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糸色女少さん
平均点: 6.42点 書評数: 159件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2 9点 地図と拳- 小川哲 2023/10/27 23:23
中国・日本・ロシアの人々が繰り広げる建設と破戒、理想の模索と現実の闘争の物語である。
奉天の南東、鶏冠山の麓の小さな集落。人々は根も葉もない噂に導かれてこの地に移住し、集落はやがて都市へと発展する。ロシアや日本の思惑も交錯し、この地では様々な企みが絡み合う。題名にもある地図は、作中でも大きな役割を担う。地図に記されるのは地形だけではない。歴史、文化、政治。そうした事象を紙の上に記した地図は、鉄道の敷設と都市の発展にも関わっている。そして、地図に記された人々の思惑が衝突するところに戦いが起こる。
多数の人物が行き交い、一本の川が無数の支流に分かれ、やがて合流し、また分かれてと、複雑に入り組んだ流れをたどる。叙述の力になぎ倒される快楽を満喫でき、国家と都市、歴史と地図への考えが膨らむ一冊となっている。

No.1 7点 ゲームの王国- 小川哲 2017/12/20 22:45
ポル・ポトの隠し子とされる少女ソリヤと、天才少年ムイタックを主人公に、カンボジアの変転をつづる。
彼らが暮らす社会は矛盾や不条理に満ちている。それはポル・ポト以前も以降も変わらない。警察は疑惑を抱いただけで連行し、話も聞かずに犯人だと決め付ける。全く話が通じない。陰謀やでっち上げというレベルではなく、論理とか事実の検証という思考自体が、この社会に欠けている。それが何より恐ろしい。
公正なルールが存在するゲームのような世界を夢見た少年少女は、激動の歴史に翻弄されながら、それぞれの方法で「正解」を探し続ける。政治家となったソリヤは理想実現のために権力を求め、科学者となったムイタックは、ゲームの生み出す仮想現実により、全ての人を満足させようとする。だが、求めれば求めるほど、理想は彼ら自身の中でゆがんでいく。
上巻では抑圧的な社会の実態が生々しく描かれ圧巻だが、下巻では、それを克服しようとする営為の中に内在する新たな抑圧がえぐり出され、慄然とさせられる。

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糸色女少さん
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採点傾向
平均点: 6.42点   採点数: 159件
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