける直前とあって、何よりもスキャンダルを恐れる学寮長が、イモージェンのもとに駆け込んでくるところから物語は始まる。
運営に四苦八苦する貧乏カレッジの苦労や、いじめやドラッグ、階級の問題など、現代イギリスの抱える問題がこの物語にも及んでいるが、この物語の主人公は、あくまで「ウィンダム図書館」なのだ。イモージェンが大切なものを手放すラストはビターだが、少し光明も感じさせてくれる。

No.94 8点 アディ・ラルーの誰も知らない人生- V・E・シュワブ 2023/07/19 22:11
一七一四年のある日、二十三歳の女性アディ・ラルーは強制的に結婚されそうになり、神々に自由と時間が欲しいと祈ったばかりに、無限の生と誰にも記憶されない呪いを与えられてしまう。家に帰っても両親すら彼女のことを覚えておらず、金を稼ぐことも難しいので、最初は売春でしのぐなど苦難の連続。だが、彼女は屈服せずに生活の基盤をととのえ、身近な芸術家たちと話をし、時にモデルになることで、キャンバスに、音楽に、物語に、自分自身の生きた証を織り込んでいく。
そうして三百年の月日が経った二〇一四年の古書店で、彼女は何日経っても自分のことを忘れない、奇跡の男性と出会う。なぜそんな男性が現れ、彼だけが記憶できるのか、と様々な疑問が湧いてくるが、読み進めるたびに答えが与えられていく。一度読み始めたら止められない推進力を持った、忘れられない物語だ。

No.93 7点 捜し物屋まやま2- 木原音瀬 2023/06/25 21:28
占いで捜し物をする間山和樹と白雄の兄弟、ドルオタの徳広弁護士、元ひきこもりの三井が織り成す、少し怖くて愉快な事件簿「捜し物屋まやま」シリーズの第二弾。
小説家でもある和樹の担当編集者・松崎伊緒利の幽霊騒ぎから始まる。引っ越した新居で女の幽霊を見てしまった松崎。どうも前にその部屋に住んでいたシングルマザーで、今は失踪中らしい。彼女の小学生の子供は児童養護施設に預けられているという。その子から「ママは死んでない、ママを捜して」と頼まれたのだが。
コミカルな乗りで、実に楽しい。だが目を引くのは、その楽しさの中に忍び込む「異質なものの排除」の描写だ。しかし、その線を消したり飛び越えたりするのもまた人なのだと、本書は力強く且つ軽やかに伝えてくる。「エピローグ1」には感動。

No.92 8点 神様ゲーム- 麻耶雄嵩 2023/05/30 23:28
ヒーローの否定、生々しい動機、衝撃的な結末、ネガティブな不条理感など、一部の子供には毒が強すぎるきらいもあるが、これが巧みに作られた本格ミステリであることは明らかだ。
この作者らしい過激な逸脱ぶりは、良くも悪くも強烈なインパクトがある。

No.91 7点 水の時計- 初野晴 2023/05/06 22:31
童話の見立てになっている。童話とはオスカー・ワイルドの「幸福の王子」。だが、作中で起こる事件は見立て殺人などではない。なんと見立て臓器移植。貧しい人々のために自らのサファイアの瞳や全身の金箔を与えるという「幸福の王子」の行為は、云われてみれば、まさに臓器の提供に違いない。現実にはあり得そうもないはずの見立ての手法が、ここでは臓器移植というぎりぎりの現実を描くための武器になっている。
まさに本作における、脳死と診断されながら意識を保つ少女と暴走族の少年の関係は、幸福の王子とその瞳や皮膚を命懸けで運んだツバメとの愛の見立てにもなっている。その絆の煌めきに衝撃を受けた。

No.90 7点 深夜0時の司書見習い- 近江泉美 2023/04/09 22:19
物語の舞台は、本を読んだ人の「登場人物」や「著者」に対するイメージが反映された架空の人物が出没する暗く怪しげな「図書迷宮」。ただしそれは深夜の話で、昼間は小さな私立図書館だ。
そこに夏休みの間ホームステイすることになった主人公は、図書迷宮を復興する役目をいやいや引き受けたのだが、そのためには寂れた市立図書館の利用者を増やし、本を読んでもらわなくてはならない。
高校生でベストセラー小説を一作出したきり姿を消した正体不明の作家と図書迷宮の関係など、いくつかの謎をめぐりながら、ユーモラスかつスリリングに物語が展開する。有名作品の世界を巧みに取り込みながら、謎解きもきれいに決まっている。

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まだ中学生(仮)さん
ひとこと
いい大人ですが、ティーンエイジャー向けの小説を読むのが好きです。そのような作品を中心に感想を投稿していきたいと思います。よろしくお願いいたします。
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採点傾向
平均点: 6.58点   採点数: 109件
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