皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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臣さん |
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平均点: 5.90点 | 書評数: 660件 |
No.11 | 6点 | 蓬莱- 今野敏 | 2022/10/07 10:15 |
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今野敏氏が描く仮想世界、なんて勝手に想像していたが全く違っていた。
ゲームの販売をめぐる、零細ゲーム開発販売会社の社長、社員たちが謀略に立ち向かう、至極、現実的な冒険小説だった。ちょっと違うかな?? ヴァーチャルな内容がないわけではない。むしろテーマといってもよい。 中国古代史上の徐福が日本の現代史をプログラミングした、なんていう話はなかなか面白い。 キャラがまたすごい。 主人公の社長、渡瀬は意外にフツーだが、やくざにやられながら突如として変貌して、惹きつけてくれる。 その他頭脳明晰な社員や、やくざ、謎のバーテンダーなど種々登場する。 唯一スマートなのは安積警部補。いちおう神南署シリーズなのか。 さすが今野氏、登場人物についてはエンタメ小説として文句のつけようがない。 30年ほど前の小説で、フロッピーディスクやファミコンなんて語句が登場する。秒進分歩の世界なので古典を読んでいるような感覚だった。社会情勢も今とまるで違う。 当時を知る貴重な史料になるかもしれない。 リアルタイムに読んだとしても違和感を覚えただろうが、今読めば時代のずれが手伝って、ハチャメチャ感しかない。 途中、こんな本を今読んで満足のいく読後感が得られるのだろうか、と心配になったが、結果的には楽しい読書だった。単純すぎるのかなあ。 |
No.10 | 5点 | ST警視庁科学特捜班- 今野敏 | 2019/07/11 09:51 |
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特殊技能を持つ科学捜査員たちの捜査物語。
といっても、特殊技能所有者は5人もいるので、それぞれはそれほど目立たない。 脇役であるはずの、昔ながらの刑事、菊池や、気の弱いキャリア警部のほうが負けじと目立っている。 ミステリーとしては、殺人が3件発生して、派手さはある。謎も多い。 でも、むりやり収めた感があり、謎解きやサプライズを求めると物足らない。 やはり、みなさんのご指摘のように、濃いキャラの集団ヒーロー物を楽しむつもりで読むのがいちばんでしょう。 しかも、シリーズ第1作では、全員のキャラを生かすのはむずかしいから、その後のシリーズを読みながら全員のキャラを楽しむという姿勢が理想的な読み方でしょう。 |
No.9 | 6点 | 朱夏- 今野敏 | 2017/05/31 13:51 |
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樋口警部補シリーズ第2作。
今作の主たる事件は警視庁強行班のものではない。樋口の奥さんの誘拐事件を樋口自身が秘かに捜査するという内容。他の正規な事件と絡めてタイムリミット的にストーリーを進行させる作者の手腕はさすがというほかはない。 ナイーブとも言える樋口には合っているような、合っていないようなテーマではあった。でも、樋口らしさの描写は随所にあった。 本格要素が希薄なところはガマンしよう。この著者には望めない。 安心してスラスラスラ~と読めれば、それだけでいい。 タイトルの語句と意味は最後の最後に出てくる。いちおうテーマらしきものに合っている。こじつけ、後付けかもしれないが、これもうまい。 |
No.8 | 6点 | 残照- 今野敏 | 2014/05/07 10:08 |
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安積警部補シリーズ。
安積にくわえ、交通機動隊の速水警部補が活躍する。 捜査の対象は、暴走族のリーダーの殺害事件。 ポイントの1つめは、速水によるカーチェイス。さすが今野氏、文章でも興奮できるところはすごい。人物描写だけではなく、情景描写もわかりやすい。 2つめが、隠蔽捜査みたいに身内に敵がいること。捜査会議での相良たち本庁とのやりとりは楽しめる。敵といってもあくまでも身内なのでベクトルは同じ。だから、最終的には1つにはなる。予定通りではあった。 予定調和という感じはするものの、ほどほどに楽しめた。本格ミステリーではないのでしかたないが、犯人像が見えにくいところは難点。手がかりというだけでなく、小説としての伏線もすくないように思う。 |
No.7 | 6点 | 疑心- 今野敏 | 2013/06/05 18:10 |
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隠蔽捜査シリーズ第3作。
アメリカ大統領の訪日に際し、第二方面警備本部本部長を任された大森署署長・竜崎伸也。そんな彼の前に立ちはだかるのは、彼を蹴落とそうとするライバルたちではなかった・・・。 このシリーズを楽しむための要素は、竜崎の原理原則を貫く姿勢と、何かに思い悩む心理とが乖離していること、そして最終的にはそれらのバランスがとれて解決にいたること、ではないかと思います。今回は悩みの対象が、米国シークレットサービスとの摩擦と、若き女性キャリア・畠山への恋心。それらをどう捌いていくか、そこが見ものです。 畠山への恋愛感情描写も良し、前作で活躍した戸高刑事の神懸り的な勘による捜査も良し、彼と竜崎との微妙な関係も良し。いままでのシリーズ作品とは違った面で楽しめました。恋の病の解決の仕方があれでいいのかとは思いましたが、まあ変人・竜崎らしくもあり、これも良しとしましょう。 いつもながらの竜崎の心境描写は読書スピードをアップさせてくれます。今回は内容もシンプルなので、さらに猛烈に加速します。今野敏氏の奥義炸裂です。 あっという間に読める点は評価できますが、反面、ストーリーの安直さ(ご都合主義、予定調和、ミステリーとして深みに欠ける点など)の証明でもあり、そこがマイナス点です。 |
No.6 | 7点 | 赤の調査ファイル- 今野敏 | 2012/03/02 10:18 |
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STメンバーのリーダー格である法医学担当の赤城を主人公に据えた作品です。
赤城という男は正義感が強く、他のメンバーや刑事たちからも一目置かれ、しかも慕われる存在です。それだけなら面白くもなんともないのですが、対人恐怖症(特に女性恐怖症)でもあるところは、探偵は変人であるべし、といったホームズ時代より継承されるルールに則った感があり、今野氏のキャラクタ設定のうまさを感じます。ただ、女性恐怖症を示す行動、言動があまりなかったのは残念です。 今回の事件は大学病院の医療に関わる小粒なものです。というのが読み始めの印象ですが、最終的には実は・・・と、ミステリ的にも意外におもしろい作品でした(本格というほどではありませんが)。でもこの犯人、ちょっとやりすぎなのでは? そして、そんなミステリ要素よりももっと楽しめたのが、久々に読書で興奮できたこと。気持ちよかったですね。溜飲が下がるってこういうことなんでしょうか。 |
No.5 | 5点 | 青の調査ファイル- 今野敏 | 2012/02/15 09:31 |
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ST警視庁科学特捜班シリーズの中の、色シリーズです。
STメンバーの一人、美青年、青山が主人公ですが、翠(の耳)、黒崎(の巨体)など、他の個性派メンバーも大活躍します。 30ページ(ノベルズ版)ごろにSTメンバーや他の警察官たちが続々と登場してきて、ふつうなら混乱しそうになるところですが、そのようなことはなく、あっという間に頭の中に人物像と人物相関図が出来上がってしまいました。さすが今野氏、人物描写の上手さには感心します。 事件は科学的手法で徐々に解決へと導かれていきますが、それほど難解なものではなく、しかも最終的な決め手は、いたって非科学的です。初めて読むシリーズなのでよくわかりませんが、科学捜査といっても小難しいものではないようです。むしろキャラクタ小説として肩の力を抜いて楽しめればそれでよし、というコンセプトで書かれたのではと想像します。 |
No.4 | 7点 | 果断- 今野敏 | 2010/03/11 11:30 |
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西上心太の解説によれば前作『隠蔽捜査』よりもミステリー的な味付けが濃いということだが、本当にそうだろうか。たしかにラスト100ページ(文庫版)ごろ(刑事・戸高の疑問が表れた時点)から物語は急展開に進み、にわかにミステリーらしくなりおもしろくなることにはちがいない。でも私はその段階で結末が読めてしまった。実は早いうちから、戸髙が感じたものと同じ疑問を抱いていた。だから、私にとってミステリー要素が濃いとはいえない。むしろ、ラストをどう締めくくるのかまったく読めなかった前作のほうがミステリーとして楽しめた。本格マニアが躍起になるフーやハウ、ホワイばかりでなく、読者に展開やラストを簡単に読まれないようになっていることも、ミステリーとして重要な要素だと私は思っている。そういう意味で本書はミステリー要素が不足しているように思う。しかも、所轄警察署が舞台のテレビ的なストーリーは陳腐な感がし、そこも前作より評価が落ちる要因となっている(前作は第1作ということによる衝撃もあったが)。とはいっても本書は、竜崎伸也のキャラと、読みやすさ(ストーリーの良さ)と、著者の文章テクニックとが有機的に結びついて読者を惹きつけてくれているから、傑作にはちがいない。
(ちょっと余談) 今野氏は女性ファンが多いと聞く。男の世界を描いた小説が多いのになぜ、とはじめは不思議に思っていたが、何作か読むうちに、これだけ心理描写が多くてしかも上手ければさもありなんと納得した。氏の作品にはハードボイルドもあるようだが、まともなハードボイルドになっているのだろうか、すこし疑問だ。まあ氏のテクニックなら大丈夫なのだろう。次回はぜひ氏のハードボイルド作品を読んでみよう。 |
No.3 | 5点 | 虚構の殺人者- 今野敏 | 2009/06/22 15:04 |
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安積警部補を中心とした警察内の人間模様がていねいに描かれています。キャラ的には、他シリーズの竜崎や樋口ほどの個性はありませんが、その分、心理描写がしっかりしていて、主人公の心情が細やかに表現されています(すこし鼻に付く感じもしますけど)。この種の書き方だと、「人間が描かれていない」なんて評価は、絶対にされないでしょう。小説修行を相当積んできたことがうかがえます。しかも、三人称一視点で、主人公の心理と、主人公の目を通した同僚たちの個性とが、一人称小説なみに十分に描かれているので、すぐに感情移入もできます。ミステリを書かかせるのがもったいない感じさえします。いやこういう作家だからこそ、すぐれたミステリが書けるのかもしれません。氏には謎解き中心の「本格物」も書いてほしいですね。ハードボイルドも面白いかもしれません。
ところで、肝心のミステリとしての本作の評価ですが、はっきりいってイマイチでした。謎の提起の仕方はよかったのですが、謎解きロジックにひねりがありません。あまりにもあっさりしていて、謎解きをするほどではありません。人間を描きすぎたことの代償でしょうか。連続ドラマを想定して書いたのでは、という気さえします。 |
No.2 | 6点 | リオ- 今野敏 | 2009/04/06 12:08 |
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主人公の刑事・樋口の性格はいいですね。まわりの評価は高いのに、自信はまったくなし。そういったところに、容疑者が心を開いてしまうのでしょうか。純文学(私小説)の主人公みたいですね。
ミステリとしての出来はイマイチだけど、主人公のキャラがよかったし、読みやすかったし、まあまあ満足できました。 |
No.1 | 9点 | 隠蔽捜査- 今野敏 | 2009/03/17 11:54 |
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どういうラストになるのかな、とワクワクしながら読みました。そして、爽快な読後感。すぐれたトリックがあったわけでもないけど、ミステリとして抜群の出来ばえだと思います。
更なる期待をこめて、9点。 |