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りゅうぐうのつかいさん
平均点: 6.29点 書評数: 84件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.3 8点 貴族探偵対女探偵- 麻耶雄嵩 2017/06/25 18:20
前作『貴族探偵』から、新たにライバル役として、女探偵が登場。と言っても、貴族探偵こと御前様は女探偵のことを何とも思っていないご様子だが。
調査も推理も使用人任せでひたすら愛に生きる貴族探偵が、女探偵を小馬鹿にしてからかうさま、気障で嫌味な物言い、神出鬼没な登場の仕方が見所になっている。
ミステリ―としては、前作の方が真相に意外性のあるものが多く、本短編集は論理的推理を前面に打ち出して、真相自体は地味なものが多い。探偵が示すロジックの過程を追って考えるのが面倒、という人には面白くないだろう。
女探偵のダミー推理の方も楽しめる。

「白きを見れば」
"鬼隠しの井戸"のあるガスコン荘で起こった殺人事件。
梁に残った凶器の跡(犯人の身長)、スリッパで踏みつけられた血の跡、停電の時刻のアリバイ、紗知のボタンを入手できた人物、シャッターを片手で持ち上げた理由などからの消去法による犯人特定の推理。執事山本の推理は逆転の発想によるものだが、○○が自分のスリッパを履いていた理由が説得力に乏しい。

「色に出でにけり」
三人の恋人を家族に会わせるために別荘に招待した"女王様"依子。その内のひとりが自殺を装って、殺害される。
タオルが違う色に入れ替わった謎、臭いと氷の解け具合から推定された犯行時刻、手帳が盗まれた謎。
手帳が盗まれた謎は面白い真相ではあるが、ある方面の専門知識がないと推理できない。
使用人として、料理人の高橋が初登場。

「むべ山風を」
大学の研究室で起こった殺人事件。
シンクに残されていたティーカップの色、ゴミの分別を知らなかったことから熊本組と推定されること、死体発見時の被害者の位置と上座・下座の関係などから紡ぎだされるロジック。矛盾を解決する逆転の発想はなかなかのもの。

「幣もとりあへず」
"いづなさま"に願い事を頼むために、旅館に集まった6人と、その付き添いの貴族探偵と女探偵。6人の内のひとりはネットで話題になった人物。ひとりが浴場で殺される。
女探偵の説明を読んでいると、ある箇所で「あれ?」と混乱。よく考えてみると、「作者は地の文の中で嘘を書いてはいけない」というルールが守られたためであることがわかった。実際に、前に戻って確認してみると、ちゃんとルールが守られていた。書物で読むよりも、ドラマで見た方がわかりやすい作品の一例。

「なほあまりある」
ウミガメの産卵を見学するために、無人島の別荘に集まった人たち。女探偵は謎の人物に招待される。そこには貴族探偵の姿も。連続殺人が発生するが、使用人不在の中で、いよいよ貴族探偵自らが推理を披露するのだろうか?
テラスから部屋まで続く濡れた痕跡、バラの花を動かした理由、別荘の管理人が殺された理由などから、女探偵が推理を展開するが……。
ラストのオチが何とも痛烈。

現在、この作品と「貴族探偵」を原作として、ドラマが放映されている。ドラマでは原作にはない、女探偵の師匠である喜多見切子が登場して謎の死を遂げるとともに、「政宗是正=公安絡み、シンガポールを拠点に黒い活動をしている人物」と秘書鈴木が登場し、その正体がドラマ全編を通しての大きな謎になっている。
ドラマ「貴族探偵」が明日最終回なので、ドラマ独自の謎について、予想してみよう。

このドラマは、番組のエンディングで断っているように、一種のファンタジー。
仲間由紀恵さん扮する秘書鈴木の正体は、ドラマ「貴族探偵」の脚本家。
その脚本家のペンネームが「政宗是正」。
ドラマの脚本家自身がドラマの中に登場しているという、現実とドラマの世界とが混然となったファンタジー。
ドラマの脚本家である政宗是正は、ドラマの中では御前様の秘書鈴木であり、御前様の指示に従う忠実なしもべ。

ドラマの中の登場人物で、この世界がドラマという架空の世界であることを知っているのは、御前様と秘書鈴木のみであり、ドラマをスムーズに進行させるうえで他の登場人物にはそのことを知らせてはいけないと肝に銘じている。
ところが、喜多見切子はこの世界がドラマという架空の世界であることに気づき、御前様に「政宗是正という名前をご存知でしょう?」と探りを入れる。
御前様は喜多見切子が気づいたことを知って、脚本家でもある秘書鈴木に「殺せ」と命令、つまり、ドラマの脚本の中で「死亡したことにしろ」と命令した。
御前様が高徳愛香に「私のことを調べるのは命がけになる」と言ったのは、この世界がドラマという架空の世界であることに気づいたら、脚本家に脚本の中で殺されるということをほのめかしたもの。

御前様は、秘書鈴木からドラマの進行や真相をすべて聞いている。
だから、ドラマの中で、さも最初から真相を知っているような思わせぶりな行動ができるのである。

ある意味、登場人物全員が御前様の使用人、御前様は監督と言えるかもしれない。

鈴木という名前は、原作者の「神様ゲーム」で自らを神と称している子供。ドラマで神に当たる存在は、登場人物や筋書きをすべて決める脚本家。つまり、鈴木=神=ドラマの脚本家という図式になっている。

・「公安絡み、シンガポールを拠点に黒い活動をしている人物」の意味
「公安」ではなく、「考案」、つまり、ドラマの考案のこと。
「シンガポール」は「芯がポール」=「芯が棒状のもの」、つまり、鉛筆のこと。
「黒い活動」は、鉛筆を使った黒い文字による執筆活動。
以上をまとめると、「公安絡み、シンガポールを拠点に黒い活動をしている人物」は、「ドラマの考案絡み、鉛筆をよりどころに執筆活動をしている人物」、つまり、ドラマの脚本家(かなり苦しい解釈だが)。

結果は違っているだろうけど、この予想でもそれほど違和感がないのでは?

No.2 5点 神様ゲーム- 麻耶雄嵩 2016/08/25 18:40
(自分の読み誤りに気づいたので、大幅に訂正)
中編程度の長さの作品で、子供向けを意識しているせいか、作者の作品の中では飛び抜けて読みやすく、サクサクと短時間で読み切ることができる。読み終わった直後は、最終章の「誕生日」まで読んで芳雄の推理を知り、その意外性に驚き、かつ、ピースの一つひとつがぴったりとはまっていく説明に大いに感心したものだ。犯人は抜き差しならない危機一髪の状況に追い込まれながらも、機転を利かして、ピンチを脱しており、死体発見時に起こる様々な出来事がそれぞれに意味を持っていることがわかり、面白いと感じた。自らを神と称する鈴木太郎クンが狂言回しとして物語を動かしているが、鈴木クンの口を借りて、神の視点での論理を語っているところも面白い。しかし、ネタバレサイトを見たところ、自分が完全に読み誤っていることがわかり、よく考えてみると色々とおかしな点に気づいたので、評価は大幅に下がった。

(ネタバレ)
読み終わった直後、最後に火が燃え移ったのは、なぜ母親なのだろうかと疑問に思い、次のような解釈をした。
①父親にあのような行為をさせたのは、母親が精神的に追い込んだからであり、「天誅」を受けるべきなのは母親だったということ。
②あるいは、父親に対して、本当に愛すべきだったのは母親であることに気づかせ、大切なものを失っても生き続けなければならない生き地獄を味あわせようとした。
言い訳めくが、「天誅」の意味を文学的に解したのだ。しかし、ネタバレサイトでの母親が共犯、母親とミチルのエッチが原因であるという解釈を見て、自分にはそのような発想がなく、誤っていることに気づいた。この作者がそもそも文学的な真相にするわけなど、ないのだ。
この作品の真相は、曖昧模糊としている。まず、自らを神と称する鈴木太郎クンが、本当に神なのかどうか、わからない。そもそも、神なる存在が、なんで、こんな少年に姿を変える必要があるのだろうか。
犯人に関して言えば、父親や母親だけではなく、事件発生時に一同に会した芳雄、孝志、俊也、聡美以外で、「たらいの蓋の下」に隠れることができるような人物であれば誰でも犯人でありえる。また、ミチルとの共犯ではなく、単独犯でも可能である(ミチルが事件発見時に色々と思わせぶりなことをしているが、たまたま、そういった行為をしたという解釈も成立する)。つまり、作品中に開示されている情報だけでは、全く犯人を絞り込むことなど、できないのだ。

犯行時に犯人がとった行動には不可解な点が多すぎるし、それ以外にも疑問点が山のようにある。
①虫暮部さんの指摘どおりで、死体を埋めるのであれば、服を着せなおす必要はない。
②死体を埋めるつもりなら、死体を井戸に入れるような面倒なことをする必要もない。
③どのタイミングでミチルは共犯者に衣服を渡したのだろうか。いつ、どのようにして渡したのか不明だし、受け渡しの打ち合わせをするような必要性も時間もなかったはず。
④死体を井戸から引っ張り出して、服を着せるような面倒なことをする必要もない。服は、たらいの蓋の下にでも入れておけば良かったはず。
⑤逢い引きの場所に、鬼婆屋敷のような危険な場所を選ぶだろうか。全員が揃った時以外には入ってはいけないという「鉄の規律」があるにしても、他のメンバーも内緒で使いに来る危険性があるのに。
⑥警察の事故死という処置もおかしい。被害者がどうやって、鬼婆屋敷に入ったのかという点が未解明だし、俊也の目撃情報もあるのに。
⑦母親共犯説だとすると、非力な女性が一人で死体を動かすことができるのかという疑問が残る。また、目撃されなかったのは、数々の幸運に恵まれた偶然としか思えない。
⑧父親共犯説の方が、死体発見時に起こった様々な出来事(ミチルが芳雄に対して、まず最初に父親に電話するように進言したり、父親が被害者の生死を確認するように言ったりなど)がうまく説明できるので、解釈としての説得力は高い。しかし、父親共犯説だと、死体に服を着せた際に父親の服が濡れたり、汚れたりするはずで、父親が刑事として現場に現れる際に、衣服の汚れに気づかれないのは難しい。

犯人を絞り込めるような十分な手掛かりは示されていないし、どの解釈にしても疑問点が残る。ミステリーとしては非常に脆弱な作りで、それを埋めるために神様と称する人物を登場させるような姑息な手段に出たと言われても仕方がないだろう。

また、このサイトの他の方の書評を読むと、子供向けではないというものがある。
次のような理由なのだろう。
①母親のような年齢の女性と小学4年生の女の子とのエッチが原因というのは、教育上よろしくない。
②この作品の真相が、そもそも子供には理解できない。
少年少女向けの企画ということであれば、 麻耶雄嵩に作品依頼したこと自体が間違い。
麻耶雄嵩は、期待どおりに、ふしだらで、子供には理解しがたい作品を意図的に書いたということだろう。

No.1 7点 貴族探偵- 麻耶雄嵩 2015/12/01 18:26
事件の調査だけでなく、推理までも使用人にさせてしまう貴族探偵。
この人を食った、馬鹿馬鹿しいとも言える設定がいかにも作者らしい。
いずれも良くできているが、個人的一推しは「ウィーンの森の物語」。
「ウィーンの森の物語」
犯人の心理を「裏の裏の裏」まで深読みする複雑な論理構成。「バッグに残された指紋」と「現場に残された糸」から導かれる推理がすばらしい。
「トリッチ・トラッチ・ポルカ」
大胆なアリバイトリックに意表を突かれた。
「こうもり」
メイド田中の説明で出てくる人物名に「あれ?」と思い、最後の一文に驚く。
「加速度円舞曲」
運転手佐藤が、犯人の思考から積み重ねられた行動の連鎖を鮮やかに解明する。クイーンの「チャイナ橙の謎」を連想した。
「春の声」
三すくみの殺人の謎の真相は確かにこれしかなさそうだ。納得。

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りゅうぐうのつかいさん
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