皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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おっさんさん |
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平均点: 6.37点 | 書評数: 223件 |
No.3 | 6点 | ほおずき大尽 人形佐七捕物帳- 横溝正史 | 2010/12/10 14:42 |
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横溝正史ファンに、もっともっと読んで欲しいのが、人形佐七のシリーズ。岡本綺堂の半七ものが、捕物帳の“正装”だとすれば、こちらは“着流し”の親しみやすさがあります。
全180編と結構な数ですが、春陽文庫版14冊と、出版芸術社の<横溝正史時代小説コレクション 捕物篇>2冊を合わせれば、完全制覇も可能。 春陽の一冊目から(不定期ではありますが)順番にとりあげていきます。 『ほおずき大尽』の収録作は―― 1.羽子板娘 2.開かずの間3.嘆きの遊女 4.音羽の猫 5.蛍屋敷 6.佐七の青春 7.ほおずき大尽 8.鳥追い人形 9.稚児地蔵 10.石見銀山 11.双葉将棋 12.うかれ坊主 レギュラーキャラクター(佐七ファミリー)が揃っていく過程を楽しめる、入門編ですね。 過去、アンソロジーに採られることが多かった1は、トリッキーな趣向はあるものの、シリーズの基本が定まる前の話なので、けして代表作ではありません。 同じく海外ミステリの応用として知られる、表題作の7は、後半の展開に難がありますが、前半の緊張感はマル。 個人的なお気に入りは、夫婦喧嘩ものw の代表作といっていい6ですね。 でも、佐七の傑作、秀作が出てくるのは、まだまだこのあとです。 |
No.2 | 7点 | 狩場の悲劇- アントン・チェーホフ | 2010/12/09 14:51 |
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2010年、生誕百五十周年を迎えた、ロシアの大作家チェーホフの、唯一の長編にして、なんと探偵小説。
でも別に、かしこまることはないんです。チェーホフが“文豪”になるまえ、まだA・チェホンテなんてペンネームでユーモア短編を量産していた頃、新聞に連載(1884-85)した、いわば探偵小説パロディなんですから。 と書いたそばから、こんなことを言うのもなんですが、ストーリー自体は、退廃的な貴族の領地を舞台に、美しい森番の娘をめぐって繰り広げられる、愛と憎しみのドラマ――情景描写の鮮やかさと心理描写の深さは、さすが後年あるの筆力を思わせ、事件発生までの長丁場を飽かせません。ところが・・・ じつはこの作品、探偵小説として、かなり大きなトリックを用意しているのですが、作者自身が、終盤、本文におびただしい註釈をつけ(翻訳によっては、この註をバッサリ削ってしまったものもあるのですが)、ある登場人物の言動が怪しいことをほのめかし、意外性の効果を減殺してしまうのです。パロディの毒で、探偵小説を解体するかのような、それはシュールな試みなのですが・・・ それまでのシリアスなストーリーと、パロディ的趣向が水と油なんだよなあ。 結果として、一個の小説としては、虻蜂取らず。しかし、成功作とは言えなくても、何人かのキャラクターは、読後も長く残像を残し、忘れ難い作品ではあります。 (付記)「パスティーシュ/パロディ/ユーモア」とするには、シリアス展開が強すぎるため、恋愛サスペンスといった側面から、ジャンル登録しました(2012・11・13)。 |
No.1 | 5点 | スミルノ博士の日記- S・A・ドゥーセ | 2010/12/09 12:01 |
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スウェーデンのコナン・ドイルと称され、1913年から29年にかけて、14本の長編ミステリを書いたS・A・ドゥーセの、四番目の作品にあたり、1917年に刊行されています。
実際に読んだ人は少なくても、ちょっとしたミステリ・ファンならタイトルは知っている、という一品。 ミステリ史上に残る、ある有名作品のトリックの前例だと言われているんですね。でも実際に読んでみると、その有名作品より、日本作家の別な長編に趣向が似ていたりします。 トリックのフェアな扱い方は特筆ものですが、残念ながら解決の仕方が下手。後半のストーリーがグダグダなんですよ。 マニアなら押さえておきたいタイトルですが、復刊が望まれる、とまでは言えないのが辛いところ。 |