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麝香福郎さん
平均点: 6.84点 書評数: 58件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2 7点 インビジブル- 坂上泉 2023/07/15 22:15
昭和二十九年の大阪を舞台にした、ユニークかつハードなミステリ。戦後に新しく施工された警察法により、日本には「自治警」と呼ばれる米国式の自治体警察と、「国警」と呼ばれる国家地方警察があった。大阪市警視庁は自治警である。だが警察法の改正により、警察組織の一本化が迫っている。そんな時、大阪城付近で政治家秘書が、頭を麻袋で覆われた刺殺体で発見される。さらに、やはり麻袋で頭を覆われた轢死体も見つかった。連続殺人の可能性に捜査員たちは色めき立つ。
その中に、若手刑事の新城洋がいた。国警から派遣されてきた守屋恒成とコンビを組まされた新城。互いの立場や性格の違いから、ぶつかり合いながら、二人は事件の真相に肉薄していく。自治警と国警、大阪人と東京人、庶民とエリート。作者はこのコンビに、何重もの対立構図を重ね合わせる。それゆえに何度も衝突するが、次第に相手を認め良き相棒になっていく、二人の姿が読みどころになっている。
また一連の事件の大まかな真相は、登場人物より先に読者が分かるようようになっている。それでもページをめくる手が止まらないのは、ストーリーが面白いからだ。上司の忖度による現場の混乱や、新城の家庭の問題が縁となって発見された手掛かりなど、物語の組み立ては巧みである。戦中、戦後を通じて庶民を踏みにじる人々への怒りも、犯人を通じて鮮やかに表現されている。

No.1 8点 渚の蛍火- 坂上泉 2022/09/28 21:44
作品の舞台は、まさに五十年前、本土復帰直前の沖縄だ。主人公は本土への「留学」のあと、琉球警察に入った若き警部補、真栄田。警察庁への出向から那覇に戻ってきて早々に前代未聞の大事件が勃発する。
円への切り替えのために回収したドル札を運んでいた銀行の現金輸送車が襲われ、百万ドルが強奪されたのだ。外交問題に発展することを恐れた警察上層部は、事件を秘密裏に解決するよう真栄田に命じる。タイムリミット間近に迫った本土復帰の日。真栄田はわずか五人のチームで、推理と捜査に奔走することになる。
スリリングなストーリー展開の合間に、復帰直前の混乱と、人々の暮らしが描かれる。チームの面々の姿も印象的だ。琉球警察が女性警察官を採用していなかったため刑事になれず、事務職員となった新里。警備に当たったデモ隊の中に恋人がいたことで破局し、自分が守っているものは何かと自問する与那覇。石垣出身で直接の戦禍を経験せず、「沖縄人」からも「日本人」からも疎外されていると感じている主人公の真栄田。
彼らは沖縄が強いられた分断ゆえの葛藤と苦悩を抱えている。本書は、そんな彼らと読者とをつなぐ。怒涛の展開を追い、ラストシーンにたどり着くとき、五十年前の彼らを、そして今を思わずにはいられなくなる。

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麝香福郎さん
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採点傾向
平均点: 6.84点   採点数: 58件
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