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505さん
平均点: 6.36点 書評数: 36件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.6 5点 九月が謎×謎修学旅行で暗号解読- 霧舎巧 2015/10/22 21:02
小ネタ含めて多いに詰め込んだミステリ。本格・新本格ファンに向けたマニアックなものばかりで、ストーリーとは違う部分でついつい頬が緩む。これまでのシリーズ通り、オマケを駆使したメタなトリックは健在であり、最初から〝あからさま〟に提示されているのは、このシリーズの読者なら驚かないだろうが、ここまで大胆に表現されているとは。

今までの刊行された本とは違って、ページ数は一番多く、暗号解読に惜しみなく力が注がれている。暗号そのものには、独創性があるが、やはり特定の知識が無いと解読できないものであり、この辺りは人によって出来不出来が分かれるだろうか。

2つの場所で同じような暗号が、同時進行で描かれているのが本書の特徴であるが、視点の移動が多く散らかっている印象を受ける。ミスディレクション自体は効いているのに関わらず、雑多なためにやや〝勢いに誤魔化された〟という感覚は捨てきれず。作中で使い回されたネタやトリックを再度使うことや『木の葉を隠すなら森の中』をモチーフにすることで、ミステリとしての部分に厚みを持たせている。

『探偵VS犯人』の構図自体は、些か展開が早急な気がしなくもないが、今までのシリーズ作品よりも見応えがあり、犯人が機転を利かせることで、探偵の切れ味がより際立つ構成となっている。3つの謎をリンクさせた力技は評価すべき点であるにしても、ネタがネタなだけにより技巧的に昇華で来たのでは、と思わなくもない質であった。

No.5 6点 八月は一夜限りの心霊探偵- 霧舎巧 2015/10/22 20:59
本書は超常現象に対して、論理的に解決することで『この世には不思議なことなど何もないのだよ』とするのが根幹にあり、タイトルにあるほど『心霊探偵』部分がプッシュされているわけではない。
本作は、シリーズものであるが、こればかりは〝本書単独では読めない〟仕組みになっており、最低でも前作は読んでいないとトリックの威力が半減する。
また、本シリーズの特徴として、本文のみならず、〝本〟自体に仕掛けを施す作者の技巧が光るのは、本書でも不変であるが、今までの作品に比べてその部分の仕掛けの集大成とも言える大技が組み込まれている。かつてここまで大胆な伏線があったのだろうか、という程であり、『心霊』部分に対して鮮やか過ぎるアンサーを用意しており、なんとも憎たらしいほどに作者の稚気が愛しいくらいである。

作中のトリックは、『死体移動』であるが、心霊現象を上手く絡めて不可能状況を生み出しているので、それなりの雰囲気を演出しているが、やはり〝無理なものは無理〟なので、あくまでも装飾程度のものだと言える。ミスディレクションというほどの効力は無いと個人的に感じた。

しかし、作中の登場人物たちの行動原理は実に〝これまでのシリーズならではの説得力〟なので、シリーズ作だからこそ生まれた錯覚である。言い換えれば、今までの作品が伏線だったと主張しても過言ではない。
勿論、登場人物たちの行動のみならず、本自体の〝仕掛け〟も考慮すれば、シリーズの〝集大成〟という位置付けも出来るのではないだろうか。

メイントリックに関して、事件が起きる前までの伏線張りやら怪談話の紹介などで、事件そのもののインパクトがやや弱いのは否めないが、キャラの配置の仕方が凝っている。しかし、被害者、加害者の心理描写が淡泊すぎて、トリックそのものにキャラが負けているのは流石に致命的。これまでのシリーズではベストといえる作品であることに違いないが、ホワイダニットを重視する方にはオススメ出来ないのは変わらず。

No.4 5点 七月は織姫と彦星の交換殺人- 霧舎巧 2015/10/18 00:22
『交換殺人』がトリックのネタであると宣言することで、どのように読者を驚かすかのかが試されるために、本書は意欲作である。
本書の肝は、〝誰が交換殺人を行っているのか〟と同時に〝交換殺人を謳ってどのように読者を騙すのか〟であるが、それ相応に一捻りを加えた謎が用意されている。既存のトリックの新境地を拓こうという気概は買うのが個人的な信条であり、その〝宣言〟がミスディレクションだったというのは予想の範囲内であるが、ある程度の満足感は得られることが出来た。

トリック自体は、『交換殺人』にラブコメ模様のイベントとして大々的にプッシュされた七夕という季節柄の要素を加えることで、それなりのオリジナリティを持たせている。予めに『交換殺人』だと予告されているので、フーダニットの部分は必然的に〝アリバイのある人間〟が怪しくなるので、弱いのは否めない欠点がある。特にコテコテなアリバイを主張する記述ほど臭く思えるのは、本書のネタがネタなだけに宿命と言えるだろう。それでも、趣向を凝らして視線を誘導する実験的な要素もあり、〝いつ交換殺人(第2の殺人)が行われるのか〟に対しては巧妙に隠されているところは高評価。

本書のキーアイテムでもある〝短冊〟絡みの伝説は、本シリーズの特徴や空気感にもマッチしており、違和感は無く、そこにフェアな仕掛けを用意することで、終盤に〝盲点〟を突く技巧さも垣間見ることが出来る。〝短冊の枚数〟や、その部分への仕掛けはかなり凝っており、それだけでも一読の価値はあると言える。

肝心の『交換殺人』については、事前に計画そのものが予告されているが、一筋縄でいくものではなく、七夕と絡めた一種の〝見立て殺人〟的な要素もあり、実に合理的なネタだった。情報が錯綜することで、探偵たちが右往左往する様は、これまでのシリーズにはない試みだったのではないだろうか。トリック自体に新鮮味はなくとも、シリーズのファンならヒロインが探偵役に興じるシーンは斬新に映るかもしれない。

No.3 6点 六月はイニシャルトークDE連続誘拐- 霧舎巧 2015/10/18 00:18
前作の『五月はピンクと水色の恋のアリバイ崩し 私立霧舎学園ミステリ白書』への未解決部分のアンサーをオマケとしつつも、純粋に一捻りした誘拐モノが本作。相変わらず、メタな仕掛けにも驚かされる。このシリーズはどうやら本自体にも仕掛けを用意するのが一つの約束事になっているようで、〝本文中ではないところにも〟ヒントが巧妙に隠されているのが心憎い演出だと言えるだろう。

肝心の誘拐トリックに関しては、作中で一応〝陽動〟的な意味合いを含んだ事件であることを解決前に明かされているので、誘拐そのものがフェイクというのはフェアであり、当然の着地だと感じた。誘拐事件自体を誤認させ、上手く錯覚させた遊びは技巧的であり、実に倒錯感溢れる演出となっている。

本作では、『誘拐された側の視点』と『誘拐事件を追う側の視点』を交互に描くことで、事件の複雑さをスムーズに運ぶことに成功している。誘拐モノにありがちなパターンから逸脱しているという点にも奏功している。そして、その視点の切り替わりが〝とある矛盾〟を孕んでいたことも作中で簡潔に開示されるので、とても良心的な設計だと言える。その矛盾からの怒涛の展開は、お約束とも取れるが、本シリーズの〝2人の探偵〟を巧みに操った結果であり、そこに新キャラを交えることで一種のミスリードを誘うエンタメもある。

作中で何度も提示されるイニシャルの使い方も、本作のトリックには必要不可欠であり、予めにイニシャルでの〝遊び方〟を披露し、伏線として張るところに執念を感じることもしばしば。単なる稚気では収まらず、それすらも鮮やかに遊び倒す様に清々しさを覚えるほどである。トリック自体のスケールとそこから生まれるべくして生まれた錯誤。今のところ、本シリーズの中では突出したクオリティだと言えるのではないだろうか。

しかし、シリーズものだからこその人間模様に傾倒した事件である故に、単独として本書が成り立つかと言うと疑問ではある。特に本書ほど事件の性質上として〝内輪感〟が強いところが欠点。主人公たちを『誘拐される側』に置いた視点は面白かったのだが、ラブコメ部分の描写不足は否めず。

No.2 4点 五月はピンクと水色の恋のアリバイ崩し- 霧舎巧 2015/10/13 19:43
前作は『密室』がテーマであったが、本作はタイトルにあるように『アリバイ崩し』である。従来のアリバイ崩しの形とは少し違うのが特徴的。オーソドックスなアリバイ崩しとは、犯人が予め分かっているパターンが多いが、本作では犯人が隠されているアリバイ崩しものである。そのために、〝犯人単独〟のアリバイ崩しではなく、〝容疑者全般〟のアリバイ崩しに力を注ぐ必要がある。そういうことから、従来のアリバイ崩しにある『倒叙感』が薄れており、犯人と探偵の〝対決〟という構図を味わうには至ってないというのが率直な印象である。

単純なフーダニットに関しても、いくらミスディレクションが効いていても、前作ほどのインパクトは無い。人物紹介の項にヒントが巧妙に隠されているという仕掛けは、前作同様で作者のサービス精神を感じることは出来た。

本作が普通のアリバイ崩しではないのは、上記で述べたが、他にも『密室』+『見立て殺人』といったファクターがある。密室について言及すれば、必然的な状況と言えることができ、不自然さは感じられなかった。多少の強引さは否めないが。
問題なのは、本作の花形である見立て殺人である。トリックの出来自体は前作以上にミステリしており、死体の状況から上手く導かれた推理法が見られる。それでも、やはり見立ての動機が弱い。〝なぜ死体にピンク色のペンキを塗ったのか〟と密室の状況の組み合わせの試みは面白く、確かな合理性はあったのだが、それ一つの謎と考慮すると薄い。
そのペンキの乾き具合、事件前後に起きたハプニング、確かな死体の死亡推定時刻によって、アリバイ崩しにしては時間が狭まりすぎて、容疑者の数がおおいに絞られる(登場人物が少ないこともあるが)。そういうことから、逆説的に犯人を隠す形式のアリバイ崩しにしたとも言えるので、作者の意図は納得できると言えるだろう。そのアリバイ崩しにトリックがあるので、そこからより犯人が絞られるので、その辺の演出はどうなのだろうかという疑問は残る。それでも読む分には差し支えない出来である。

No.1 5点 四月は霧の00密室- 霧舎巧 2015/10/13 19:37
あとがきにもある通り、「ミステリがマンガのエッセンス」を取り込んだ作風になっているので、とてもラノベ感が強い。しかし、ミステリとしての中身は思いの外にキッチリしている印象。

テーマはミステリフリークには堪らない『密室』であるが、『逆密室』であり、二重構造でありと、中々に複雑な謎を提供してくれる。肝は当然フーダニットであるが、それ以上に〝不可能状況の中で、死体はなぜそこにあったのか〟である。その謎に対して真摯に取り組む探偵たちの姿勢が描かれている。逆密室を生み出したトリックに関しては、舞台装置を考えれば、わりと妥当な線と言えるであろう。無理のない範囲でのトリックと言える。事件前後に起きた『事象』に対しても、一つ一つ潰していき、その結果が連鎖的に犯人像を絞るという流れは見事。探偵役が地味に嗅ぎ回っている理由は、実にラブコメしており微笑ましい。現場の位置やそこから生まれた〝錯覚〟に対しても、予めに作者が提示している部分にフェアな精神を感じる。

徐々に容疑者が拡散していく様は、やや散らかった印象を受けたが、最終的な犯人当ての時に、その意図が晒されるという点においては技巧的。犯人像の絞り込みから動機面を一切排除して、犯人たる条件と現場の状況を照らし合わせていく様は快感であった。

難癖を付けるならば、随所にフェアプレー精神は感じるものの、肝心の部分は意図的に隠蔽されていたことであろうか。それを事件の決着後に明らかにするのは果たして効果的だったのだろうか、という疑問はある。あくまでもミステリとしては、ややロジックが弱いが、それでも表紙から受けるキャッチ-な印象とは違って思いの外手強い。ジュブナイル色の強いシリーズの出だしとしては上々と言えるかもしれない。

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