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糸色女少さん
平均点: 6.41点 書評数: 179件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.3 8点 宇宙消失- グレッグ・イーガン 2025/01/18 21:32
二〇三四年、夜空から星が消失した。太陽系を包み込むサイズの暗黒球体バブルが突如出現し、星々の光を遮断したのだった。バブルについて様々な憶測が乱れ飛ぶが真実は闇の中で、三十三年の歳月が過ぎた。ある日、探偵業を営むニックは、ローラの捜索依頼を受ける。ローラは先天性の脳損傷患者であり、自発的に行動できない。誘拐だとしても何重にもセキュリティーチェックされた病院の個室から姿を消せるはずもない。
密室からの消失を扱うローラの謎と、夜空から星々を消し去るバブルなる存在の謎が思いも寄らぬ形で一点に収束する。これぞSFミステリでしか生まれ得ない、論理のアクロバットであろう。本作はアイデンティティの問題を扱った作品でもある。現代ミステリにおける「信頼できない語り手」の問題についてスマートに描き出しているのだ。それは同時に、探偵は常に真相を究明することが可能か、という問いに対する回答にもなっている。

No.2 8点 白熱光- グレッグ・イーガン 2022/03/15 22:29
奇数章と偶数章で別々の物語が進行し、いずれも舞台は超未来の異質な世界。その世界観を楽しむ事が一つのポイントになる。
奇数章は、冒頭で主人公が「あなたはDNA生まれですか?」と問われるところから始まる。有機的な「生物」として進化した知性も、電子的な情報世界から出た知性も、区別なく暮らす「融合世界」が銀河に広がっており、人々は事実上の不死を謳歌している。ただし銀河中心部には外との連絡を一切拒絶する「孤高世界」が存在する。この謎めいた銀河の核への旅を描く。
偶数章は、ブラックホールの周りを回る岩の中に洞窟を張り巡らせて住む異形の知性の物語。岩の内部からは天体観測できないため、宇宙についての知識は乏しい。力学の概念もない。しかし岩の自転などで生じる重力パターンを観測することから力学の基本概念を発見し、一世代で相対性理論まで至る。地球とは全く違う環境で、知性がいかに物理学をものにするかという点を分厚く描いているので、物理学に詳しいほど楽しめる。
二つの物語が直接合流する終わり方はしないものの、「孤高世界」の起源をめぐって両社は交錯する。謎は謎と残したまま、超絶的なスケールで想像力を喚起してくれる。

No.1 8点 祈りの海- グレッグ・イーガン 2021/05/31 22:50
日本オリジナル編集の初短編集。長編と比べると大風呂敷度が低いものの、身近な話から入っていく話が多い分、SFに慣れていない人にもとっつきやすいでしょう。
短編集全体の通しのテーマはアイデンティティ。今の科学を小説に取り入れようとすると、読者の日常生活との接点をどこに見出すかが問題になるけれど、作者は一貫としてアイデンティティの問題だけにこだわり、その関心が現代科学の各分野と交差する断面を小説に仕立て上げる。
カオス理論やヒトゲノムの話題にある程度、通じていた方が面白く読めるだろうが、この小説をきっかけにして現代科学のスリルとサスペンスに目覚める人もいるはず。

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糸色女少さん
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平均点: 6.41点   採点数: 179件
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