皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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小原庄助さん |
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平均点: 6.64点 | 書評数: 267件 |
No.2 | 8点 | 文字渦- 円城塔 | 2018/11/22 09:48 |
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文字には呪術的な力がある。ただの線と点の組み合わせが特定の意味を持つこと自体が神秘だ。
この作品は文字にまつわる12編の短編からなるが、圧倒的なイメージの広がりと論理の展開が心地よい一方で、読み進めるうちに思考の迷宮に迷込んでいくような困惑を覚える。 川端康成文学賞を受賞した表題作は、漢字が生まれた古代中国が舞台。自身の統治が死後も永遠に続くことを望んだ始皇帝は、壮大な陵墓の副葬品として「兵馬俑」など秦の人々や動物を写した像を作らせたが、そこには、未知の漢字を含む3万もの文字を記した竹簡も埋められていた。主人公である俑を作る職人は、始皇帝が定めたシンプルな字体に違和感を抱きつつ、神秘性をも感じ取る。俑と文字がそれぞれに映し出す姿とは何か・・・。 というと、いかにも伝統的な文字の枠に収まりそうだが、そう単純に象徴性や寓意に還元されない。捉えどころのない虚無が、この作品にはある。空虚なのではなく、意味ならぬ「虚味」をはらんだ作品というべきか。 それは、印刷された文字が星のように宇宙に浮かび、文字が島となって浮かぶ「緑字」や、本文に付されたルビが自立して語りだす「誤字」などで、いっそう顕著だ。円城作品には、読者を安易に「分かった」気にさせず、考え続けることの快楽を体感させる「虚無」がある。 |
No.1 | 7点 | プロローグ- 円城塔 | 2018/02/25 16:06 |
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「名前はまだない」というどこかで聞いたことのある一文ではじまる。猫の「吾輩」は、名前が無くても猫として存在するが、こちらは何が何だか分からない。
「書かれつつあるもの」は「書かれる」ことによってしか存在しない。「実在的な主張を行う文章」として存在しはじめた「私」は、自分を存在させるパソコンのシステムや日本語の構造などから、次第に書くという行為とその意味を問うていく。 などと書くと批判的で難解な実験小説だと思うかもしれない。確かにそうなのだが、ここにあるのは抱腹絶倒の難解さであり、著者の独自性という本来、他人には分かるはずのないものを「伝わる」ように表現し尽くした誠実さが生んだ逸脱だ。 小説が動き出す前のかくも多くの準備や手続き。その中で、作中人物のすれ違いや、バグによる世界の変容といったドラマが巻き起こり、読者を「思考の遊園地」にいざなう。 伝説的な私小説は、作者の生活と創作の秘密の一端をのぞかせるものだったが、ここにあるのは人がものを考え、表現することの本質に迫るエンターテインメントである。 |