皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
monyaさん |
|
---|---|
平均点: 7.61点 | 書評数: 28件 |
No.2 | 7点 | 紳士ならざる者の心理学- 柄刀一 | 2013/08/05 10:08 |
---|---|---|---|
誰がなんと言おうと、柄刀一氏の本質はトリックではなくロジックだと思ってます。
不可能犯罪をよく扱う為にトリックの人だと思われている様に思いますが、よくよく読んでみるとトリックよりそれを囲むロジックが素晴らしいのだと気づかされるわけです。 いや、勿論、トリックも素晴らしいのばかりですけれど。 そういうわけで、今作にもロジック爆発な短編が一つ入っています。 「見られていた密室」です。 これは、柄刀一氏の短編群でもベスト級と言えるのではないでしょうか? まず、「犯人が監視カメラで死ぬ直前の被害者の様子を見ていることによって被害者と犯人の心理戦が繰り広げられる」というシチュエーションが非常に秀逸です。 そして、そうした中で被害者が行った行為を名探偵龍之介が紐解いていくわけですが…… この過程が素晴らしい。 ダイイング・メッセージ一つについてありとあらゆるロジックを駆使することにより、ただ一人の犯人が浮かび上がる……まさしく、本格ミステリの興奮そのものです。 この一編だけでも読む価値があるかと。 他の話も及第点は超えているものばかりで、本格ミステリ07にも採用されていた表題作は伏線とトリックの詰め込みが素晴らしい佳作です。 個人的には三作目も好みです。 ロジックとトリックを味わいたい人にはとことんオススメな一冊でしょう。 |
No.1 | 10点 | 密室キングダム- 柄刀一 | 2013/06/26 18:17 |
---|---|---|---|
私的にはオールタイムベスト級の作品です。
本格ミステリ、特に『謎と論理』に重点を置く人々にとっては、堪えられない程の傑作でしょう。 『キングダム』の題名通りの、恐ろしい程のページ数。密室で大長編といったら笠井潔の『哲学者の密室』なのでしょうが、あちらが密室殺人は二件のみなのに対し、こちらは五件! 大マジシャンがマジックショウの途中で殺される第一の密室が一番派手で、トリックやロジックも煮詰められていることは誰もがうなずく通りですが、他の密室四件もそれだけで長編にしても良いくらいの趣向が凝らされていて非常に楽しませてくれます。 本作の第一の特徴は、なんといっても『密室に意味がある』ことでしょう。 名探偵、南美希風は密室の作成方法のトリックについてはそれぞれ早い段階で見破ってしまいます。 しかし、犯人はどうしてそんな密室を作ったのか? という謎が立ちふさがり、解決には中々迫れません。 つまり、これは――西澤保彦の『念力密室!』と同様に――ハウダニットよりもホワイダニットに重点が置かれた密室ものなのです。 それを解決するのは鮮やかなアクロバットなロジック! 特に第一の密室と第五の密室の『意味』には唸らされます。 また、密室とは別のところで仕掛けられたトリックも注目に値するでしょう。 ハードカバー発売時の帯に『本格ミステリは時代から逃げない』という言葉があった様に思いますが、まさにその言葉通りで、 『この時代には通用しないんじゃないの?』といったトリックが現代に蘇らせている点は驚愕です。 全体に流れる『昭和の犯罪』というテーマも印象的ですし、自らの体をなげうってまで事件の解決に挑む美希風の姿には胸を打たれます。 そうしたノスタルジイも含め、柄刀一の集大成といった大傑作といえるでしょう。 本格ミステリファンを名乗る者ならば必読です……と言いきっても良いのではないでしょうか。 |