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小原庄助さん
平均点: 6.64点 書評数: 260件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2 5点 ヒストリア- 池上永一 2021/12/18 08:21
物語は、ヒロインの知花煉が、一九四五年三月の米軍の沖縄上陸作戦に逃げ惑う場面から始まる。空襲の爆撃の衝撃で彼女はマブイ(魂)を喪失した。普通なら肉体を失って霊会に行くはずが、どういうわけか肉体は存続した。マブイは爆風で地球の反対のボリビアまで飛ばされた。こうして知花煉は二人になり「私」と「わたし」の物語が並行していく。
肉体とマブイの分離した戦いで、「私」と「わたし」がぶつかり乗っ取りをはかる。同時にその戦いは、当時の米国とソ連の冷戦構造を背景とし、核ミサイルの強奪、キューバ危機の到来、ナチスの亡霊たちの暗躍、ゲバラとの愛などスケールの大きな物語へと発展していく。
冷戦時代の裏面史という側面もあるが、いささか偶然を多用したご都合主義も目立つ。ありえないくらいに歴史上の人物たちが簡単に登場し交錯するからだが、でもそもそも肉体と魂の相克という物語自体がリアリズムから遠く、それでいて想像力の飛翔は極めて伸びやかであるがゆえ、世界史を戯画的に捉えた手法として愉快な気分にも駆られる。
だが、作者が見据えているのは終わりなき戦争であり、アメリカ軍に蹂躙されている沖縄の現状だ。肉体と魂に分離した一人の女性の激動の時代に生きた波乱万丈の歴史がもう一度、終盤で沖縄に焦点があわさる。人間にとって魂の還る場所とは何かが鋭く問われるのである。最後はやや政治的主張が強いきらいもあるが、読み応えたっぷりだ。

No.1 7点 海神の島- 池上永一 2020/12/08 09:03
軍用地主の「オヴァ(祖母)」花城漣が残した遺産をめぐって、その孫で夜の銀座の覇権を狙うホステス・汀、フリーランスの海中考古学者・泉、スキャンダルまみれの地下アイドル・澪の美しき3姉妹が繰り広げるデッドヒートは、各国政府まで巻き込んで、破天荒だが現実的だ。
相続の条件は失われた「海神の秘宝」を見つけること。謎の解明に、海中遺産、古代史、先史学、戦争遺跡など考古学の最新情報を取り入れつつ、前人未到の深海へ探索していくシーンは圧巻。実際、奄美・沖縄をめぐる考古学の研究からは近年、人類史を塗り替えるような貴重な発見が相次いでいる。沖縄において米軍基地と先史学は極めてリアルに結びつくということにもなる。
池上ワールドにおいて最も価値があるのは「個人の欲望」である。肯定される基準は、求める力の純度、つまり美しさなのである。欲望に忠実な者ほど、その純粋さ故に翻弄もされるが、その姿は困難な時ほど圧倒的に魅力的で生き生きとしている。
逆に正義だの国家の主権だのといった、建前で行動する者に対しては厳しい。現実の沖縄の平和運動に対して辛辣な批判が投げかけられ、思わずたじろいでしまった。しかし、その先に突き抜けた沖縄の平和を求める強い意志が込められていたりするから、油断ならないのだ。島の本源的な存在によってさらけ出してみせた冒険小説の快作だ。

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小原庄助さん
ひとこと
朝寝 朝酒 朝湯が大好きで~で有名?な架空の人物「小原庄助」です。よろしくお願いいたします。
好きな作家
採点傾向
平均点: 6.64点   採点数: 260件
採点の多い作家(TOP10)
評論・エッセイ(11)
伝記・評伝(6)
アンソロジー(国内編集者)(6)
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