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猫サーカスさん
平均点: 6.20点 書評数: 387件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.3 8点 向日葵の咲かない夏- 道尾秀介 2023/09/06 17:05
物語は小学生である主人公が夏休みを迎える終業式の日、欠席した級友のS君の家へ、プリントと宿題を届けに向かうところから始まる。主人公はそこでS君が首を吊って死んでいるのを目撃するも、何と死体が忽然と消えてしまうのだ。そして一週間後、死んだS君の生まれ変わりと名乗る存在が現れ「僕は殺されたんだ」と訴える。三歳の妹と共に謎多き級友の死に迫る。やけに大人びた妹の口調、母親の冷たい雰囲気、狂気に満ちた担任の先生、何かがおかしいというより全てがおかしい。ずっと悪夢を見ているような気分だった。それでも真実を知りたい、結末が気になるそんな物語であった。結論から言えば、これぞどんでん返しの代表作である。あまりにも悲惨で報われない内容のためか、レビューでは賛否両論といった感じだが、個人的にこのダークな世界観は好みだ。作中に「何かをずっと憶えておくというのは大変なことだ。しかし、何かをわざと忘れることに比べると、大したことはない」という主人公のモノローグがある。どんな形であれ記憶に色濃く残る作品はそう多くない。忘れたいと思えば思うほど、その記憶は深く脳に刻まれるだろう。そんな作品だ。

No.2 5点 N- 道尾秀介 2022/10/13 18:04
全六章で構成された物語の最初には、奇妙な注意書きが置かれている。このページをめくると、各章の冒頭部分だけが書かれています。そこから読みたい章へと自由に移動し、読み終わったら一覧に戻り、再び次に読む章を選んでくださいと。順番は実に720通りもある。文章が逆向きに印刷されているのは奇数章。本を上下逆さに持つことになり、少し戸惑う。野球少年、ペット探偵、警察官、退職した元教師。舞台はやがて日本の港町からアイルランドに移り、喪失の痛みを抱える者たちの人生が交錯していく。「日本の港町からアイルランドへと移り」と書いたが、読む順番によっては「アイルランドから日本の港町へと移り」となる。ある人物の秘密が後に明かされる展開もきっと、順番によっては意外な人物が脇役として再登場する展開に変じる。物語を読むとは本来、能動的な営みだ。物語は人が読むときにだけ立ち上がり、そこで描かれた風景や語られた言葉をどう解釈するのかは、全て読み手に委ねられている。だからこそ、作者と読者の密やかで豊かなコミュニケーションが生じ得る。そんな読書の本質に、はたと思い至る。たどり着く先にあるのは光あふれる希望か、ほの暗い後悔か。立ち現れてくる自分だけの物語を味わえる。

No.1 6点 いけない- 道尾秀介 2019/11/12 19:26
ミステリー作家はネタバレを嫌うものだが、作者はこの作品を発売にあたり、自らネタばらしをするトークイベントを企画した。それほど自信作なのでしょう。4章構成で、交通事故が招く死の連鎖を描く「弓投げの崖を見てはいけない」、孤独な少年が目撃した殺人現場の真偽のあわいをさまよう「その話を聞かせてはいけない」、宗教団体の女性の死の原因を追究する「絵の謎に気づいてはいけない」と続き、終章「街の平和を信じてはいけない」では、前3章に出てきた人物たちが事件の真相を語り尽くす。前作「スケルトン・キー」では、トリッキーな仕掛けを施しながらも、殺人鬼の感覚を多種多様な比喩を使って生々しく描いた文体と鮮烈な主題が見事だったが、今回は原点に返っての謎解きの一点勝負。やや難易度が高く(だからこそネタバレのイベントが企画されたのでしょう)、再読を強いる部分もあるが、逆にどっぷりと謎解きの魅力に浸れる面白さもある。

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猫サーカスさん
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採点傾向
平均点: 6.20点   採点数: 387件
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