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糸色女少さん
平均点: 6.42点 書評数: 159件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.3 7点 三体0 球状閃電- 劉慈欣 2023/11/17 22:24
「三体」と緩やかにつながった前日譚。
主人公の陳は少年時代に「球電」を目撃した。壁を通り抜けたそれは陳の両親を一瞬で灰にして消えた。陳は球電研究に人生を捧げることになるが、研究は純粋に学問的に進められるものではない。
膨大な費用を必要とする研究は軍事応用とつながり、国際的な競争も激化する。国防大学新概念兵器開発センターの女性将校・林雲は、有能で利口な知性派だが、兵器開発に取りつかれており、陳とは別の意味で球電研究に執着していた。
球電は帯電し発光する球体が大気中を浮遊する物理現象で、実際に被害例も報告されているが、その発生機序は解明されていない。作中でも解明は困難を極め、人為再現実験はうまくいかない。まれに発生させられても制御できず危険だ。陳は、球電はただの電磁的現象でなく、道の空間構造を秘めているのではないかという大胆な仮説を立てる。やがて研究チームに世界的な理論物理学者の丁儀が参加したことから、研究は新たな局面を迎える。
奇抜なアイデアやガジェットが次々繰り出され、キャラの立った登場人物たちが活躍する第一級のエンタメであると同時に、宇宙論や量子力学の知見を踏まえた本格SFだ。

No.2 9点 三体- 劉慈欣 2022/07/13 22:34
ストーリーは波乱と奇想に満ちている。地球外文明とのファーストコンタクトという古典的テーマの中に、現代的な要素が散りばめられている。特に、主人公のナノマテリアル研究者が、謎のVRゲーム「三体」にログインし続ける場面は、本書の最大の見せ場だろう。
この奇妙なゲームでは、過去の人類の文明が天体の異常のせいで何度も崩壊し、再起動を繰り返す。周の文王や孔子のような聖人も、すさまじい災厄においては無力なピエロでしかない。かたや、皇帝が人力計算機を動かす場面では、破天荒な想像力が全開にされるのも面白い。
興味深いことに、これらのSF的奇想の出発点は現実の政治、すなわち文化大革命における科学者への弾圧にあった。そのせいでどん底に落とされた女性の物理学者が、ストーリーの鍵を握っているのだ。文革のおぞましい反科学的な暴力が、最先端の科学と予測不可能なVRゲームに接続させる、荒々しいまでの魅力がある。
原著のあとがきでは、道徳を共有しない異星人との生存闘争がテーマであることが示唆されている。思えば、この半世紀の中国の歩みをのものが、道徳を粉々にするほどに錯乱的なものであった。その凶暴なカオスを映し出す本書は、まさに今の中国でしか生まれない「文明論としてのSF」なのである。

No.1 8点 三体Ⅲ 死神永生- 劉慈欣 2022/01/11 22:13
危ういバランスで回避されていた人類を超える科学力を持つ三体文明との全面戦争は、三体側の計略で均衡が崩れ、物語は光の低速化による太陽系の封鎖プラン、空間をゆがめることで太陽系外に光速宇宙船で脱出する計画が飛び出すなど怒涛の展開に。それに伴い人類の文化、政治、経済は大きく変容していく。
光粒による太陽攻撃や、あらゆるものを二次元化する次元破壊など、SFファンにはたまらない魅力的な仕掛けも登場する。
しかし、本作は二つの文明の戦争では終わらず、宇宙全体の存亡というさらに壮大な展開が控えているのだ。
SF大作では大風呂敷はどこまで広げられるかだけでなく、いかに巧みにたたむかが読みどころとなる。本作では、宇宙の時空が多元的に広がり、最後には「本当に」折りたたまれていく。宇宙を丸ごと描いたような世界観は老荘思想にも通じるように思える。
多元宇宙より広い世界があるとしたら、それは人間の想像力だろう。

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糸色女少さん
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平均点: 6.42点   採点数: 159件
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