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小原庄助さん
平均点: 6.64点 書評数: 267件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.4 7点 巷説百物語- 京極夏彦 2022/12/23 08:46
勧善懲悪の物語と推理小説が合体しているような作品で、しかも怪談仕立ての展開は、その種の噺が好きな人にはこたえられないだろう。
ネタになっているのは、江戸後期の竹原春泉が描いた「絵本百物語―桃山人夜話」。もちろん、これを知らなくとも十分楽しめるが、知っていればもっと作品を楽しむことが出来る。しかも手回しよく、京極夏彦たちによって図面と現代語訳が、図書刊行会から刊行されている。
江戸中期ころまで、「百物語怪談」と呼ばれる形式の説話集がたくさん刊行されていた。数人のものが集まって一晩で怪談を語り合い、それが百物語に至ると怪異が生じるという伝承があるが、この形式を借りてたくさんの怪談を集めたものである。
ところが江戸も後期に入るとそれが廃れて、逆にたくさんの種類の妖怪の絵のほうが人気を博すようになる。鳥山石燕の一連の妖怪図絵がその代表である。だが、この種の図絵はいったいいかなる妖怪なのか、どうしてそのような名がついたのかといったことが、ほとんど記されていない。そこで研究者があれこれとその素性を調べることになる。ところが京極は、こうした調査結果を読むだけでは満足せず、その絵に合うような新たな物語で彼の想像力で作り上げようという野心を抱いたのだ。つまり、妖怪絵の背後に許しがたい残虐な殺人事件を幻想し、山猫廻しのおぎんとか行者の又市、百物語の収集家の百介たちが、次々に解決するわけである。その解決方法が手が込んでいて面白い。
古い百物語が、京極夏彦という作家に出会うことで、また新たな百物語が紡ぎ出される。これからも次々に妖怪たちが蘇ってくるだろう。

No.3 7点 ヒトごろし- 京極夏彦 2018/04/02 09:33
明治維新から今年で150年。幕末志士の中でもとりわけ人気の高い新選組の土方歳三が主人公。幼い日の体験から人斬りの衝動に取りつかれた土方が、「人を切っても罰せられない仕組み」を作り、次々に人を殺していく、という衝撃的な内容だ。
幕末史は尊皇派と佐幕派による”殺し合い”にもかかわらず、子母沢寛や司馬遼太郎以来、小説やドラマで美化されてきたと感じていた作者。新選組が敵よりも味方をより多く殺してきたことに着目。「まともな神経の人は平気でいられない」との考えから、土方を”人外し”として描いている。
作中の土方は、殺人を悪と認識した上で、新選組という制度を利用してターゲットを追い詰めていく。これに対し、薩摩藩や長州藩、旧幕府軍は明確なビジョンやイデオロギーがないまま、「国のために」近代兵器を備えて戊辰戦争に突入し、結果的に多くの兵が死んでゆく。作者は「どちらも間違っているんだけど、土方の方がまだ筋が通っている」と戦の愚かさを強調する。
毎回、ボリュームが多いことで知られる京極作品だが、とりわけ今回は1083ページの大長編。持ちにくい、読みにくい、重い、高いの四重苦である。

No.2 7点 数えずの井戸- 京極夏彦 2017/12/13 10:15
青山播磨守主膳に盗賊の父を殺され、皿を割った自分の指を切られたお菊が、怨霊になるため井戸に身投げする馬場文耕「更屋敷弁疑録」をベースにしながらも、青山鉄山が家来に皿を割らせてお菊を陥れる浅田一鳥らの浄瑠璃「播州更屋敷」、お菊が青山播磨の愛を試すため故意に皿を割る岡本綺堂「番町更屋敷」などのエッセンスも加え、今までにない物語を作り上げている。
青山播磨とお菊は、善人に描かれることもあれば、悪人とされることもある。作者は、語り手によって名前も性格も異なる登場人物を、内面の違いにより複数のキャラクターに分割。各章ごとに主人公を変えることで、更屋敷怪談の原因となったむごい事件が起こるまでを多角的に捉えていく。
本書の登場人物は、全員が心に闇と虚無を抱えているが、それは凶悪犯罪を引き起こすような極端なものではない。いつも褒められたいと思っている播磨の家臣・十太夫、欲しいものは絶対に手に入れてきた名門の娘・吉羅など、誰の心にも潜んでいる小さな悪意ばかりなのだ。
それだけに、必ず共感できる人物が見つかるように思える。こうした負の感情が惨劇の引き金になる展開は、その理由がリアルなだけに、心の闇と向き合う契機になるだろう。怪談という娯楽作品の中に、さりげなく教訓を織り込むテクニックは、江戸戯作の伝統を受け継いでいるようで興味深かった。

No.1 6点 厭な小説- 京極夏彦 2017/12/13 10:14
収録されている7編にはいずれも「厭な」という冠がつく。
背筋がぞわっとするほど不快な話のオンパレード。何度も何度も出てくる「厭」という字を見ているうちに、いやぁな気分が増してくる。きっぱりとした意思を感じる「嫌」と違って「厭」には生理的な気持ち悪さがにじんでいるように感じるのは気のせいか。
「人によって好きなものはいろいろだが、厭なものは普遍的」という作者の発想から生まれたという本書。とことん重たい気分になりたい人にオススメです。

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小原庄助さん
ひとこと
朝寝 朝酒 朝湯が大好きで~で有名?な架空の人物「小原庄助」です。よろしくお願いいたします。
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