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りゅうさん
平均点: 6.53点 書評数: 163件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.9 6点 中途の家- エラリイ・クイーン 2011/12/11 08:17
 相変わらず、井上勇氏の訳は読みにくく、序盤は特に読み進めていくのに苦労しました。被害者の意外な二重生活が判明してからは、意外な事実が次々と明らかになり、引き込まれる展開でした。「災厄の町」もそうでしたが、法廷場面は面白く、読みやすく感じました。肝心のロジックですが、やはりこじつけ感は拭えません。真相説明で、エラリーは犯人の9つの特徴を挙げて絞り込んでいるのですが、最後の2つを除くと推測の域を出ず、最後の2つの特徴も犯人を絞り込むだけの十分条件とは言えません。特に1番目の特徴をエラリーは絶対的な条件として論理を進めているのですが、この特徴を導き出した物証とその特徴との関連性に関しては、現在の読者から見れば全く必然性を感じないでしょう。

No.8 8点 スペイン岬の秘密- エラリイ・クイーン 2011/12/04 21:54
 真相の意外性と面白さ、その意外性を産むための設定の巧妙さ、犯人を絞り込むロジックの鮮やかさに好印象を持ちました。
 裸で発見され、衣服をもぎ取られていた被害者。なぜ、衣服をもぎ取られたかが最大の謎で、真相説明でエラリーが考えられる理由を1つに絞り込むのですが、実はその理由は私にとっては想定の範囲内でした(犯人までは想定していませんでしたが)。しかしながら、エラリーが最初に陥った誤謬にまんまと騙されて、その理由を破棄してしまいました。探偵が仕掛けたトリックとも言うべきもので、他の作品でも似たような経験をしたことを思い出しました(エラリーは油断がなりません)。この奇妙な裸死体を成立させるための工夫や、錯誤を起こさせる要素の盛り込み方が実に巧妙です。誘拐事件と殺人事件との関係、最後まで謎を引っ張るためのマントの使い方なども見逃せません。ロジックに関しても、作者の他の作品で感じられるようなこじつけ感や無理矢理感がなく、切れ味抜群で、国名シリーズの中で最も説得力がありました(ローマ帽子、アメリカ銃、シャム双生児は未読ですが)。



(完全にネタバレをしています。要注意!)
 犯人は裸で現場に行っているのですが、水着で行く方が確かに自然でしょう(水着で行き、公道を通って帰るには水着でも目立つから、服を奪ったという真相でも良いように思いますが)。
 裸で現場に行った理由は、誘拐事件の計画で頭がいっぱいで、水着を忘れたからではないでしょうか(笑)。

No.7 6点 フランス白粉の秘密- エラリイ・クイーン 2011/06/19 14:17
 殺人事件は1件だけで、地味な操作過程が延々と続き、やや単調な印象は否めません。しかしながら、出入りが管理されている夜間のデパートで犯人がどのように出入りし、また、なぜ壁寝台の中に死体を隠したのか、という謎は魅力的に感じました。作中で、エラリーが「この事件には実にたくさんの枝葉があります」と語っているように、事件にまつわる数多くの証拠が示され、それが事件の解決にうまく活かされているのも好印象です。「Zの悲劇」と同様に、最後に関係者を一堂に集めて、消去法で犯人を絞り込むロジックが披露されるのですが、やはり、このロジックには必然性が欠けていて、不満に感じました。最後に、クイーン警視が「法的根拠はない。山勘があたった。」と言っているのですが、そのとおりでしょう。


(完全にネタバレをしています。要注意!)
・ エラリーは、書斎の5冊の本が入れ替わっていることに犯人が犯行当日まで気付いていないことから、過去5週間に書斎には一切入室していない人物が犯人でであると結論付けているのですが、根拠が弱いと思います。書斎の持ち主であるサイラス・フレンチ氏でさえ、本の入れ替えには気付いていなかったのですから。
・ エラリーは、いくつかの条件を挙げて犯人を特定しているのですが、この条件に当てはまるのは本当にこの人物だけでしょうか。デパートの他の探偵でもこの条件に当てはまると思うのですが。
(Tetchyさんの疑問について)
「フレンチが置いていた本は、夫人が殺されて血痕が付いたために処分されたのではなかったのか?」
 犯人は、本の処分は行なっていません。犯人は、ブック・エンドのフェルトに血痕が付いたので、フェルトの取り替えは行なっていますが、本の入れ替えは行なっていません(本には血痕が付かなかったということでしょう)。本を入れ替えたのは、秘書のウィーヴァーです。「27 6番目の本」の章の真ん中あたりで、ウィーヴァーが「ぼくは、書物が手にはいると、そのたんびに、老人のブックエンドの間にそのまますべり込ませておいたんだ。同時にまた冊数を同じにしておくために、老人の本を1冊ずつ本立からひっこ抜いては、本棚のなかのがらくた本のうしろにかくしておくようにしていた。」と言っています。
「そして腑に落ちないのは、本を麻薬取引の連絡として利用した点。(中略)百貨店の広大な本屋の中でただ曜日の頭文字と同じという手掛かりだけで1冊の本を探し出すというのはかなり骨だし、相手が見つける前に誰かがそれを買ってしまう恐れがあるだろう。」
 「28 ほぐれる糸」の章で、「スプリンジャーが閉店後に本に連絡事項を書き込み、あらかじめ決められた書棚に置いておく。次の朝、使いの者は出来るだけ早く来て本を購入すれば良い。」旨のことを、エラリーが説明しています。

No.6 5点 Zの悲劇- エラリイ・クイーン 2011/06/14 18:50
 やっぱり、X、Y、Zの中では一番見劣りがするような気がします。最後にレーンが犯人を絞り込むロジックを披露しているのですが、このロジック及び作者のヒントの提示の仕方には疑問があります。また、真相説明まではドウ以外の容疑者候補が絞られないままで、他の人物のアリバイや動機に関する議論が全くない点にも不満を感じました。


(完全にネタバレをしています。要注意!)
・ レーン及びペーシェンスの推理の大前提となっているのが利き腕・利き足に関する一般原則ですが、根拠としては極めて薄弱と言えるでしょう。
・ レーンは、フォーセット上院議員の机の上に残されていた封筒の一つに、封筒表面の左右にクリップの盛り上がった痕があることから、犯人がいったん手紙を取り出して読み、戻すときに最初の入れ方と逆に突っ込んだことを推理しています。このクリップの件はどこに書かれていたのだろうと思って読み返してみると、「三番目の封筒は典獄あてのもので、両端に紙クリップの、もりあがった痕がある」との記述しかありません。読者が、この記述だけを読んでこの封筒に異常があることを見抜くのは、まず無理でしょう(手紙の両端をクリップで留めている場合もあります)。せめて、開封して、紙クリップが1箇所にしかなかったことを示すべきではなかったでしょうか。
・ 犯人がフォーセット博士からきた手紙をすり替えて、ドウの脱走日を水曜日から木曜日に変更させた件に関して、レーンは水曜日が死刑執行日であり、犯人がそれに出席する必要があったためだと決め付けています。死刑執行に出席していない刑務所職員の中に、別件により水曜日の都合が悪かった職員が存在していた可能性を見逃しています。

No.5 8点 災厄の町- エラリイ・クイーン 2011/03/28 19:37
 クイーンの文章は退屈で読みにくい印象があり、本作品も読みやすいとは言えませんが、ストーリーに起伏があって、法廷場面は特に楽しめました。エラリイの法廷での発言には驚かされました。毒殺事件の犯人とその手法については私も推測どおりで、ある程度ミステリを読んだ人にはわかりやすいと思います。ただし、全体の謎は複雑で、私は見抜くことが出来ませんでした。エラリイが確認したある事柄によって、完全にミスリードされてしまいました。エラリイの説明には、複雑に絡んだ糸がスルスルとほどけていくような爽快感があるのですが、謎作りのためのご都合主義と感じられる部分もあります。


(完全にネタバレをしています。要注意!)
・ エラリイが、ローズマリーの受取りのサインとローズマリーから来た手紙の筆跡を鑑定することによって、ローズマリーがジムの妹であることを証拠立てる場面があるのですが、これによって見事に騙されてしまいました。
・ (エラリイの説明によると、)ジムは、元の妻(ローズマリー)の殺害を計画した際に、自分に罪がないように見せかけるため、日付の異なる三通の手紙を妹あてにあらかじめ書き残しています。結局殺害は実行されなかったので、手紙も発送されず、この手紙が後日発見されて、毒殺事件の欺瞞のもととなっています。しかし、こんな手紙がカモフラージュになるとは思えませんし、あらかじめ書き残しておく理由がわかりません。この手紙の存在は不自然で、謎作りのためのご都合主義に感じられます。

No.4 7点 Yの悲劇- エラリイ・クイーン 2011/01/23 20:53
 ネタバレ本で犯人を知っていたため、これまで未読だった作品。意外な犯人で知られている作品ですが、論理的な推理が展開され、犯人以外での意外性もあり、犯人を知った上でも十分に楽しむことが出来ました。ヘレン・ケラーのような三重苦を背負ったルイザという女性が登場し、謎の設定にうまく活かされています。途中で披露されるロジック(ハッター夫人を殺害した人物と毒の梨を果物かごに入れた人物が同一であることや、犯人の目的が夫人の殺害であってルイザの毒殺でないことを証明するもの)はなるほどと思いました。しかし、ルイザの証言から犯人の〇〇を推理して、犯人を特定するロジックは、こじつけとしか思えません。

No.3 8点 オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン 2010/07/10 17:30
(若干のネタバレあり)
 作者との相性が悪く、ようやく、これはと思える作品に出会ったという感じだ。1番目の殺人トリックが秀逸。見事に騙された。エレベーターの出入り口が2箇所あるのが気になり、何かあるとは思っていたのだが。ロジカルに犯人を特定していくのが作者の十八番なのだろうけれど、あまり説得力を感じない(この辺が相性の悪さだと思う)。井上勇氏の訳本で読んだが、お世辞にも名訳とは言えず、特に前半部は読み進めていくのに苦労した。

No.2 5点 ギリシャ棺の秘密- エラリイ・クイーン 2010/06/19 16:17
 国名シリーズでも評価の高い作品だが、作者との相性が悪いのか、イマイチであった。読者挑戦ものだが、犯人を特定する根拠が乏しいと思う。作者お得意のロジカルに犯人を特定していく場面があるのだが、その理由に納得できなかった。犯人は捜査を混乱させるために偽りの手掛かりをいくつもばらまいている。エラリイが犯人を特定した理由についても、犯人が捜査を混乱させるためにわざとそうしたという見方もできるのではないだろうか(私は全く別の人物を犯人と考えていた)。

No.1 5点 エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン 2010/02/09 20:50
国名シリーズでは最も評価の高い作品のようだが、あまり感心しなかった。最後の犯人追跡の場面はテンポが良く読みやすいが、中盤あたりは単調で退屈だった。
 色々詰め込みすぎていて、ゴチャゴチャした印象。警察の捜査が杜撰。探偵エラリー・クイーンの講釈もあまり説得力のあるものではない。第3の殺人の実現可能性には疑問あり。
 このような遠大な犯罪計画を立てる犯人が存在するとは思えない。

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りゅうさん
ひとこと
 横溝正史の作品を集中して読んだ時期はありましたが、これまではミステリを文学の1ジャンルにすぎないと考え、特にミステリにこだわった読書をしてきたわけではありませんでした。このサイトの書評を見て、ミステリ...
好きな作家
あえて挙げると、ディクスン・カーと横溝正史
採点傾向
平均点: 6.53点   採点数: 163件
採点の多い作家(TOP10)
横溝正史(22)
アガサ・クリスティー(19)
鮎川哲也(10)
エラリイ・クイーン(9)
ジョン・ディクスン・カー(7)
有栖川有栖(7)
森博嗣(5)
泡坂妻夫(5)
麻耶雄嵩(4)
西澤保彦(3)