皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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糸色女少さん |
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平均点: 6.40点 | 書評数: 184件 |
No.3 | 6点 | ある生き物の記録- 小松左京 | 2025/04/28 21:26 |
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今となっては古びてしまっている作品もあるものの、政府主義の都市建設とそれに愚痴をこぼす老人を描く「新都市建設」、宇宙船内に出現する動物の由来を探る「回向」など、都市・自動車・テレビ・宇宙開発といった高度経済成長期の象徴を描いているように見せかけつつ、民話や旧習の要素を取り入れてSF的にひっくり返してみせる職人芸が光る作品もある。
現代文明の様々な側面に茶々を入れつつも、人類の発展というものをどこか無邪気に信じている。そんな気配を感じ取ってしまうのは、日本社会とSFの双方に若さが溢れていた頃の作品だからだろう。 |
No.2 | 6点 | 鏡の中の世界- 小松左京 | 2024/06/25 22:00 |
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古くからの民話や習俗と現代文明のずれを扱ったものが比較的多いが、単純に発想を逆転させたものから、悪魔との契約もの、オリンピックなどのネタまで、多彩な題材をそろえて飽きさせることが無い。
中では、夏の情緒が漂う怪談「夏の終り」、モンティパイソンの殺人ジョークを思わせる「牛の首」、戦争をやめようとしない大人に子供が最後通告を突きつける「見すてられた人々」などが出色の出来。 |
No.1 | 8点 | 復活の日- 小松左京 | 2022/08/22 22:31 |
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生物兵器として開発された致死量ウィルスが軍の施設から漏出する。その症状は一見インフルエンザと区別できないため、人類は真相を知る間もなく滅亡の淵へと追い込まれる。
破滅SFの古典であり、コロナ禍で改めて注目されたパンデミックの描写は、半世紀以上前の作品とは思えない迫真性に満ちている。だが本書を単なる予言の書とするなら、その真価は矮小化しかねない。人類を極小のウィルスと極大の宇宙との間の「宙づりの存在」とすることで、近代文学では自明のものとされてきた人間観を更新することこそ作者の狙いだったはずだ。 私たちが疫病という人類共通の敵を前にしてもなお、目先の面子や利権などに囚われている今、真に再読されるべきは第一部の最後で発せられる哲学者の遺言であろう。 |