皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
小原庄助さん |
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平均点: 6.64点 | 書評数: 267件 |
No.3 | 8点 | 刑罰- フェルディナント・フォン・シーラッハ | 2022/05/13 08:04 |
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「犯罪」や「罪悪」には、エンターテインメント的なプロットで読ませる作品もあったが、人間の業を深く見据えて象徴性を高める純文学的な作品が目立った。
本書では、その象徴性がより強くなり人間の名前などは削ぎ落とされ、文体はいっそう簡潔になり、抽象化されている。それでいて細部の手触りは生々しく緊密で、息を詰めて読んでしまう。ねじれたユーモアで運命の残酷さをえぐられる。それは皮肉な運命に対する理解と同情が、ある種の救済として示されるからでもあるだろう。 ともかくここには、名人芸と呼びたくなるほどの鮮やかな語りと、心が震えるほどの深遠で複雑な人生の姿がある。まさに必読の傑作だろう。 |
No.2 | 7点 | 犯罪- フェルディナント・フォン・シーラッハ | 2018/01/05 09:57 |
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どの話も淡々とした語り口で、一瞬ドキュメンタリーを読んでいるような錯覚に陥る。おそらく実体験に基づいているのだろうが、まさに事実は小説より奇なり。しかも描かれている11の犯罪が本当に「犯罪」と呼べるのか戸惑う。
作者の視点が弁護側だという事も大きい。シュールレアリスム画家マグリットの絵のタイトル「これはリンゴではない」が最後に付記されているように、犯罪も人生も見かけ通りではないと作者は主張しているのだ。 11の犯罪と、犯罪に至る11の人生を驚嘆と共に堪能できるでしょう。 |
No.1 | 6点 | 禁忌- フェルディナント・フォン・シーラッハ | 2017/09/25 10:02 |
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前半では没落した名家に生まれ、やがて有名な写真家となるエッシュブルクの半生を描く。中盤で殺人事件が起き、彼が殺人犯として逮捕され、後半で裁判の経緯が語られる。
検事と弁護士の攻防が生み出す法廷ミステリらしい展開とは異質の驚きがある。 結末の衝撃を消化するために、そして主人公の思惑を追体験するために、再読を促す小説といえる。 無駄をそぎ落とした鋭利な文体もまた、本書のそうした趣向を支える。饒舌と対局を、読者が自ら補完することを求められる文章である。 登場人物への共感を誘い、読者の心を揺さぶる小説とは異なる、冷たい静けさに満ちている。 感情よりも理性に訴えかけており、一読して戸惑い、再読して没入する。そんな作品。 |