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猫サーカスさん
平均点: 6.19点 書評数: 405件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.3 6点 定価のない本- 門井慶喜 2019/12/18 18:28
GHQ占領下の東京・神田神保町の古本屋街を舞台にしたミステリで、物語の発端は古書店主の事故死。崩落した古書の山に押しつぶされて亡くなっていたが、友人の古書店主の琴岡庄治が疑問を抱き調査を開始すると、不可解な事実が浮かび上がってくる。琴岡が専門に扱う古本は古典籍、つまり明治維新以前の和装本で、GHQの指令に基づく「金融緊急措置令」により華族たちが貧窮に陥り、これが一斉に放出された。この古典籍をめぐる蘊蓄、戦前から戦後にかけての古書業界の消息、さらに意外な真相をもつ事件の謎解きも面白いし、古典籍の蒐集家だった徳富蘇峰や太宰治などの実在の文士の登場もあって愉しい。随所でなされる日本の歴史観への言及も鋭く、「本を愛し、古典を愛し、そのことで国そのものを立ち直らせよう」とする当時の日本人たちの姿も印象深く見えてくる。古典は残るものではなく残すものだという思いも力強く迫ってくる。

No.2 5点 おさがしの本は- 門井慶喜 2018/07/23 15:15
市立図書館の調査相談課に勤務する和久山隆彦が語り手の探書ミステリ連作集。不確かな情報や曖昧な記憶を手掛かりに、目当ての本を見事に探し当てるという探偵小説としての面白さに不足は無い。意外な盲点を突いているのに加えて、連作集としての展開が起伏に富んでいる。図書館の現状を愚痴まじりでぼやいていたかと思えば、図書館そのものの意義を真摯に訴える主人公の姿から目を離せなくなる。とくに活字や書物なしでは生きていけない読者ならば、きっと満足するでしょう。

No.1 6点 竹島- 門井慶喜 2017/11/07 18:40
今日的な問題を扱っているが、中身は怪しい連中の騙しあい。土居健哉は、知り合ったばかりの老人、坪山博から妙な話を持ち掛けられた。なんと先祖伝来の和本を持っており、それは「竹島問題」の決定打となる内容だという。健哉はさっそく外務省へ行き、買い取りを持ち掛けるが不調に。すると次は韓国の外交当局へと足を向けるのだが・・・。架空の取引や偽物の売り込みなどで相手をだまし、大金をせしめる。コン・ゲーム小説の一種ながら、領土問題をめぐって日韓外交のトッププレイヤーがしのぎをけずるという、前代未聞のスケールで描かれた物語。サッカー日韓戦を観戦中に行われるとんでもない大博打の場面もさることながら、すんなりとは終わらない逆転劇も鮮やか。美術などを題材にしてきた作者が、まさかこんな大風呂敷を広げに広げ、人を食ったユーモア小説を書くとは何重もの驚きである。

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猫サーカスさん
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採点傾向
平均点: 6.19点   採点数: 405件
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