皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1809件 |
No.35 | 6点 | ハヤブサ消防団- 池井戸潤 | 2023/09/16 13:52 |
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地上波のTVドラマも好調な池井戸潤の最新作。
これまでの「勧善懲悪もの」とは一線を画した作品になっている模様だが・・・ 単行本は2022年の発表。 ~信州・ハヤブサ地区に移住してきたミステリー作家を待ち受けていたのは連続放火事件だった。果たしてその真相とは? 東京での暮らしに見切りをつけ亡き父の故郷であるハヤブサ地区に移り住んだミステリー作家の三馬太郎。地元の人の誘いで居酒屋を訪れた太郎は消防団に勧誘される。迷った末に入団を決意した太郎だったが、やがてのどかな集落でひそかに進行していた事件の存在を知る・・・~ 前回の書評(「ノーサイドゲーム」)で、「もうそろそろ、この作風(勧善懲悪+企業ドラマ)を続けるのは厳しいかも・・・」なんていうコメントに対する作者の答えが本作・・・なわけはない! ないんだけど、確かにプロットは一変している。ただし、読んでいくうちに何となく過去作の「ようこそ我が家へ」と似たようなプロットであるように思えた。 舞台が都会と田舎という違いはあるけど、日常の普通の暮らしをしているなかに、密やかに事件や悪意が生まれ、それが徐々に自分に近づいてくる恐怖。 これがふたつの作品に共通している。要は、サスペンスでよく出てくるプロットということ。 作者久々のミステリーということで、いったいどんな仕掛けが用意されているのかと期待はしてみたものの、正直ミステリーとしての興趣は“超薄”である。 謎多き美女として登場する「彩」の立ち位置がくるくる変わり、そこのフーダニット的な興趣は感じるし、「家系図」を軸にしたドロドロの血の宿命なんていう「昭和の時代かよ!」って言いたくなるような仕掛けもあったりはする。 するんだけど、そこに「深み」は感じない。 道具立てはいろいろと並べて、ミステリーというスパイスはふりかけてみました。どうぞ!って出された料理だったけど、うーん。これは何料理ですか?って作者に聞きたくなってくる。そんな感想(よく分からん感想で申し訳ない) もう無理にミステリーに寄せる必要はないんでしょう。作者の「強み」はやはり「人間ドラマ」なのだと再認識した。 本作でも、主人公の太郎はもちろん、ハヤブサ消防団に所属する団員のひとりひとり、その他の村民に至るまで、実に生き生きと描かれている。(むしろ真犯人キャラの書き分けが一番つまらない) それと日ごろから何となく目にしたり、耳にしたりするけど、一般的にあまり知られてない事柄についてのフォーカスの当て方(本作では当然「消防団」。これが実に生き生きと描かれてる。過去作でもラグビー?や農機、などなど) ということでスミマセンでした。作者はこれからも「勧善懲悪+企業または人間ドラマ」を書き続けるべきです。 そして、日本を代表する役者たちが精一杯の演技をする。これが「正解」(なのでしょう)。 |
No.34 | 5点 | ノーサイド・ゲーム- 池井戸潤 | 2023/08/13 13:25 |
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今さらの本作である。ちなみに地上波ドラマは番宣のたぐいも殆ど見ていません。
ただ、本作を読みながら、読んでる途中も米津玄師が頭から離れませんでしたが・・・ 単行本は2019年の発表。 ~未来につながるパスがある。大手自動車メーカー・「トキワ自動車」のエリート社員だった君嶋隼人は、とある大型買収案件に異を唱えた結果、横浜工場の総務部長へ左遷させられ、同社ラグビー部のアストロズのGM(ゼネラル・マネージャー)を兼務することに。かつて強豪として鳴らしたアストロズも今は成績不振に喘ぎ、鳴かず飛ばずの状況。巨額の赤字を垂れ流していた。「アストロズを再生せよ」。ラグビーに関して何の知識も経験もない、ズブの素人である君嶋がお荷物社会人ラグビー部の再建に挑む!~ これは、もう、池井戸潤の純正フォーマットである。今まで何度も接してきたフォーマット。 これだったら、別に本人でなくとも誰でも書けるような気がしないでもない・・・ それでも、そこかしこに感動ポイントは組み込まれている。特に圧巻は、最後のアストロズVS宿敵サイクロンズの天王山の戦い。 浜畑が、七尾が、佐々が、アストロズの勝利に向かって全力でプレイする(きっと、地上波を見ていた方なら、あの一場面が頭の中にプレイバックしているのでしょう)。まるで、目の前で見ているかのような臨場感。もう、さすがの筆力を感じてしまう。 そして、いつものように企業内の権力争いも本作の重要なピースになる。 ただし、「半沢直樹シリーズ」ほどのクドさがないところは、逆に食い足りなくて、今回の悪役となる常務取締役もアッサリと白旗をあげてしまう・・・ まぁさすがにこのフォーマットも食傷気味にはなってくるよなぁー プロットの二番煎じ感もあるので、作者にとっても踏ん張りどころかもしれない。 読者にとっては安心して楽しめるという利点はあるのだけど・・・ いずれにしてもラグビーW杯も近づくこの時期、ラグビーというスポーツのメジャー化に一役買ったのは間違いないところだろう。それだけでもスゴイ気はする。 (やっぱりラグビーは「キング・オブ・スポーツ」だと思う) |
No.33 | 3点 | 民王 シベリアの陰謀- 池井戸潤 | 2022/05/07 18:29 |
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まさか続編が出るとは! もはや池井戸人気の賜物としか言えない。
前作の記憶はもはやないのだけど・・・読んでくうちに「あぁそうだったなぁー」って思い出してきた 単行本は2021年発表。 ~人を狂暴化させる謎のウィルスに、マドンナこと高西麗子環境大臣が感染した。止まらない感染拡大、陰謀論者の台頭で危機に陥った第二次武藤泰山内閣。ウィルスはどこからやってきたのか? 泰山は国民を救うべく息子の翔、秘書の貝原とともに見えない敵に立ち向かう!~ うーん。なんでこんな作品出したんだろう? もちろん2年以上以上続いている「新型コロナウィルス禍」はあらゆるもの、もちろん出版界にも影響を与えているのは間違いないのだけど、あえてこんなテーマをぶつけてこなくても。 これじゃあ、単なる「イロもの」作品になってしまう。 1つ1つあげつらっても仕方がないのだけど、今回はしかも「シベリア」の陰謀っていうことで、シベリア=ロシアということも確信犯なのか、単なる偶然なのか? まぁコロナ禍当初からウィルス=中国震源説やら怪しげな風評はいくつもあったし、作中に出てくる、温暖化で北極やシベリアの永久凍土が溶けだしてそこから太古のウィルスがはびこる、なんてゴシップ、いくつも目にしたような気がするし。 そんな都市伝説的な話をいくつもつなぎ合わせたような話=それが本作。 こんな作品を池井戸潤が発表してはダメだ。 作者に期待しているのは、熱い(暑い?)男たちが、自分の矜持をかけて、組織の壁に決して挫けることなく、ひたすら前に突き進む物語だ。 フィクションと分かっていても、心を揺さぶられずにはいられない、そんな物語を期待しているのだ。 それを曲げてはいけない。こんな世間に迎合するような作品は他の作家に任せてもらいたい。 いやいや、どうでもいいような書評かいてしまったなぁ・・・ (もう続編はいいよ) |
No.32 | 6点 | 半沢直樹 アルルカンと道化師- 池井戸潤 | 2021/12/20 20:28 |
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正式には『半沢直樹 アルルカンと道化師』である。なお、「アルルカン」とはピエロとともに伝統的なイタリア喜劇に登場する人気のキャラクターとのこと。
で、あの半沢直樹シリーズの最新刊である。さあ、今回も「倍返し」は成功するのか? 顔芸の方々は出てくるのか? 2020年の発表。 ~東京中央銀行大阪西支店の融資課長・半沢直樹のもとに、とある案件が持ち込まれる。大手IT企業ジャッカルが業績低迷中の美術系出版社・仙波工藝社を買収したいというのだ。大阪営業本部による強引な買収工作に抵抗する半沢だったが、やがて背後に潜む秘密の存在に気付く。有名な絵に隠された「謎」を解いたとき、半沢が辿り着いた驚愕の真相とは?~ 皆さん、ご安心ください。 今回も「倍返し」は成功します。もしかしたら、過去最高にスカッとする「倍返し」かもしれません。 すべての営業拠点が集まる会議の中で、半沢直樹がそれまで散々煮え湯を飲まされたいやーな相手を完膚なきまでに糾弾する! サラリーマンなら分かるでしょうが、こんなスカッとすることはありません。 日本中の皆さんが狂喜乱舞した地上波のドラマ「半沢直樹」。あんな社会現象とまでなったシリーズの最新作だから、さぞかし作者にもストレスがかかったでしょうけど、そんなことは露ほども出さずいつもどおり。 半沢直樹は常に正しい判断をし、敵役の本部の面々は時代劇の悪役さながら悪事に身を染めていく。 まさに作者独特の「勧善懲悪」ストーリー。 時系列でいうと、前作(「銀翼のイカロス」)よりもやや昔、半沢直樹の大阪時代のお話。シリーズの序盤に戻ったような設定になっている。帯には「探偵半沢 絵画の謎に挑む」とあり、まるで本当のミステリー作品のように煽っていますが、そこまでのものではない。でも、真相に辿り着いた半沢直樹は・・・なかなかに粋な解決を図ります。その辺は「倍返し」とともに、本作の後味の良さを引き立てているでしょう。 やっぱり旨いですよ。作者は。もう、さすがのストーリーテラーぶり。読者の機微というものをよーく分かっていらっしゃる。敬意を表すしかありません。 またすぐにドラマ化されるんだろうなー。でも、本作は顔芸なんかでごまかさない方がいいと思うなぁー (個人的に一番刺された台詞。半沢の部下である南田が言った「どうすれば生き残れるのか、中小企業の経営っていうのはいつだって迷いの連続なんだよ。それに寄りそうのが我々の仕事だ」。その通り) |
No.31 | 6点 | 下町ロケット ヤタガラス- 池井戸潤 | 2020/10/13 22:35 |
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前編的位置付けの「下町ロケット ゴースト」に続いての完結編となる本作。
佃製作所VSダイダロス+ギアゴースト、ついでに重田+伊丹VS的場の戦いにも終止符が訪れる・・・はず。 単行本は2018年の発表。 ~宇宙(そら)から大地へ・・・。準天頂衛星「ヤタガラス」が導く、壮大な物語の結末は?~ 「ゴースト」の書評の際に、『もはや池井戸作品に対してはあれこれ書評しない・・・』などと書いてしまった。 ということで終了。 ・・・ いやいや。さすがにそれでは気がすまん。ということで、くだらない感想だけは書き記すこととする。 Amazonの書評を拝見すると、これがもう予想以上に高評価だらけ。中には、「文学性が高い」などと書かれている方までいらっしゃる。 うーーん。個人的には「やや安直」というのが読了後の感想。 読者の方も、もはや物語の展開などは自明の上で、それでもその自明の結末を待ち構えている。 これって・・・そうか、それが歌舞伎との共通項? 歌舞伎だって、ストーリーはほぼ自明。それでも観客は歌舞伎自体の様式美や俳優の熱のこもった名演を期待している。どうりで・・・歌舞伎俳優が嵌まるわけだ。 などと否定的な感想を書いてますが、やっぱり読ませる力は本作も健在。 的場取締役が失脚する場面なんて、個人的にも拍手喝采。「ざまあみろ!」って思わず叫びそうになった。(大げさ) 本作のテーマである農業。担い手の殆どが60歳超の高齢者ということで、このままいけば日本の農業は壊滅してしまうという・・・。でもこれって、地方なら他の産業も同様。建設業だって、高齢者の比率は相当高い。 今から十分に備えておかないと、その時になって慌ててもどうしようもない。そんなことを考えさせられる作品。 作者の目の付け所、取材力に関しては敬意を表します。 が、そろそろ原点回帰。ミステリー度の濃い作品を期待してます。 |
No.30 | 6点 | 下町ロケット ゴースト- 池井戸潤 | 2020/09/27 19:41 |
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「下町ロケット」のシリーズ作品の第三弾。皆さんご存じのとおり、すでにTBSの地上波で放映され、大人気を博した作品。まっ、かくいう私はチラ見くらいしかしてないので、新鮮な気持ちで読了したわけですが・・・
単行本は書下ろしで2018年の発表。 ~宇宙から人体へ。次なる舞台は「大地」。佃製作所の新たな戦いが始まる。倒産の危機や幾多の困難を社長の佃航平や社員たちの熱き思いと諦めない姿勢で切り抜けてきた大田区の町工場「佃製作所」。高い技術に支えられ、経営は安定したかに思えたが、主力のエンジン用バルブシステムの納入先である帝国重工の業績悪化、大口取引先からの非情な通告、そして番頭・殿村の父が倒れ、一気に危機に直面する。ある日、父の代わりに栃木で農作業をする殿村のもとを訪れた佃は、その光景を眺めているうちに一つの秘策を見出す・・・~ 今日、2020年9月27日、日曜日。いよいよ地上波ドラマ「半沢直樹」の最終回の日。 ネットニュースは最終回の展開予想で大騒ぎ。今回は歌舞伎俳優たちが大活躍。得意の「顔芸」で濃い演技を見せたり、予想もつかない展開の連続で巷の話題をさらってる状況・・・のようだ。(新聞によると、中国でも大人気になってるそうだ・・・スゴイ) でも、あれ見てると、銀行員ってなんなんだ! ってどうしても思ってしまう。もちろん極大的に戯画化していることは理解するが、政府にたてつく一介の銀行員なんて・・・。(現実に当てはめると、そこら辺の銀行員があの二階幹事長に面と向かって非難するんだからな・・・ありえん!) いやいや、「半沢直樹」の書評じゃなかった。「下町ロケット ゴースト」である。 ドラマをご覧になった方はお分かりのとおり、本作は「佃製作所VSダイダロス+ギアゴースト」の前編的位置づけの作品。テーマは、「トランスミッション」であり「農業」である。 こんなことをいうと元も子もないけど、もはや池井戸作品にあれこれ書評する気はない。 とにかく、どうぞ、頭を真っ白にして、作品世界に没頭してください。今回も、佃航平は熱い男だし、殿村や佃製作所の社員はとにかく一生懸命に頑張ります。悪役たちも一生懸命悪役を全うしています。 とにかく、一生懸命なんです。「臭い」と言われようが、現実離れしていると言われようが、真っ直ぐな人間や言葉はいつの時代も心に刺さるのでしょう。じゃなかったら、池井戸作品がここまで受け入れられることはないはず。 作中での殿村の放つ科白『サラリーマンは安定なんかしてない。意に沿わない仕事を命じられ、理不尽に罵られ、嫌われて疎ましがられても、やめることができないのがサラリーマンだ。経済的な安定と引き換えに心の安定や人生の価値を犠牲にして戦っている・・・』 うーーん。染みる言葉だ。 |
No.29 | 6点 | 花咲舞が黙ってない- 池井戸潤 | 2018/04/15 21:18 |
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地上波TVドラマでお馴染みとなった『花咲舞』が大活躍(!)する連作短篇集。
2016年1月~10月にかけて、読売新聞に連載された作品の単行本化。 読みながらどうしても杏と上川隆也の顔がチラ付いてしまって・・・ ①「たそがれ研修」=五十歳を超えて、組織の中でもはや“上がり目”のなくなった男たち・・・。そうまさに「黄昏」なのだ。サラリーマン小説としてはよくあるテーマ。オッサンも哀しいわけですよ、そんな哀しいオッサンに何もそんなに強く当たらなくても・・・ ②「汚れた水に棲む魚」=テーマは“反社会的勢力”。まっとうな会社にとっては実にやっかいな存在。ただし、完全に無視はできない存在だったりする・・・。ここにも私利私欲を最優先する罰すべき男たちが登場。 ③「湯けむりの攻防」=なぜか“湯の町・別府”が舞台となる第三編。しかも、なんとあの男が登場! そう半○直○だ! なぜ彼が登場するのかは実際に読んでみてください。ついに作者の主要キャラふたりが作中でニアミスしてしまう刹那! ④「暴走」=銀行でローンを断られた男が、その後自動車の暴走事件を引き起こす! 一見単なる事故に思えた事件を花咲舞の鋭い勘が意外な真相に導く。でも欠陥住宅はいかんよ! 男の一生の買い物なんだから! ⑤「神保町奇譚」=唯一ほっこりするいい話がコレ。確かに神保町界隈には地味だけどいい仕事してる飲み屋さんが多そう。一冊の通帳から意外な真実を探り出すというのは、作者の作品の原点かもね。 ⑥「エリア51」=物語もついに佳境へ!というわけで、東京第一銀行を揺るがす大事件が勃発する第六篇。ふたりもなぜかその渦中に巻き込まれるわけだが、真相に近づきすぎたふたり(特に相馬)にピンチが・・・。 ⑦「小さき者の戦い」=いやだねぇーこういう組織って・・・などと思わずにはいられない最終編。結局は予定調和の結末に終わるかと思われたその時、またしてもあの男が登場! そう、半○直○だ!ってクドイな・・・。 以上7編。 花咲舞があまりにもスゴすぎて、こんな一般社員本当にいたら嫌だな・・・ すべてに対して「白は白、黒は黒」って言いたいんだけど、どうしてもしがらみや複雑な人間関係を考えて煮え切らない態度を取ってしまう自分自身と違いすぎるからな・・・ でもなぁ、多くのサラリーマンはそういう組織の嫌なところを見ながら、微妙なバランスの中で生きている。当然プライドもあるし、正義感もあるのだか、小さな幸せを守るために奮闘している。 って、そんなことを言うと花咲舞に笑われそうだな。 やっぱ、女性の方が強いね。 |
No.28 | 7点 | アキラとあきら- 池井戸潤 | 2017/08/01 22:51 |
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池井戸潤の文庫オリジナル最新作。
名付けて『アキラとあきら』。もちろん人の名前です。 すでにWOWWOWでドラマ化され好評を博した(という噂)・・・。(もはや絶対にドラマ化されるよねぇ・・・) ~零細工場の息子・山崎瑛(アキラ)と大手海運会社・東海郵船の御曹司・階堂彬(あきら)。生まれも育ちも違うふたりは、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きてきた。やがてふたりが出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練が降りかかる。逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭した戦いが始まった・・・。感動の青春巨編!~ これは・・・言うならば、「池井戸版・大河ドラマ」かな? まるで一連の山崎豊子作品(「華麗なる一族」とか「日はまた昇る」とか)を思わせる大作だった。 本作。最新作とは言ったものの、実は『問題小説』誌に2006年から2009年にかけて足掛け三年間連載された作品の文庫化となる。 つまり、例の「半沢直樹」でブレークし、その後数々のヒット作を手がけることとなった作者が、まだ燻ってた時代の作品ということ。 初期作品では、「銀行総務特命」や「銀行狐」など、あくまでも銀行を主軸としたプロットが目に付いたが、本作では銀行が主要な舞台とはなるものの、銀行と相対する取引先企業にも同等にスポットライトを当て、重厚で深みのある人間ドラマに仕立てている。 巻末解説にも触れられているけど、稀代のヒットメーカーとなる池井戸潤の“萌芽的作品”に当たるのかもしれない。 ということで本筋なのだが・・・ 「勧善懲悪」ストーリーはいつものとおり。むしろ本作ではいつも以上に「いい人」と「悪い、醜い人」の区別が明確。 これじゃまるで子供が見る特撮ヒーローものみたいで、そこまでデフォルメしなくても・・・という感想を持つ方も多いかも知れない。 でも、この「正義は勝つ!」っていうのを徹底しているのが、やっぱり作者のいいところなんだろうな・・・ 『こんな奴やっつけちゃえ!』って思う読者の心情に応えるかのように、主人公が熱いハートでギャフン(死語!)と言わせるのだ。 まぁでも、人間って弱い存在だよねぇ・・・ 特に「金」が絡むと、人間っていう奴はこんなにも卑屈になれるのかと思う。 人間の「欲望」が結集したものが「金」ということなんだろうな・・・なんて今さら思ってしまう。 ただ、全体的な評価としては、手放しで褒められるというレベルではない。 連載もののためか、置き去りにされた脇道も結構目に付くし、分量もここまでいるか?というほどのボリュームだ。 でも、そこそこ楽しい読書になるのは、やっぱり池井戸潤が好きだ、ってことなんだろうなぁー。 |
No.27 | 8点 | 陸王- 池井戸潤 | 2016/10/08 22:04 |
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池井戸潤の最新作。
名付けて『陸王』・・・って「民王」の続編かと思ったら、全く違うお話でした。 ハードカバーで600頁弱という分量にもかかわらず、数時間で読了するという快挙! ~埼玉県行田市にある老舗足袋業者「こはぜ屋」。日々、資金繰りに頭を抱える四代目社長の宮沢紘一は、会社存続のためにある新規事業を思い立つ。これまで培った足袋製造の技術を活かして「裸足感覚」を追求したランニングシューズの開発はできないだろうか? 世界的スポーツブランドとの熾烈な競争、資金難、素材探し、開発力不足・・・。従業員二十名の地方零細企業が伝統と情熱、そして仲間の強い結びつきで一世一代の大勝負に打って出る!~ これは・・・ある意味、作者の「集大成」とも言える作品なのではないか? 読後の印象としては、『(「下町ロケット」+「ルーズヴェルト・ゲーム」)÷2』とでも表現すればよいか。 まぁ悪く言えば、二番煎じであるし、いつものとおり勧善懲悪であるし、予定調和であるし、途中は山あり谷ありだけど最後はお決まりのハッピーエンドであるし、相変わらず銀行員は悪者だし・・・ということになる。 でもなんでだろう。 それでも「読ませてしまう」熱量が確かに存在するのだ、作品の中に! これまでも再三再四同じようなことを書いてる気もするのだが、作者の作品には「なぜ働くのか」というものを超えて、「仕事とはなにか」或いは「働くとはどういうことなのか」、更に「幸せとはなんなのか」・・・あらゆる命題が読者に突きつけられているのだ。 私にはこれを単なるエンターテイメントとは受け取れない。 作品世界に浸りながら、自分自身の現状や仕事へのスタンス、これまでの人生やこれからの生き方・・・そうした様々なもので頭の中が渦巻いてしまう。 読了後しばらくして、これって「スポ魂(スポ根?)」だなって唐突に気付いた。 登場人物たちは根性丸出し、どんな苦難にあっても諦めることなく、逞しく前へ進んでいく。最初は斜に構えてたヤツもだんだんイイ奴に変わっていく・・・ いつの間にかスゴイ作家になったもんです。 でもこれが「集大成」と感じるということは、次も同じような話を書いたら、さすがに「エッー」って思うということではないか。 そういう意味では、作者もツライかもね。 (まったくミステリー書評ではない点、ご容赦ください) |
No.26 | 7点 | 下町ロケット2 ガウディ計画- 池井戸潤 | 2015/12/31 00:14 |
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2015年、そして平成27年の締めくくりは、今や“超売れっ子作家”になられた作者の最新作で。
阿部寛主演の地上波の好評も耳に新しい本作。 前作は直木賞まで受賞した代表作だけに、失敗のできない続編だが・・・ ~ロケットエンジンのバルブシステム開発により倒産の危機を乗り越えてから数年・・・。大田区の町工場・佃製作所はまたしてもピンチに陥っていた。量産を約束したはずの取引は試作品段階で打ち切られ、ロケットエンジンの開発ではNASA出身の社長が率いるライバル企業とのコンペ話が持ち上がる。そんなとき、社長佃航平の元にかつての部下から、ある医療機器の開発依頼が持ち込まれた。「ガウディ」と呼ばれるその医療機器が完成すれば、多くの心臓病患者を救うことができるという。しかし、実用化までの長い時間と多大なコストを要する医療機器の開発は、中小企業である佃製作所にとってあまりにリスクが大きい。苦悩の末、佃が出した決断は・・・?~ やはり今回も読み手の目頭を熱くさせる物語だった。 もはやストーリーなど紹介する必要もないのかもしれない。 いつもどおりの勧善懲悪・・・ 今回も佃航平をはじめとして佃製作所の社員たちは企業人として、熱くそしてプライドを持って仕事を全うしたし、貴船教授や日本クライン、そして佃のライバルとして登場するサヤマは見事なまでに悪人としての役割を果たしている。 あ~あ。またもやお涙頂戴の型にはまった“いい話”か・・・ って思う人も多いことだろう。 それでも引き込まれて読んでしまう。 なぜ作者の作品がつぎつぎとドラマ化され、高視聴率を稼ぎ出すのか? やっぱり、それは人の心に深く突き刺さる物語だからだろう。 特に、日頃悩んだり苦しんだり、時々いいことがあり・・・そんな小市民的な暮らしを営んでいる多くのサラリーマンたちにとっては、自分自身とシンクロするところもあるし、「そんなうまいことないよなあ」って思う気持ちもあるし・・・ とにかく、やっぱりうまい具合に引き込まれてしまう、ってことかな。 そうはいっても、違う展開や違うプロットの作品も出していかないとそろそろマズイのではないか? もはや全くミステリーとは呼べない作品ばかりになっているだけに、そろそろ初心に帰ってはどうか、っていう気もする。 でも、ついついまた手にとってしまうんだろうね。 (結局、今回のドラマも一回も見ないまま終了・・・) |
No.25 | 8点 | 銀翼のイカロス- 池井戸潤 | 2015/01/17 22:07 |
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「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」そして「ロスジェネの逆襲」に続くシリーズ四作目。
今回の舞台は「帝国航空」。そう日本航空の再建を元ネタに、いつものシリーズキャラクターが大暴れ(?)するはず・・・ ~半沢直樹シリーズ第四弾。今度の敵は巨大権力。新たな敵にも「倍返し!」。頭取命令で経営再建中の帝国航空を任された半沢は、五百億円もの債権放棄を求める再生タスクフォースと激突する。政治家との対立、立ちはだかる宿敵、行内の派閥争い・・・etc。プライドをかけ闘う半沢に勝ち目はあるのか?~ というわけで、あの「半沢直樹」である。 今、日本で一番有名な銀行員である(?)・・・(私自身、地上波は全く見ていないのだが) 今回も更に強力になった敵対勢力に対し、正面突破を挑んでいく半沢。 とにかく熱い、熱い、暑い男たちの物語。 (お楽しみの「倍返しだ!」が登場するのは単行本の303頁一回だけ! これってネタばれだろうか?) ただ、正直なところ、途中まではあまりにも分かりやすく、極端に言うと戯画化した正義VS悪者という構図に、「何だかなぁ・・・単純すぎるだろ!」というように思いながら読み進めていた。 さすがに、池井戸作品も「馴れ」と「人気の過熱」が悪い方へ来てるのかという落胆も感じていたのだ。 しかし、やはり作者は只者ではなかった。 本作のヤマそして白眉は「終章」に詰まっている。 半沢たちの活躍で帝国航空に対する債権放棄を回避、そして半沢の前に立ち塞がっていた大物政治家にも「ギャフン(死語)」と言わせ、物語が大凡の終局を迎えたその時。 中野渡頭取が敵対勢力である紀本常務に対して切々と語る言葉・・・ 銀行員として、社会人として、そして何より人間として、どういう行動を取るべきなのか。 欲望、保身、妬み、プライド、誇り・・・人間は様々な感情を抱えながら生活している。 作者は人間の“素”の感情を表現するのに、「銀行員」そして「銀行」という舞台こそが最も適しているということを熟知しているに違いない。 私自身も社会人の端くれとして、日々過ごしている。 いろいろなしがらみも当然抱えているのだが、それでも「誇り」「矜持」を持って前へ進もう。 そう思わせてくれる作品だった。 単純って書いていたが、実は私自身が「単純」だったわけである。 でもズルイよねぇ、作者は。これを計算ずくで書くのだから・・・ |
No.24 | 5点 | 民王- 池井戸潤 | 2014/04/18 10:41 |
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これが1,001冊目。(これからもマイペースで書評をアップしていきたい・・・)
本作は2010年発表の長編。 今春から「ルーズヴェルト・ゲーム」と「花咲舞が黙ってない(原作は「銀行総務特命」「不祥事」)」のニ本が地上波としてスタート。ますます絶好調の作者が贈る、政界を舞台とした痛快エンタメ小説(+薄味のミステリー風味を少々・・・という感じ) ~「お前ら、そんな仕事して恥ずかしいと思わないのか? 目をさましやがれ!」 漢字の読めない政治家、酔っぱらい大臣、揚げ足とりのマスコミ、バカ大学生が入り乱れ、巨大な陰謀をめぐる痛快劇の幕が切って落とされた。総理の父とドラ息子が見つけた真実のカケラとは? 一気読み間違いなしの政治エンタメ~ 『なんで池井戸潤ってこんなに人気あるんだろう?』 デビュー作以来の古い(?)ファンとしては、最近の異常なまでの池井戸人気は全く想像がつかなかった。 「半沢直樹」は演出の過剰さとハマリ役の俳優陣がうまく噛み合った結果と原作が相乗効果を生んだという気もしていたけど、たまたま一昨日「花咲舞が・・・」を見ていて、やはり作者の作品は、日本人の特性というかセンチメンタリズムに嵌っているということなんだろうと感じさせられた。 池井戸作品のプロットの多くは、ひとことで言えば「勧善懲悪」という実に分かりやすい図式を取る。 そう、時代劇ではお馴染みの悪代官と悪徳商人のコンビを黄門様御一行や将軍吉宗が成敗する・・・という例のやつ。 それをそっくりそのまま銀行業界に置き換えたものが十八番のプロット。 そうなのだ、この“分かりやすさ”と“痛快劇”・・・これこそが人気の秘密なのだろう。多くの作家はこんなこと分かっていながら、あまりの単純さに敬遠してきたものを、作者は躊躇せず書き続けてきたのだ。 これはこれで「信念」の賜物だろう。 読者も「単純だなぁ・・・」と分かっていながら、読み終わったときにはなぜかスッキリした気持ちになった自分がいてビックリさせられる・・・そんな感覚ではないか? ということで本作なのだが・・・(長い前フリだ) 紹介文のとおり、実際に何年か前の内閣をベースに書かれた作品で、実に分かりやすい作品に仕上がっている。 まぁ全体的には肩の力の抜けた作品という印象だし、同時期の他作品に比べて評価できるポイントは少ない。 ってことで、評点としてはこの程度。通勤中に軽く読むくらいが丁度いいかもしれない。 (これで今のところ刊行されている池井戸作品はすべて読了。次作は半沢シリーズの「銀翼のイカロス」かな?) |
No.23 | 7点 | ようこそ、わが家へ- 池井戸潤 | 2013/09/23 16:57 |
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『半沢直樹』が空前の大ヒット!
デビュー当初から作者の作品を読み続けてきた読者からすると、うれしいような寂しいような・・・ そんな複雑な気持ちを抱きながら手に取った本作は文庫オリジナルという今時珍しい作品。 (ハードカバーで出す方が作者も出版社も儲かるように思えるのだが・・・違うのかな?) ~真面目だけが取り柄の会社員・倉田太一は、ある夏の日、駅のホームで割り込み男を注意した。すると、その日から倉田家に対する嫌がらせが相次ぐようになる。花壇は踏み荒らされ、郵便ポストには瀕死のネコが投げ込まれた。さらに、車は傷つけられ、部屋からは盗聴器まで見つかった。執拗に続く攻撃から穏やかな日常を取り戻すべく、一家はストーカーとの対決を決意する。一方、出向先のナカノ電子部品でも、倉田は営業部長に不正の疑惑を抱いたことから窮地へと追い込まれていく。直木賞作家が身近に潜む恐怖を描く!~ 本作も「いかにも池井戸潤!」。「池井戸テイスト」たっぷりの作品。 しかも、最近の「下町ロケット」や「ロスジェネの逆襲」といったベストセラー作品ではなく、ひと世代前の池井戸作品の雰囲気が漂う。 ということで、にわかファンにはやや食い足りないように見えるかもしれないが、個人的にはむしろ新鮮に思えた。 本作は、主人公である気弱な50代の銀行員・倉田を軸に、倉田一家が巻きこまれるストーカー事件と、倉田の出向先で起こる横領事件の二つがほぼ同時進行していく。 そして、この倉田が実に人間臭いのだ。 真面目で気弱、出世はほどほどで良い、面倒なことにはあまり関わりたくない・・・(年齢以外は何となく自分自身にシンクロしてきた) こんなどこにでもいそうなオッサンが、事件に巻き込まれることで、自分自身を見つめ直し、そして成長していく物語なのだ。 それも、「倍返しだ!」などと格好良くキメるのではなく、悩みながら半分ビクビクしながら・・・ やっぱり、どんな人間でもその人なりの「矜持」というものがあるのだろう。 サラリーマンやってると、つまらない見栄や取るに足りない優越感をついつい抱きがちだけど、そんなことじゃないんだよねぇ・・・ そんなことを考えさせられ、そして爽やかなラストに癒された。 もはや名人芸だね。 (マンネリと思う方もいるだろうが・・・) |
No.22 | 8点 | ルーズヴェルト・ゲーム- 池井戸潤 | 2013/06/04 21:34 |
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直木賞受賞作「下町ロケット」に続いて発表された長編がコレ。
もともとは熊本日日新聞など地方新聞数誌に連載されていたものを加筆修正し出版した作品。 ~中堅電子部品メーカー・青島製作所の野球部はかつては名門と呼ばれたが、ここのところすっかり成績低迷中。会社の経営が傾き、リストラを敢行、監督の交代、廃部の危機・・・。野球部の存続をめぐって、社長の細川や幹部たちが苦悩するなか、青島製作所の開発力と技術力に目をつけたライバル企業・ミツワ電器が合併を提案してくる。青島製作所は、そして野球部はこの難局をどう乗り切るのか。負けられない勝負に挑む男たちの感動の物語~ うーん。なんでだろう? いつもの『池井戸節』、「空飛ぶタイヤ」や「下町ロケット」と同じプロットのストーリーが展開されてるんだけど・・・ どうしてこうも感動させられるのか? 本作でも、登場人物ひとりひとりは、悩み、喜び、悲しみ、そして話し合い、ひとつひとつ問題を解決していく。 でも必ずぶち当たる「壁」、そして最後に訪れる「歓喜」。 全てが予定調和、いつもの勧善懲悪なのに・・・それでも登場人物の姿に自身を重ね合わせ一喜一憂している自分がいるのだ。 思いもかけず指名された社長というポストに悩む「細川」、細川に社長職をさらわれた「笹井」、総務部長兼野球部長としてリストラと廃部の板挟みに苦悩する「三上」、そして野球部の面々・・・ みんなが己の矜持をかけ、与えられた立場で全力を尽くしているのだ。 その姿が心に染み入るのだろう。 まさに作者のいう「全てのサラリーマンへの応援歌」ということなのだろうし、青臭いのかもしれないが「オレも頑張ろう」という気にさせられた。 もちろん現実はこんなにうまくはいかないことばかりなのだけど、たまにはこういう男たちの「汗臭い」物語に浸ってみるのもよいのではないでしょうか。 エピローグはちょっと蛇足のように感じたけど・・・ ただまぁ、ミステリー的要素はほぼないということで、評点はこのくらいで抑えることに。 (因みにタイトルは、野球好きの元米大統領F.ルーズヴェルトが語った「野球は8対7の試合が一番面白い」との逸話に基づく・・・) |
No.21 | 8点 | 七つの会議- 池井戸潤 | 2013/01/19 18:12 |
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作者の新刊は、十八番の連作短編集。
日本を代表するメーカー・ソニックの関連会社・東京建電が本作の舞台。 ①「居眠り八角」=東京建電恒例の営業会議。営業部のエース・坂戸課長が熱弁を振るう中、いつものように居眠りするのが部下の八角。八角に対し強硬な態度を続けていた坂戸がパワハラで訴えられたことで、社中に謎と激震が走る。もうひとりの課長・原島の視点を軸に物語はスタートを切った。謎を残して・・・。 ②「ねじ六奮戦記」=ねじ製造業を営む中小企業・「ねじ六」。三代目として悩みながら会社経営に奮闘していた逸朗の元に、東京建電・坂戸から無理難題なコストカットが通知される。悲嘆にくれるなか、一筋の光明が訪れるのだが・・・。 ③「コトブキ退社」=不倫に破れ、日常の仕事にも飽き飽きした東京建電のOL・優衣。予定もないのに結婚退職すると通知した彼女が、自分を変えるために最後に挑んだのが社内での軽食販売プロジェクト。腰掛けOLが自分の殻を破っていく姿には何だが考えさせられるが・・・。 ④「経理屋稼業」=本編の主人公は経理部課長代理の新田。しかも彼は③に登場した優衣の不倫相手。コストアップの原因となっている営業部・原島課長の行動に疑問を抱いた新田は単独調査を始めるのだが・・・。この新田の人となりとか、人当たりはねぇー身につまされる。物語はこの辺から急展開していく。 ⑤「社内政治家」=本編の主人公は出世競争に破れ、閑職へ押しやられた男・佐野室長。顧客からのクレームを調査していくうちに、佐野もまた社内の謎、不審に気付き調査を始める。そして起こした行動が内部告発。ただし、これは動機がちょっと不純。まぁ、部下を徹底的に馬鹿にする上司ってどこにもいるものです。 ⑥「偽ライオン」=東京建電を牛耳る営業部長・北川。野心を抱き、ライバルを蹴落とし、出世競争を勝ち抜いた北川は、しかし失ったものも多かった。そして、ついに暴かれる社内ぐるみの旧悪。 ⑦「御前会議」=親会社からの出向役・村西がついに知ることになった社内の旧悪。それは、親会社の屋台骨をも揺るがしかねない大事件だった。そして開かれる親会社での役員会議。その結果は・・・会社の論理といえばそれまでだが。 ⑧「最終議案」=揉み消されるはずだった旧悪がついに露見。それぞれの人生を賭して働いてきた男たちの行く末は実に皮肉なもの。まぁこれが「勧善懲悪」ということかもしれないが・・・ 以上8編。 うーん。重いねぇ・・・ 最近やや軽め・明るめの作品が続いていただけに、初期の作風に戻ったかのように重厚で考えさせられるストーリーだった。 いつもなら時代劇ばりの勧善懲悪で、勝者と敗者の姿をくっきりと象徴的に浮かび上がらせるのだが、本作の登場人物には明解な勝者は存在しない。「会社の論理」という見えないルールに縛られ、翻弄されていく男たちの姿はよく理解できるだけに切なくなる。 みんな頑張ってるんだけどなぁ・・・。家族のため、生活のため、会社のため、そして自分のため。 でもそれだけではダメなんだろう。 一人の人間として「矜持」を持って、この厳しい時代・世の中を生きかなければならない・・・実に青臭いがそんなことを考えさせられる作品。 サラリーマンにとっては、自身の仕事や人生を振り返るためにも一読してみてはいかがだろうか。 |
No.20 | 7点 | ロスジェネの逆襲- 池井戸潤 | 2012/08/24 19:43 |
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「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」に続く、“破格の銀行員・半沢直樹”を主人公とするシリーズ3作目。
“ロスジェネ”とは、「ロスト・ジェネレーション」の略で、バブル崩壊以降の就職氷河期に社会に出た人たち(世代)のこと。 ~ときは2004年。銀行の系列子会社・東京セントラル証券の業績は鳴かず飛ばず。そこにIT企業の雄・電脳雑技集団社長から、ライバルの東京スパイラルを買収したいとの相談を受ける。アドバイザーの座に就けば、巨額の手数料が転がり込んでくるビックチャンスだ。ところが、そこに親会社である東京中央銀行から理不尽な横槍がはいる。責任を問われて窮地に陥った主人公の半沢直樹は、部下の森山とともに、周囲をアッツと言わせる秘策に出た・・・~ 本作も、「It's the 池井戸潤」とでも言いたくなる作品。 巻頭に本作を巡る人物相関図が挿入されているが、どれが悪人でどいつが善人かすぐに察しがついてしまった。 本作の舞台は、以前にあったライブドア事件をめぐる経済事件(ニッポン放送に対する買収とか)が下敷きになっていると思われ、ちょっと現在の情勢と比べると「古い」という感覚が拭えないが、造形からして「あの人」を思わせる登場人物が出てたり、買収をめぐる増資やホワイトナイトなど買収対抗策についても、「そういえば、そんなのあったな」と思われる読者も多いだろう。 そして、ラストはいつもどおりの「勧善懲悪」(!) これが何とも痛快なのだ。 作者へのインタビューかなにかで目にしたのだが、やっぱり「悪いものは悪い、良いものは良い」という当たり前のことを作品中に明快に訴えたいという「想い」があるようだ。 今回も主人公・半沢の考え方・行動はまさに「サラリーマンの理想像」。 銀行なんていうがんじがらめの組織で作られたヒエラルキーを次々に打ち壊し、自分の信念に従って真っ直ぐに王道を歩んでいく姿・・・ (こんな風に生きてみたいよなぁ・・・) IT業界というドックイヤーを体現した世界で生きていく人間たちの「姿」も何だか切なく、身に染みてくる。 ただ、買収をめぐる攻防などは初心者向けに分かりやすくしているせいだろうが、ちょっとデフォルメし過ぎかなと思えるし、プロットに安易な部分が目立った点で評価を差し引いた。 (次作を予感させるラスト。半沢はお気に入りのキャラクターらしいので、今後の展開にも期待したい。) |
No.19 | 10点 | 下町ロケット- 池井戸潤 | 2012/04/28 22:15 |
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第145回の直木賞受賞作。
今や作者の独壇場となった感のある「勧善懲悪系熱血企業小説」(そんなジャンルあるか?)。本作もまさにそのド・ストレート作品。 ~「その特許がなければロケットは飛ばない」・・・。大田区の町工場が取得した最先端特許を巡る中小企業vs大企業の熱き戦い。かつて研究者としてロケット開発に関わっていた佃航平は、打ち上げ失敗の責任をとり研究者の道を辞し、親の跡を継ぎ従業員200名の会社・佃製作所を経営していた。モノ作りに情熱を燃やし続ける男たちの矜持と卑劣な企業戦略の息詰まるガチンコ勝負。夢と現実、社員と家族・・・かつてロケットエンジンに夢を馳せた佃の、そして男たちの意地とプライドを賭した戦いがここに!~ いやぁー、不覚にも読みながら涙が出てきた。 熱い(熱すぎる)オヤジたちの物語なのだが、「夢とは?」「会社とは?」「人生とは?」など、いくつもの疑問符を私自身に突き付けられたような気がして、なんとも胸が詰まるようなシーンがいくつもあった。 (『会社とは何か。なんのために働いているのか。誰のために生きているのか・・・』 中盤のこの台詞が胸を突いた・・・) 「佃製作所」の従業員として登場するキャラクター1人1人が、作品の中で生き生きと主張し、悩み、そして喜び・怒る。そして、何より主人公である佃航平の姿が「モノつくり日本」の矜持を体現しているようで、何とも心強い。 (日本という国はこういう拘りや仕事へのプライドがあるからこそなのだ) もちろん、現実はこんなうまくいかないことばかりだし、今時こんな絵に描いたような会社なんて絵空事だろっていう感想を持つ方もいらっしゃるだろう。 仕事柄、中小企業の経営者と話す機会がままあるのだが、会社の規模を問わず、経営者が背負っている責任というのは私のようなサラリーマンとは比べ物にならないほど大きい。 普段、アホな上司や使えない部下に嘆いたり、逆に優秀な同僚に囲まれ劣等感を感じたり、サラリーマンにはサラリーマンなりの苦労もあるけど、詰まる所、自分の仕事や会社にプライドを持とうよってことだろう。 さすがに直木賞受賞作という看板だけのことはある作品。 まぁ「空飛ぶタイヤ」とプロットが完全に被っているが、そんなことは関係なし! たまには、こういう「泥臭い」「男臭い」作品を読んで、忙しい日常生活の中で忘れがちな「夢」や「エネルギー」を思い出すのもよいのではないでしょうか。 ミステリーではないし、ちょっと甘い評価かもしれないが、久しぶりに10点を進呈。 (久しぶりに読書で興奮してしまった・・・ちょっと青いね) |
No.18 | 5点 | 鉄の骨- 池井戸潤 | 2011/12/10 00:38 |
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600冊目の書評は、吉川英治文学新人賞受賞の本作で。
今や、乱歩賞&吉川英治賞&直木賞まで受賞した作者の、躍進のきっかけとも言える作品。 ~中堅ゼネコン・一松組の若手社員・富島平太が異動した先は「談合課」と揶揄される、大口公共工事の受注部署だった。今度の地下鉄工事を取らないと「ウチが傾く」・・・技術力を武器に真正面から入札に挑もうとする平太らの前に、「談合」の壁が。組織に殉じるか、正義を貫くか。吉川英治文学新人賞に輝いた白熱の人間ドラマ~ これぞ「空飛ぶタイヤ」以降、作者が確立した熱血&勧善懲悪経済エンタメ小説。 今回の舞台は、未だ旧態依然とした「談合」により、業界の利益を守ろうとする建設業界。作者は、1人の若者を通して、この「暗い闇」にスポットライトを当て、見事な人間ドラマに仕上げてます。 「工事落札」に心血を注ぐ平太と上司、「談合事件」を摘発しようとする検察特捜部、銀行員である平太の恋人とライバルの融資課員など、すべての人物が、その良し悪しに関わらず、己の矜持を貫いているわけです。 (相変わらず、分かりやすい勧善懲悪の図式は今回も健在。) ただねぇ、あまりにもデフォルメし過ぎているような感覚は持ってしまった。 無論、一般読者向けに平易で分かりやすい表現やプロットをというのは、販売サイドから見ればあるんだろうけど、実際、日頃厳しい社会の端くれとして働いている私自身として、「こんな単純な話じゃないよ!」って突っ込みを入れたくなるシーンがあまりにも多い。 (もちろん、フィクションだと分かってますけどね・・・) 本作は、主人公である平太がいっぱしのサラリーマンとして成長していく、というのが1つの大きな本筋ではありますが、いくらなんでも入社して3年目のヒラ社員が、ゼネコン談合のフィクサーと対等に話をするという図式は、ちょっと荒唐無稽すぎるよなぁ。 というわけで、『ホントは、こんなに簡単じゃないんだよ、平太君!』って諭したくなる場面が何度もありました。 ミステリー度は極めて低いし、もう少し「厳しさ」や「緊張感」のある作品を書いて欲しいという願いをこめて、評価はやや辛めに抑えておこう。 (作品中の兼松課長や西田係長みたいな地道な人が、日本経済の底辺を支えているんだよなぁ・・・) |
No.17 | 5点 | かばん屋の相続- 池井戸潤 | 2011/04/29 23:27 |
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「オール讀物」誌に断続的に発表した作品をまとめた短編集。
大田区にある「とある銀行の店舗」を舞台とした作者得意の金融ミステリー。 ①「十年目のクリスマス」=かつて会社を倒産させたはずの社長が高級車を乗り回す? 現実的には債権者もそんなに甘くないような気はするし、本来ならこれって保険金詐欺に当たるのでは? ②「セールストーク」=作者の作品に良くある、銀行を舞台にした「勧善懲悪」もの。「浮き貸」はダメですよ、支店長! ③「手形の行方」=取引先の手形が銀行内で紛失した? 真相は割と在り来たり。 ④「芥のごとく」=ラストに救いがなくてちょっと・・・まぁ、商売の世界は厳しいということだよね。まさに「弱肉強食」。 ⑤「妻の元カレ」=これも、ラストは丸く収まるかと思いきや、救いのない感じに・・・自分の希望と待遇(現実)の格差って、サラリーマンにとっては何となく悩んでしまうことだよね。 ⑥「かばん屋の相続」=これはあまりに「勧善懲悪」すぎて、ちょっと現実感に薄い。いかにも作り物っぽくて、表題作には相応しくないと思うが・・・ 以上6編。 まぁ、安定感たっぷりといえばそうかもしれないが、ちょっと「いかにも」すぎる作品という印象。 作者の作品を読んでると毎回感じますが、「お金」ってやつは人間をとことん嫌な奴に貶めるものなんですねぇ・・・ それでも人は生きていくために「働き」、「お金を稼ぐ」しかないわけですけど。 (あまりお勧めというべきものはなし。敢えて挙げれば②か④) |
No.16 | 8点 | オレたち花のバブル組- 池井戸潤 | 2011/01/16 16:41 |
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前作「オレたちバブル入行組」に続く、銀行員半沢直樹を主人公としたシリーズ2作目。
経済ミステリーなどという中途半端なジャンルとは無関係・・・あえて言うなら「痛快! 銀行版勧善懲悪シリーズ」とでも言うべき作品です。 ~東京中央銀行営業第2部次長・半沢は、巨額損失を出した老舗ホテルチェーンの再建を押し付けられる。おまけに近々、金融庁検査が入ると言う噂が・・・金融庁には、史上最強の「ボスキャラ」が手ぐすね引いて待ち構える。一方、出向先で執拗ないびりにあう近藤は、またも精神のバランスを崩しそうになるが・・・空前絶後の貧乏くじを引いた男たち。絶対に負けられない男たちの戦いの行方は?~ 細かいストーリーや設定はさておき、「これ、越後屋。そちも悪じゃのぉー」「お代官様こそ!」という時代劇お決まりのシーンが、そのまま架空の銀行、「東京中央銀行」という本作品の舞台で繰り広げられます。 主人公・半沢のポリシーや行動力は、同じサラリーマンとしては羨ましい限り! 「自分もこんなセリフを上司(アイツとアイツ・・・)に言ってみたい!」などという熱い気持ちにさせられました。(無理だろうなぁ・・・) 本作のもう一人の主人公、近藤が悩みの中から自分自身を取り戻し、立ち直っていく姿にも大いに勇気付けられます。 いろんな意味で、日頃、会社や上司、社会、その他モロモロに虐げられているすべてのサラリーマン必見の一冊!と言いたい気分です。 ラストはやや中途半端でしたが、これは次回作への含みでしょうか? (「!」が非常に多い書評になり失礼しました。ついつい興奮したもので・・・) |