皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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tider-tigerさん |
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平均点: 6.71点 | 書評数: 369件 |
No.5 | 8点 | レーン最後の事件- エラリイ・クイーン | 2016/07/08 23:57 |
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Zは一人称だったのに、三人称に戻っている。一体なにをしたいんだこの人は、というのが読み始めてすぐの感想です。
まあ、それはともかくとして、昨年末あたりからXYZと読み進み、ようやく本作を読み終えました。このシリーズを順番通りに読むことが出来たのは幸福でした。 本作は殺人事件も起こりますが、中心はシェークスピアに関する古書を巡る謎であり、序盤が面白く、中盤が少しダレ気味で、ラストは納得。すごいラストでした。個人的には大満足です。最後の推理も好きです。 ただ、殺人事件が偶発的なものであって必然ではなかった点が少し物足りない気もしますが、作者は犯人の情状酌量のためにわざと偶発的な殺人にしたのかもしれません。 本作が三人称で書かれた理由は……了解しました。 私見ではミステリとしての面白さはXとYが勝りますが、Zと最後の方が物語性は高まり、読みやすさは増している印象。ですが、個々に読むよりはやはり一連の作品として順番通りに読むべきシリーズですね。 気になったのは別に驚くほどでもない推理、推理にもなっていないような推理が素晴らしい素晴らしいと持ち上げられることがままあること。シリーズのどの作品にもそういう場面が必ずある。 本作でも、とある文章を読んでペイシェンスが書き手の人物像を描出してみせると、レーンは素晴らしい推理だと感心していました。いや誰が読んでもそのくらいのことは感じるのではないかと。あれは褒めて伸ばす方針だったのか。そして、ペイシェンスは深い痛みとともにさらなる成長を遂げたのだと信じたい。 以下、ネタバレあります なんの工夫もない双子ネタは椎茸を生で食わされたようなゲンナリ感。 さらに一卵性の双子(はっきり言及されてはいないが、そうだと思われる)の片割れにああいう障害があるのなら、もう一人も同じ障害を持っているのではないでしょうか? Xの書評でとある問題について、読者は気付かなくとも、作中の当事者が気付かないのはおかしいと指摘させて頂きましたが、本作はその逆で、読者が真相に気付いたとしても、作中の当事者が真相に到達するのは非常に困難。私だったらこんな真相は想像すらしなかったと思います。 ペイシェンスはよく気付いた。褒めてあげたい。 |
No.4 | 6点 | Zの悲劇- エラリイ・クイーン | 2016/06/26 15:54 |
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いつも余計なことが気になって、ミステリ読みとしてはピントのずれたことばかり書いてしまって、なんだか申し訳ないのですが、私が気になったのは「なんでペイシェンスの一人称?」ということでした。
クイーンは一人称が得意な作家とは思えないのですよ。案の定、読みやすくはあったけれど、一人称小説ならではの良さはあまり感じられませんでした。三人称ペイシェンス視点で良かったのではなかろうかというのが本書を読み終えた時点での感想でした。 また、序盤でペイシェンスの賢さが披露されているけど、周囲の人間が鈍すぎるんじゃないかという印象。あくまで相対的にはペイシェンスが賢かった、だけのように思えました。 ただ、レーンとの初対面で見せたホームズを思わせる推理は嫌いではないです。推理そのものがではなく、憧れの名探偵との対面で必死に背伸びしようとするペイシェンスがなかなか微笑ましかった。 死刑の問題に触れていますが、生贄にされそうになった男がどうにも心の底から助かって欲しいと思える人物ではなく、さらにはあの最期。後味の悪さばかりが残って、正直クイーンがなにをしたかったのかよくわかりませんでした。 問題の消去法もレーンの鋭い推理によって犯人以外の人物が消去されたという印象が希薄。 医師が消去された部分に多少の頓智はあるも、他はいまいちトキメキがない。犯人の存在する枠が決まるところまではいいのですが、そのあとはきちんと動機やアリバイを考慮すれば、誰が考えても犯人以外は消去されていって自然と真相は判明するのではないかと。 ただ、小説としてはXやYよりも読みやすくなっているように感じました。それなりに読みどころもあったし、読んでいてつまらない作品ではありませんでした。高評価というわけにはいきませんが。 最後に、これまたどうでもいいことなんですが、私は本作を読んでアメリカよりもイギリスっぽさを感じてしまいました。なぜでしょうか? 以上 Zを読み終えての感想です。以下、レーン最後の事件を読み終えて、本作について思ったこと。 ネタバレはありません。 いろいろと腑に落ちました。一人称も成功しているかはともかくとして、作者の考えていたことはなんとなく想像できました。 Zは元々の構想にはなく、急遽付け足されたという説もあるそうですが、そうであったとしても本作が書かれたことは必然だったように思われます。Zがなかったら、最後の事件はポカーンだったと思われます。ミステリとしては単体での魅力が薄い。物語としてはそんなに悪くはなかった。そして、悲劇シリーズ四作を一連の物語として捉えるならば、かなり重要な作品であるというのが結論です。 |
No.3 | 9点 | Yの悲劇- エラリイ・クイーン | 2015/12/31 10:42 |
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少し前にXを読んで書評、昨日、Yを読了しました。
決定的な根拠をもってレーンは犯人を見抜くも、訳あってそれを秘したまま終盤になだれこみ、機を見ておもむろに真相開示。同じような構造ですが、ロジックの詰め方はXの方が小気味良く決まっているように思えました。ですが、私は物語としてYに軍配を上げます。 狂った血、どんな真相が隠されているのかがひどく興味深くて読み進めました。予想とはまるで違ったとんでもない真相で驚きました。 ただし、冷静に検討すると非常に瑕疵の多い作品でもあると思います。特に心理的な部分で。犯人の動機や心理についてほとんど触れられていなかったのは不満でしたが、ある意味正解でしょう。余計なことをすると墓穴を掘ることになりかねない危ういプロット。心理面をぼかすことによってどうにか成立しているように思えました。 以下 ネタバレあります。 特に気になった点。 なぜ、ばあさんはルイザばかりを溺愛したのか? この理由が解明され、物語に絡んでくるような展開を期待していましたが、そこは曖昧なまま。(瑕疵とまではいえないものの、個人的には気になりました) ハッター家の連中がそこまで異常だとは思えませんでした。平常人の延長上として理解しうる範囲内。真犯人だけは唯一異常であるように思えるものの、その内面には踏み込まず。なぜ事件を起こしたのか。子供だからなのか、異常だからなのか? ルイザはなんで死ぬことになった?(なぜ作者はルイザを殺した?) 真相開示の場面を劇的に盛り上げるための道具(真犯人である可能性の一つ)にしたようにしか思えませんでした。こういう趣向は好かない。 まあ、そうはいっても、ひねりの効いた操りや犯人が自己制御不能になってゆく流れは圧巻ですし、犯人が殺害に失敗して失望していたという件は寒気がしました。 採点は8点かなと思っていましたが、最後の頁を読んで気が変わりました。レーンの行動は個人的にはとうてい支持できませんが、凄いラストであることは認めざるを得ませんね。 瑕疵多いが衝撃がそれを上回る傑作。主観では8点ですが、客観的な評価を採って9点とさせて頂きます。 それでは、みなさま良いお年をお迎え下さいませ。 |
No.2 | 7点 | Xの悲劇- エラリイ・クイーン | 2015/11/30 21:17 |
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エラリィ・クイーンは大昔に数冊読んで、それらの内容をあまり憶えていないというか、なにを読んだのかも憶えていないありさまでした。
このサイトでいろいろ情報収集させて頂いておりますが、やはり、クイーンはきちんと読んでおかなければとXを購入。 あまり私好みの小説ではありませんでしたが、評価されていることには納得です。 レーンが他の可能性を一つずつ潰していって、真犯人に到達する過程は非常に面白かった。ある種の快感でした。 私の採点ではミステリとしては8点。小説としては5、6点くらい。 みなさんの書評を見て興味の湧いた作品もありますし(災厄の町とか面白そう)、今後はY、Z、最後の事件と読み進めてみようかと考えております。 最後に一つ。とても大きな瑕疵だと思ったものを指摘させて下さい。 (もしかして読み間違え、読み落としをしてるのか?) 以下、少しネタバレです 最初の殺人が起きてからずっと凶器のことが気になっていました。ドルリー・レーンが手袋とかなんとか言うだけで、誰もそのことについてはっきり言及しないのでどうなってんだと思っていたら、最後の方でレーンがおもむろにそれを指摘。なんと警部も検事もそれを聞いて感心しています。正直、ズコーッとなりました。これはちょっと考えにくい。 凶器を文字でしか見ていない読者が気に留めずに流してしまうのはまあ仕方がない。実感がないわけですから。 ですが、作中の警察関係者は目の前で禍々しい凶器そのものを見ているんですよ。どうやってこれを持ち運んだ? どうやって被害者のポケットに入れた? そうした疑問が湧かないはずはない。これだけはちょっと許せませんでした。 |
No.1 | 6点 | 盤面の敵- エラリイ・クイーン | 2015/11/14 14:51 |
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ヨークスクエアなる正方形の敷地の四隅にはそれぞれ城があり、敷地の中央には庭園がある。城にはそれぞれ主がいて彼らは従兄同士。このヨークスクエアの下男であるウォルトの元に匿名の手紙が届く。
――きみは、わたしがだれだか知っている。 きみは、きみがそれを知っているということを知らない。―― こんな風に始まるこの手紙はウォルトを賞賛しますが、客観的には少々気味が悪い。 ウォルトの元にはこの匿名希望の人物から再度手紙が届く。好かれも嫌われもしない孤独な男ウォルトに大いなる使命が与えられた。 ウォルトは手紙に書かれたことを忠実に実行し、ヨークスクエアの一城の主が花崗岩で頭を砕かれて無残な死を遂げた。 そして、――悲劇は繰り返される――北斗の拳オープニングより引用 実行犯が冒頭から明示された奇妙なミステリ。ウォルトを操っている黒幕を名探偵エラリー・クイーンが解き明かしていきます。 なかなか面白い。 ゲーム性の高いプロットではありますが、登場人物が駒にはなっていませんし(むしろ変なアクがある)、この手の小説にありがちな人物の行動の不自然さは辛うじて回避されています。 例えば、ウォルトは逮捕されてもなお口を割ろうとしないのですが、これはウォルトの人物造型、及び真相の開示によって納得できます。ギリギリですが。 ただ、読み進めるうちに不安は高まりましたね。どうやって収拾つけるのか。 容疑者が少な過ぎるんですよ。まさかカーみたいに「登場人物以外の犯人」に挑戦した? それから、ここまで見事に操られてしまうものなの? という疑問も湧きました。この疑問は真相開示によって腑に落ちたのですが、神秘性、宗教性、及びウォルトと彼の関係性などは悪くないものの、このネタはちょっとなあ。あと動機がようわからん。 結論 真相のあのネタを除けば非常に面白かった。一点減点して六点とします。 シオドア・スタージョンの代作とされている作品ですが、スタージョン愛読者の自分は何頁か読んで、ああこれはスタージョンっぽいなと思いました。エラリー・クイーンはあまり読んでいないので比較はできないのですが。 スタージョンぽいと思ったのは以下。 手作業について細かく描写するのが好き。 孤独というキーワード、ウォルトやアン・ドルーなどの人物造型、取るに足りないとされていた人物の変容など、そのままスタージョンの作品に登場してもまったく違和感なし。 わりと素直な文章でスタージョンらしくないが、比喩(少々独りよがりな面のある)を多用しているあたり。 代作スタージョン説に異議はありません。文章(あまり個性を出さないよう気をつけてはいるが)と人物造型はスタージョン。プロット作成にはスタージョンは関わっていないとみています。 |