皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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小原庄助さん |
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平均点: 6.64点 | 書評数: 268件 |
No.2 | 8点 | 夏草の記憶- トマス・H・クック | 2020/10/27 09:09 |
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アメリカ南部の田舎町に住む医師のベンは、30余年前に起きた事件を思い出す。同級生だった少女のケリーはなぜ、無残に人生を断ち切られてしまったのか。また、町の郊外にある「ブレイクハート・ヒル」というロマンチックな丘は、なぜそんな名前が付けられたのか。
現在と過去を往復しながら、非常にゆっくりと謎が解き明かされていくストーリーである。内気な少年の目に映る少女のまぶしさ。そして幻滅。 初恋とその喪失を描いた小説だが、それだけにはとどまらない。端的に書くと、過去に存在した差別を社会が隠蔽したために、思いがけないかたちで、悲劇が甦ってしまったという物語なのである。 差別を行ってきた歴史をしばしば忘れようとする現在の日本で、この小説はとても切実に心に響くのではないか。 差別は悪であることを知りながら、どうしようもない憎しみを抱えたとき、差別を利用してしまう人間の心理。それを非常にリアルに描いているところも恐ろしい。 自分の一言が、どんなに他者を傷つけたかを、ずっと知らないでいる鈍感さ。自分は差別をしない、と思い込んでいる人間が最も危ういことを、この小説は深く見つめている。 ミステリ小説の醍醐味は、結末のどんでん返しにあるが、この作品では、全く意外なところに作者のトリックが仕掛けられている。 これに気づく人は少ないだろう。そして、その企みが分かったとき、過去の傷だと思っていたことが、現在も生々しく血を流していることに衝撃を受けるのだ。 |
No.1 | 6点 | ローラ・フェイとの最後の会話- トマス・H・クック | 2017/11/25 08:48 |
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大学教授である主人公のルークが、新しい著書の宣伝のために訪れたセントルイスで、故郷の町出身のローラ・フェイと再会するところから始まる。
いまや47歳の中年女性になっているローラ・フェイだが、かつては肉感的な若い女性で、ルークの運命をある意味で左右した存在でもあった。なぜ今になって彼女が自分に会いに来たのか、と内心動揺するルークだったが、誘われるままに酒を飲み昔話をする。 物語は、現在の二人の会話に過去の回想が挟み込まれる形で進み、やがてルークの父親にまつわる過去の真相が少しずつ明らかにされていく。途切れぬ緊張感といい、過去と現在の職人芸的な切り替えといいクックの腕はさえわたっている。 人生の汚点はぬぐえるのか、そして、いかにして「人生の最終的で最大の希望」を得られるのか。読み終わった時にそんなことを考えた。その判断は読者一人一人に委ねられているに違いない。胸にしみる作品である。 |