皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
猫サーカスさん |
|
---|---|
平均点: 6.19点 | 書評数: 405件 |
No.3 | 7点 | クララとお日さま- カズオ・イシグロ | 2021/07/26 19:04 |
---|---|---|---|
AFと呼ばれる子供型の自立ロボットが語り手となり、ショップに陳列され買われていくところから始まる。ピノキオやトイ・ストーリー的な寓話かと思いきや「人間とは何か」をめぐって意外なほど律義に異質な知性にアプローチする。まだ存在しない技術を核にソフトなディストピアを描く点やミステリ的な仕掛けで物語を駆動する点は「わたしを離さないで」と共通している。AFは陽光を吸収し、栄養とするためか、クララは太陽に対し信仰めいた思いを抱いている。また、見たものをすべて記憶し、関連づけることで世界を独自に解決する。この二つの前提から論理的に導かれるドラマが深く胸に刺さる。 |
No.2 | 6点 | 忘れられた巨人- カズオ・イシグロ | 2021/07/17 18:45 |
---|---|---|---|
6世紀ごろのブリテン島(現在の英国)が舞台。竜や鬼、騎士が登場するファンタジー豊かな物語で、共同体や個人にとっての記憶と忘却の意味を問う。
ブリトン人の老夫婦、アクセルとベアトリスが住む村には奇妙な現象が起きている。人々の物忘れがあまりにもひどいのだ。どうやら霧が関係あるらしい。村で不遇をかこつ2人は息子に会いに行くことにする。でも息子の顔も、どこに住んでいるのかも思い出せない。 アクセルはベアトリスを「お姫さま」と呼ぶ。2人は仲睦まじい。思いやり、助け合いながらの旅だ。途中でサクソン人の村に寄るが様子がおかしい。村人が悪鬼に襲われて殺され、少年がさらわれたのだ。 通りかかったサクソン人の戦士ウィスタンが悪鬼と戦い、少年の救出に成功する。老夫婦の旅に、この少年エドウィンとウィスタンが加わる。 竜を殺せば人々の記憶は戻る。だが、かつて争ったブリトン人とサクソン人の間の遺恨がよみがえったとき、何が起こるのか。昔の日々を思い出した老夫婦は、絆を保っていられるか。 「かつて地中に葬られ、忘れられていた巨人が動き出します」。忘れられた巨人とは「共同体の記憶」や「国の歴史」の隠喩だろう。私たちはそれとどう向き合えばいいのか。不安を抱えつつも冒険の旅を続けた老夫婦の勇気に学びたい。 |
No.1 | 8点 | わたしを離さないで- カズオ・イシグロ | 2018/08/06 18:51 |
---|---|---|---|
人生は「失う」ことの連続。老いは容赦なく大切なものを奪っていく。最初、異常な環境で生きる人間の物語と思った。でもやがて、これは人間の人生そのものの「縮図」なんだ!とわかった。人生は短く残酷だ、だからこそ大切なものはそう多くない、限られている、「あなたの一番大切なものは何ですか?」と本書は問いかける。読み終わった時、思わず本書を抱き、動けなかった。抱きしめたのは物語ではない、物語に照らされ気付かされた私の人生で一番大切なもの。温かい切ない感動がいつまでもいつまでも続いた。喪失感にあえぐとき勇気をくれる本。「人生は短く残酷だ。だからこそ、いま、まっすぐ、愛するものに進んで行け!」と。 |