皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
505さん |
|
---|---|
平均点: 6.36点 | 書評数: 36件 |
No.2 | 6点 | マスグレイヴ館の島- 柄刀一 | 2015/10/11 19:46 |
---|---|---|---|
佳作というよりも怪作である。
シャーロッキアンの宿命ともいえるネタと二つの離れた場所での殺人トリックという二重構造に、吹き荒れる嵐という状況が齎す一種の閉鎖空間が興味を掻き立てる。ホームズのネタをプロットに技巧的に落とし込んでからの豪快なトリックは、流石の柄刀一の筆力だと感じた。不可解な状況を生み出したトリックは大技そのもの。そこに不可思議な死体の謎や足跡の問題を絡ませた部分やメタフィクションの意外性だけを見れば、力作という表現が正しいかもしれない。 特に『周囲に食べ物が散らばった上での餓死』という状況の生み出すカオスな模様は、空前絶後と言っても差し支えないだろう。その他にも魅力的な謎が続々とテンポよく提示される辺りに、柄刀一のサービス精神が窺える。 しかし、細かい所で言えば、図面が多く駆使されているのに肝心の部分で図面が配置されていないのは些か不親切に思える。文章のみである程度は想像力で補えられるが、作者が意図したインパクトそのものを伝えるという面では迫力不足な感が否めない。また、偶然性に頼りすぎな面も大きい。それでも、ここまで良い意味でオーバーな作品は中々出会えないものである。 |
No.1 | 8点 | アリア系銀河鉄道- 柄刀一 | 2015/09/27 20:02 |
---|---|---|---|
幻想的で壮大な事件に巻き込まれる連作短編集。ファンタジー+ミステリとして、そこにSFを加味した幻想世界をベースに、作者の薀蓄の引き出しを存分に奮ったユーモアを積み上げたような出来栄えで、あまりにも謎が大きすぎて呆然となること間違いなし。言葉を失う程の特殊設定は、神話や歴史に問い掛けるものがあり、奇跡のような大仕掛けもあり、と豊富な情報量にセンスが加えられている。
『言語と密室のコンポジション』は、斬新すぎる言語の密室空間を描いた作品で、フェアとは云い難いものの、そこまでの過程を楽しめた。メタな視点も憎い。 『ノアの隣』は、神話をベースに進化論に一石を投じる作風。神話を用いただけあって、作中の技法は奇跡そのもの。 『探偵の匣』は多重解決モノ。この短編集の中で最もオーソドックスかと思いきや、変化球という見事なオチ。各探偵役の推理にも、ある程度の説得力がある所が高評価。これがマイベスト。 そして、表題作でもある『アリア系銀河鉄道』は、宮沢賢治リスペクトな作品。作中のトリックにはややクレームを付けたくなるが、作品を終わらせるという意味での仕掛けには拍手を送りたい。不思議な世界観にピリオドを打つ技法として中々。佳作である。 |