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臣さん
平均点: 5.90点 書評数: 660件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.9 5点 六つの希望- 五十嵐貴久 2017/08/21 16:01
シリーズ第3作は、社会派タイムリミット・サスペンス。

主人公・川庄がアルバイトとして働いているコンビニで、立てこもり事件が発生する。
人質は客と川庄たち店員とで30名ほど。
川庄が事件の解決にどう関与するのだろうか。

物騒な小道具は登場するし、時限もあるしで、緊迫感はあるはずだが、本作はかなり変わっていてそうとはなっていない。
まず犯人たちがとんでもない人物たちであること。
その犯人たちの要望の意味がまったく読めないこと。
とにかくのんびりしていること。
結局、彼らの要望の意味を解く謎解きミステリーであるとはいえるのだが、解けてみればどうということはない。バカバカしいともいえる。
長く引っ張りすぎで、途中をぶっ飛ばして最後の20ページほどを読んでしまおうかと思ったが、ほんとうにそうすればよかったかな。

アイデアとしては面白いが、これは長編ではなく、連作短編にすればもっとよくなるはず。
途中には、長らく疎遠だった親子の喧嘩話や、50年ぶりの恋の告白話など、疲れるような部分があるが(謎解きに無関係とはいえないが)、連作短編の途中の一話ならまだしも、長編の中途に差し入れるエピソードとしてはちょっとね・・・。

つまらないはずだが、ちょっとだけ共感できたので、4点以下はつけなかった。

No.8 5点 最後の嘘- 五十嵐貴久 2017/01/25 09:33
私立探偵物らしく、川庄の仕事は、政治家・榊原からの依頼である失踪人探しから始まる。失踪人である、榊原の隠し子・亜美は比較的早く見つかるが、いろいろと釈然としないことがあったり、さらに亜美の恋人や暴力団、覚醒剤が絡んできたりして、必要以上に亜美の周辺を嗅ぎまわることになる。

平凡な流れという感じがしますし、その後発生する事件の真相も、2時間サスペンスでよく目にするものと似ていて、見え見えの感があります。ミステリーとしては褒めるところが少ない。川庄とある人物との会話がオチみたいなもので、最後だけうまく締めくくったというところでしょう。
本作はやはりキャラを楽しむ、和製スペンサーシリーズなのですね。表紙も似ています。

主人公のキャラについては、説教臭すぎるところがおおいに気になります。しゃべりすぎなのは我慢できるとして、基本的には三枚目なのに、軽口レベルの説教は、(私の望むものとは)ちょっと違うのではと思ったりもします。だからといって気障な言い回しが似合うはずもありません。
とはいえ流れるようなストーリーラインは芸術的です。読ませるだけ読ませて、結果はがっかりのはずなのに、それなりに満足しました。

No.7 6点 消えた少女- 五十嵐貴久 2016/06/19 12:00
吉祥寺探偵物語シリーズ第1作。
どこかで見たような表紙のイラストだなと考えていたら、パーカーのスペンサーシリーズが浮かんできた。似ている。
意識しているのだろう。スペンサーファンからすれば、とんでもないと言われそうだが、個人的には本シリーズのほうがいい。

主人公のおれ、川庄は妻に逃げられた元銀行マン。小5の息子を養っている。職業はコンビニのバイト。もちろん家事もこなす。夜家事を終えれば、夜の街へ繰り出し、おかまバーなど転々と飲み歩く。
最初は猫探しから始まる。意外に簡単に見つけ出す。探偵の素質ありなのか。
おかまの京子ちゃんから依頼を受け、1年前に行方不明になった少女の捜索へと乗り出す。

息子から心配されるほどのダメ男かと思いきや、探偵業はとことんやる一本筋の通った男でもある。そんなところはハードボイルドのようだ。このギャップが本家のスペンサーシリーズより好ましいところ。ユーモアから始まりシリアスに向かっていくストーリーも好み。

都合よく進みすぎなのは欠点だが、流れるように軽く読めるので、長所でもある。その点は本家に似ている。
それにしてもこの犯人、ちょっと身勝手すぎる。

No.6 6点 リターン- 五十嵐貴久 2016/02/05 10:27
今回の続編は、女刑事、尚美と、その同僚の孝子が登場する、警察サイコサスペンス。
彼女らは二人でリカと対決する。
あいかわらずリカの登場は後半までない。リカの行動による痕跡と彼女からのメール文により人物像を想像するしかない。それはそれで怖い。

でももっとも恐ろしいのはリカの登場からだろう。
そして、いよいよ対決へ。

二人の女刑事は考えが浅い。こんな手がうまくいくはずがない。相手は異常者であっても馬鹿ではないから、こんなのは通じないだろう。
とにかくさんざんな目にあう。著者からすれば、ホラーなのだから、主人公でも女性でも容赦なく痛めつけてやれ、ということなのか。

後半はページを繰る手が止まらなかった。ラストはなんとなく見えてくるが、もしや続々編もあるのでは、という思いもあった。
でもやはり完結編なら、このように解決するしかないのだろうなぁ。
それよりもオチがじつは凄い、上手い。
感動の結末に見せかけて、結局リカと変わらなかったりして??

No.5 6点 降りかかる追憶- 五十嵐貴久 2016/01/11 13:55
シリーズ第3弾。
新人探偵・雅也の今回の仕事はストーカー被害を受けている女性の身辺警護と犯人の捜索。
雅也は憧れの先輩美人探偵・玲子と組むことになる。

中編程度の長さだが、玲子が社長の金城の下で働くことになる因縁が明らかになる、というサイドストーリーまで盛り込んである。
そのかわりストーカー事件は、中途に少しの変転があるものの、ラストのわずかの間で駆け足のごとく解決にいたってしまう。ちょっとあっけないなとも思うし、ある程度想像したとおりでもあった。
あの短さでうまくまとめていると褒めるべきか。

このシリーズ、なぜかしら楽しくて堪らない。郷愁みたいなものを感じるからだろうか。読前、読後のウキウキ感は尋常ではない。
ついに今後も読み続けたいシリーズになってしまった。
シリーズ物を、文庫書き下ろしの短期間サイクルで、お手軽価格で読めるという理由によるものなのかもしれないが(笑)。

No.4 6点 魅入られた瞳- 五十嵐貴久 2015/10/19 10:07
シリーズ第2弾
新人探偵・井上雅也は、やり手商社マンの美人妻を診療内科へ送迎する仕事を社長の金城から任される。
前半は雅也の情けない語りにユーモアがあり楽しめるが、総じて単調。後半は一転してスリリングな展開となり、ど派手なアクションもある。

作りがシンプルで、さらっと読める程度のミステリーです。読者が謎解きに参加するような話ではありません。が、やはりいつものように自分の脳力で推理していましたw

真相につながる伏線の書き込みがもう少しあってもいいかなとも思いますが、軽いテレビドラマ風の探偵モノなので、このぐらいが存外いいのでしょう。
シリーズ第1作も雅也の視点で、今回も彼の視点です。私立探偵社のわりに所帯が大きいので、他のメンバーの視点にしても面白いのではと思います。

No.3 7点 リカ- 五十嵐貴久 2015/08/20 10:01
小説の世界だけでなく、現代の実社会においてもありがちなこと(そんなわけはないと思いたい)。単純だけど本当に怖い話だった。

小説の中でも語られていることだが、インターネットというのは悪魔の住処。魑魅魍魎が跋扈するわけのわからない世界だ。
主人公がかかわりあった出会いサイトなどの疑わしいサイトにアクセスをしなくても、善意の利用者が、何らかの拍子で、交通事故のように被害をこうむることだってある。ということがわかっていても、便利だから使ってしまう。

しかしそれにしても、作者による、主人公を痛めつける技は凄い。もっと早めに気づけよ、他にも方法があるだろ、と言いたくもなるが、でも逃げ場なしにするからこそ面白い。
本編のラストも加筆したエピローグも特段のひねりはないので、ミステリ好きの読者よりも、重畳的に襲いかかってくる恐怖を楽しみたい方におすすめです。

リカの描き方があまいという意見もあるようだが、正体がはっきりしないからこその恐怖だってあるはず。
リカは実質的な主人公といってもよく、頭も良さそうだから、女版レクターのような位置づけで書いたのではないだろうか。
終わり方も怖いが、ある意味、続きがありそうなラストだ。調べてみると、『リターン』という続編があった。リカが成長して戻ってくるのだろうか?

No.2 7点 交渉人- 五十嵐貴久 2015/07/04 12:34
病院に立て籠もるコンビニ強盗たち。彼らに対峙するのは、交渉人の石田警視正。彼には、かつての部下である女性警部・遠野が補佐としてつく。
交渉は難航しながらも、解決へ向けてたんたんと進んでいく。
そして解決へ、という流れのはずだったが、事件は思わぬ展開へ・・・

渾身の力をこめて書いたデビュー作、ではなく2作目だったようです。
最終ページには参考文献まで掲載されています。気負いも感じられるし、十分に準備し、推敲して書いた、賞に応募したのではないかというほどの作品だと思っていたのですが。
最近読んだ「南青山骨董通り探偵社」は、著者がベテランの域に入って書いた、余裕の箸休め的な作品ということなのでしょう。

(以下、ネタばらし傾向な文章となっています)

石田の交渉には余裕がある。米映画の「交渉人」の交渉にくらべれば、たしかにゆったりしている。
でも個人的には、遠野警部が不振がらずに補佐していたわけだから、作中における「交渉人」の仕事を疑うことはなかった。
むしろ、すさまじい筆力に感心するばかりだった。
ただ動機はありきたり。しかもその動機を終盤に延々と語るのは、あまりにも普通すぎる。
そこにドラマがあるのだけど、さらにひと工夫ほしいな、という感じはした。

かなりの出来だと思っているが、これまでの書評を見ると、そうではないような感じもする。
たぶん、否定的な書評から読み取れる本書のミスは、交渉人の仕事はこんなものだと、遠野警部の視点を交えて念を押しながら描いてあるのに、その仕事があまりにもゆったりとスムーズに進むので、早い段階でこんな仕事じゃないはずと読者に思わせてしまったこと。だから、きっと犯人はアイツだろう、ということになるのだろう。
これが著者のわずかなミス。

まあでも、超弩級・社会派警察サスペンス作品だとは思います。

No.1 5点 南青山骨董通り探偵社- 五十嵐貴久 2015/05/20 09:59
文庫オリジナル、新シリーズ。
ビブリア古書堂のようなライト文芸っぽいイラスト表紙の多いなか、写真で構成された地味な表紙で目を引いた。ただタイトルは、なんとなくライト感がある。

大手企業に勤める井上雅也は、探偵社の社長・金城に勧誘され、アルバイトとして雇われ、とある中学のレイプ事件に関わっていく。

探偵社の社員全員がそれぞれの持ち場で活躍する推理モノ。
社長以外のメンバーは、井上のほか、中堅の立木、刑事出身の徳吉、女性探偵の朝比奈玲子、バイトの真由美、美紀の顔ぶれ。
女性警察官からの依頼とはいえ、社運をかけたように、メンバー全員がレイプ事件に関わるのはちょっと不自然だ。探偵社を捜査1課にすれば警察モノと変わらないのも気にはなる。
とはいえ、個人的にはとても新鮮な感じがした。
井上視点で彼の身近なところを描きながら、徐々に社員の活躍の場を見せるあたりは、シリーズ第1作としてわかりやすい構成だと思う。
シリーズが進んで、もっともっと群像劇っぽくすれば面白くなるかもしれない。
ミステリー的に注目すべきは後半の二転三転。そんな捜査の過程はそれなりに楽しめた。
犯人当てとしては全くのルール違反。だから本格ミステリーとは言えない。

ラストの甘っちょろさには首を傾げるが、確実にシリーズ化されそうな終わり方だったので、今後に少しだけ期待してみよう。

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臣さん
ひとこと
あいかわらず読書のペースが遅い。かといってじっくり読んでいるわけではない。
好きな作家
採点傾向
平均点: 5.90点   採点数: 660件
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