皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1898件 |
No.38 | 7点 | 生霊の如き重るもの- 三津田信三 | 2011/11/25 10:03 |
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一話目の“四つ家”の構造について、“東西の廊下の中央を開けて出入りできるようにした”のに、何故そこを出入り口に使わず他人の室内を通る習慣が維持されているのかが謎。
総合的にはとても濃い短編集だと思います。 タイトルの“重る”は上手い当て字ですね。 |
No.37 | 10点 | 不気味で素朴な囲われた世界- 西尾維新 | 2011/11/02 10:30 |
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ミステリ的小ネタをキャラクターで拡張した感じ、と書くと批判のように見えるが、同時にそのまま褒め言葉でもある。こういうニコニコした殺伐さはもしかすると近年よくある世界観なのかもしれないが、これだけ鋭いのはやはり見事。
TAGROのイラストのせいで『変ゼミ』とイメージがかぶってしまうので困った。 ところでシリーズを続けて読み返して初めて気付いたが、前作中で登場人物が解説していた後期クイーン問題を実践したのが本書なのである。2冊の刊行時期には4年の間がある。気の長い伏線である。 |
No.36 | 6点 | 詩的私的ジャック- 森博嗣 | 2011/09/14 16:27 |
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作中の歌詞と殺人事件が類似している、というのはあまりに恣意的すぎると思う。この程度で疑われるならヴィジュアル系やへヴィメタルのバンドマンはみんな容疑者である。
動機も筋が通っていないように思う。“人を殺した相手をそのまま愛せるような人じゃない”からといって“綺麗にするため”に自分が人を殺すというのは首尾一貫していないだろう。それなら自分自身もリセットしなければならない。人殺しそのものではなくて、露見するか否かを問題にしているようで、それは作中で代弁されたような“汚れたものが嫌いで、純粋で、高尚で”という精神性とは思えない。むしろ、親しい者の犯行が露見することによって自分がさほど純粋でも高尚でもないということに直面するのに耐えられずに全て無かったことにしたかった、のではないかという気がする。 |
No.35 | 7点 | 叫びと祈り- 梓崎優 | 2011/09/07 16:01 |
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最終話が、くどい。1~4話目まででシリーズ短編集として充分なクオリティなのだが、ラストで連作長編にまとめようとしてしくじった、という印象である。
叙述トリックについては途中で読めてしまったものもある。しかし、必ずしもそれがミステリとしての核ではないこともあり、別段マイナス要素とは感じなかった。(個人的には、トータルで面白ければトリックの使い回しはそれなりに大目に見て良いと思っている。) |
No.34 | 7点 | 魔女は甦る- 中山七里 | 2011/08/24 15:36 |
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もう全く個人的なことなんだけど、本作の舞台とされている埼玉県所沢市に30年以上住んでいます。細かい地名や場所設定は架空のものですが、なんだか妙なリアリティというか、フィクションと自分の生活の境界線が曖昧になるような感覚を読みながら味わいました。“国道沿いの集落から一キロほど離れた沼地”って、ああ、あそこか……なんて自分の中で勝手に具体的に決め付けたり。こういう読書体験は初。
しかし、“わしみたいな田舎の駐在は事件ちゅうても喧嘩か窃盗を相手にしとるだけで、都会の犯罪がどんなものなのか新聞やニュースでしかお目にかかれません”って、そこまで田舎じゃないよ所沢は(笑)。 |
No.33 | 6点 | メルカトルかく語りき- 麻耶雄嵩 | 2011/08/10 18:34 |
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この作者はきっと “ミステリはなにゆえにミステリなのか” を熟考しながら執筆しているのだろう。それゆえ奇想の続出になるのは当然の成り行きなのだ。ただ、この短編集では作品そのものの面白さよりも作者のスタンスが勝っているきらいがある。というより “実験的本格シリーズ” と謳い文句にあるように、特にそういう傾向の短編を集めたのだろう。つまりこの本自体がまるごと、ミステリというジャンルに対する批評、である。それを受け入れる度量があるか、読者は問われているわけで、アンフェアだとか脱力系オチだとか言ってはいけないのである。 |
No.32 | 8点 | おやすみラフマニノフ- 中山七里 | 2011/08/04 08:13 |
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これも広義でのネタバレか。
性別誤認の叙述トリックかと疑ってしまった。つまり晶=女。初音が部屋に誘うとか、“ボク”というカタカナ表記がその伏線で。晶の(本当の)素性に関する伏線はミスディレクションである、と。見当外れな読みだったわけですが。 |
No.31 | 8点 | 燔祭の丘- 篠田真由美 | 2011/07/06 19:29 |
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このシリーズは、最初の方が端正な純ミステリだったのに、ラスト数作はそれを置き去りにしてまでも“善玉対悪玉”的な対決にこだわっている。必然性があるのは判るが、番外編の多さと相俟って、今振り返ると妙に歪な形のシリーズとして決着したという印象を覚える(それがマイナスだとは言わない)。
あと、“暗示をかけて他人を思うままに操る”というワザが、なんかもう超能力か憑き物かというレヴェルで描かれているが、世界観の整合性という点でこれはちょっと行き過ぎな気もする。西尾維新じゃないんだから。 とはいえ、とても面白かった。最後に綾乃さんがくっついたことだけは許せん(笑)。 |
No.30 | 6点 | 見えない復讐- 石持浅海 | 2011/06/22 15:16 |
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「佇む人」の論理はいただけない。“付け忘れ”と“破損”とどちらを先に考えるかなんて個人的な差に過ぎないことを、一般論にして話を進めている。“避妊失敗の原因をピンポイントで決め付けているのが不自然”という疑い方ならまだ判るのだけれど。
意外な方向へ進む論理展開が、重過ぎず軽過ぎずの文体とも相俟って、西澤保彦を読んでいるような錯覚を覚えた(珍姓が出て来ないこと以外は)。 |
No.29 | 6点 | 私たちが星座を盗んだ理由- 北山猛邦 | 2011/06/15 17:28 |
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片山若子の表紙イラストのせいで、つい米澤穂信を読んでいるような錯覚に陥ってしまう。
というのはそれなりに褒め言葉になるのだろうか? |
No.28 | 7点 | 写楽 閉じた国の幻- 島田荘司 | 2011/06/08 16:20 |
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江戸編の後半が感動的。ミステリの感動ではないけど。
日本人論については“またか”という感じ。美人教授も島田荘司作品に良く出て来る類型的な変人だと思った。 “やれ突け”なんて単語が説明なしで使われているが、これは常識の範疇なのだろうか。 |
No.27 | 8点 | さよならドビュッシー- 中山七里 | 2011/06/08 16:04 |
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ミステリとして面白く、青春音楽小説としても非常に楽しめた。そして後者の要素がミステリに於けるミスディレクションとして上手く機能していると思う。
クラシック音楽の演奏の良し悪し、というか“良い演奏と、物凄く良い演奏の違い”は熱心なリスナーでないとなかなか判りづらい。この作品を読んで、自分にもそういう鋭い耳があるように錯覚してしまうのは、筆力のなすところだと思う。 ところで、応募の時点では『バイバイ、ドビュッシー』だったタイトルを刊行時に変更したとのことだが、それで何が変わったのだろうか。不思議だ。 |
No.26 | 5点 | ラガド 煉獄の教室- 両角長彦 | 2011/03/23 15:00 |
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面白かったし筆力があるのはわかるが、「最後まで書ききる」というところから逃げてしまっている気がする。もう少しきっちり結末を締めてあればなぁと思う。 |
No.25 | 7点 | エコイック・メモリ- 結城充考 | 2011/03/11 10:51 |
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二瓶勉のSF漫画『BLAME!』のイメージを連想させられた。SFじゃなくて現代を舞台にした警察小説なんだけど。
「携帯電話とインターネットが現代ミステリの成立を困難にした」と言われて久しいけれど、その一方でそれらを前提としつつ新たな地平に向かっている作品もちゃんとある。しかもラノベ系ではなく骨太な文体で(ここが重要)。 ところで、いつのまにか作中のPCやネットの用語がそこそこ理解できている自分を発見。2年前なら斜めに読み飛ばしていたところ。 あと、前作を読んだ時からずっと作者名を結城充「孝」だと誤認していたことも発見。 |
No.24 | 8点 | セカンド・ラブ- 乾くるみ | 2011/03/07 09:41 |
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わざわざ『イニシエーション・ラブ』路線第二弾、といわんばかりの題名をつけて読者を警戒させた上で見事に驚かせてくれた。でも終章の解説部分はあまりにもわざとらしい。
そして、彼女の行動は確かに謎なのだが、奇しくも本書の前に読んだ京極夏彦『死ねばいいのに』にこんな台詞があって、私はそれでなんとなく納得してしまったのだった。 「……人間は性欲だけで生きてる訳じゃねぇって言ったじゃないすか。俺もそう思いますよ。でも、人間金欲しいって奴ばかりでもねぇっすよ。(中略)面白がってただけかもしれねぇすよね?」 |
No.23 | 7点 | 死ねばいいのに- 京極夏彦 | 2011/03/07 09:39 |
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なんかとても気持ち悪くてよかった。 |
No.22 | 6点 | 月と蟹- 道尾秀介 | 2011/03/07 09:37 |
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ミステリを、少なくともミステリ的な仕掛けのあるものを期待していたので、肩透かしを食らってしまった。
初期作品には感じられたのにだんだん薄まってきていた悪意のようなものが、今作では割と復活している点は良かった。 しかし、直木賞のせいで今後こっち方向に進んでしまうなら、私にとって重要な作家ではなくなると思う。 |
No.21 | 6点 | 閉ざされて- 篠田真由美 | 2011/02/09 05:59 |
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叙述トリックは前半で見当が付いてしまった。それが最後まで引っ張られていたので少々イライラしてしまった。今となってはかなりありきたりな手法だし、このネタは早めに明かした方が寧ろ良かったのではないか。文章の巧みさと登場人物たちの錯綜した思惑、そして澪についての謎、で充分に作品として成立したと思うのだが。
ただ、DNA鑑定をしたわけでもないのにラストで緑がああいう行動に出るのは腑に落ちない。 あと、パソコンは「都合の悪いファイルを消し」ても機械そのものを物理的に壊さない限り復元できてしまうのでは。 |
No.20 | 9点 | 折れた竜骨- 米澤穂信 | 2011/02/03 10:29 |
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「無自覚な×××=犯人」というのは岡嶋二人にもあったが(あと『喰いタン』にもあったような……)、それとは別のルートでこの大技をアリにしていて面白い。
身分制度の(やや)上位者を一人称の語り手にして、しかも特権意識やいわゆる上から目線を嫌味に感じさせず描写しているところは、北村薫の「ベッキーさんシリーズ」を思わせた。 しかしなにより、ライト系作品では隠れがちな米澤穂信の名文家としての資質が全開になっているところが良かった。 |
No.19 | 6点 | 真夜中のタランテラ- 麻見和史 | 2011/01/29 11:19 |
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誠実な筆致が上手くリーダビリティに結び付いていると思う。義肢というネタによるふくらみも感じる。しかしミステリとしては手堅く、驚きには欠ける。好感は持てたが、そこからもう一歩抜きん出るとまでは行かなかった。 |