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臣さん
平均点: 5.90点 書評数: 654件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.9 6点 ベストセラー小説の書き方- 評論・エッセイ 2012/09/24 11:13
プロット、書き出し、タイトル、登場人物、背景描写、文体、それにちょっと裏話的な出版業界のことまでと、多岐に渡る説明が特徴的。おまけにそれぞれの章で多くの作品例の紹介がある。
ただ、書き方の具体的な練習方法の例示はほとんどなく、作品例の一部抽出とその評価にとどまっている。ファースト・シーンは著者のお好みの○○作家の××作品が良いなどと一部の文章を引用して評価するスタイルなので、読んでみようという気にはなっても、具体的な書き方練習にまでは踏み込んでいないので、ほんとうに作家を目指す人にとっては、本書を見て練習というわけにはいかないでしょう。書き方のポイント集という程度の位置付けなのでしょう。
もちろん、私のようなエンタテイメント・ファンにとって、読み方のポイントをつかめたのは良かったです。

文体の章には、細かな分析とともに、自ら作ったと思われるよい会話文例、悪い会話文例が載せてあった。これはなかなか面白い。
「会話を自立させよ」や「場面転換をうまくこなすコツ」は目からうろこという感じで、いままでなにげなく読んでいただけのところでも、今後の読み方が変わりそうな気がします。

作家という職業はみな、こんなに多くの作品を読んでいるのでしょうか。そこがいちばん驚いた点です。「読んで読んで読みまくれ」という、作家を志すなら最低限読むべきおすすめ作家の紹介の章もありました。

No.8 7点 推理小説作法- 評論・エッセイ 2012/09/24 10:58
江戸川乱歩、松本清張の共著の同名書籍もありますが、本書は土屋隆夫が著したものです。著者の経験や他の作家の言葉にもとづく書き方指南書といったところでしょうか。
いろんな作品が登場するので読み手にとってガイド本のごとく参考になりますが、やはり書き方を教えるのがこの本のテーマなんでしょうね。
20年ほど前に読んだときは推理小説に関し無知な頃で、わからないまま読み飛ばしていたため記憶にはほとんど残っていなかったのですが、読み返してみると、純文学とミステリーとの書き方の差異(純文学はプロット不要)について、この本が潜在意識として植えつけてくれたんだなということを確認できました。

ミステリーは解決編があるがため文学性を失ってしまう、だから文学として成立させるのは困難。最後の最後に解決編で説明的な文章を読まされてしらけてしまう、ということなんですね。だから、倒叙モノはわりに文学性を保てるという理屈にもうなずけます。
松本清張は推理小説と文学の両立に挑んだのですね。特に、「点と線」で本格推理小説を書きたかった。(ここからは私の想像ですが)でも社会派モノとしての評判だけが世間に広まってしまい、それに反発して、さらに本格性を高めた「時間の習俗」を書いたのではという気がします。

創作メモの作り方、プロットの練り方の章では、種々の作品の事例を挙げながらポイントを説明してくれるので、説得力があります。そして、第7章では自分の短編全文を読者に読ませながら分析するという凝ったやり方も実践しています。
全体的にみると、他の作家等の意見もとりいれているので、決して独善的に感じることはなく、これからミステリー作家になりたい人にとって、スムーズに入っていけるのではないでしょうか。

ネタばらしも数多くありますが、指南書なのでやむを得ませんし、自著を中心としたネタばらしがほとんどなので許容範囲だとも思います。ただ、「アクロイド」のネタバレはかなりストレートだったようです。

No.7 5点 杉下右京に学ぶ「謎解きの発想術」- 評論・エッセイ 2012/03/10 13:08
ビジネスをミステリーの謎解きに照らして研究することは突飛で斬新な考え方のようにも思われますが、歴史書や歴史小説から学ぶことよりもむしろ一般向けであり、合理的でもあり、ごく自然な発想だと思います。
とはいえ、そんな発想を『相棒』のエピソードごとの事例形式でチャート入りの1冊の本にまとめてしまうことはやはり賞賛に値します。
とくにドラマを鑑賞した人にとっては、エピソードに沿って事例形式でビジネスへの展開術が紹介されているので内容を理解しやすく、しかも同時にドラマの内容が思い出されるため、予想以上に楽しめるはずです。

No.6 7点 黄色い部屋はいかに改装されたか?- 評論・エッセイ 2011/01/28 15:27
本書は、こうさんが「ベスト・ミステリ論18」の書評の中でも推薦されている、本格ミステリに関する評論作品です。
やはり「ベスト」にも抜粋されていた「トリック無用は暴論か」の章が気になり、その前後をじっくりと読みました。本格ミステリはトリックよりも事件解決に至るロジックが重要とのこと。これはパズラー条件6箇条の1つです。
ロジック論に絡んで、横溝正史の「獄門島」を今日の本格、「悪魔の手毬唄」を昨日の本格と呼んでいたことが興味深いです。たんなる好みだけなら反論もありませんが、私にとって「悪魔の手毬唄」は横溝の最高傑作であり、「獄門島」よりは上だったと記憶していただけに、この点には反論したくなります。まあ大昔に読んだきりなので、何を反論していいのかわかりませんが。
当時の流行作家の作品でもばっさりと斬り捨てるような文章もあり、心地よさ、反感、納得など様々な印象を受けましたが、総じてミステリー(パズラー)への愛情を感じられました。中身の濃さではピカイチでした。
なおネタバレもあるので気をつけてお読みください。

No.5 6点 ミステリーを科学したら- 評論・エッセイ 2010/12/06 10:22
この本を読めば、多くの作家の調査が科学的根拠をともなわない中途半端なものであるかを理解できますが、筆力やプロット力などによっては、誤った科学知識で書かれた作品でも十分に読者を楽しませてくれていることにもちがいありません。ということは、本書のような知識を知らなくてもミステリーを楽しむうえではまったく問題なしですが、知っていたら別の楽しみ方ができることもたしかです。

この著者はサイエンスに関してはもちろんですが、推理作家だけあって、ミステリーに関する論理や書き方についても一家言もっています。そして驚くのは著者の読書量。ややネタバレ気味ですが、多数のミステリーの紹介を含んだミステリー科学論は読み物としても面白いし、ガイドブックとしても利用できます。リアリティーをそれほど重視せず、社会派よりも本格派を好む著者の嗜好は、この本の趣旨とは乖離し、すこし違和感を感じますが、好感が持てます。

No.4 6点 日本ミステリ解読術- 評論・エッセイ 2010/09/01 09:50
著者の得意分野である乱歩のエピソードや、かの有名な「類別トリック集成」のことが第Ⅰ章で紹介されているのはわかるとして、第Ⅱ章に横溝ではなく笹沢左保をもってきているのに驚きました。著者によれば、笹沢は初期作品のタイトルから想像しても乱歩の影響を相当受けたのではということだそうです。いわれてみればそうかもしれませんが、内容的には乱歩をあまり読んでいないのでよくわかりません。
第Ⅲ、Ⅳ章では、総勢30名ほどの作家について作家ごとに1作品を取り上げて分析するスタイルをとっていますが、分析の仕方にそれぞれ工夫があるので変化があってそれぞれ楽しめます。たとえば、土屋隆夫の場合、犯人が分かるページ数が最初からどの程度かをグラフにして比較したり、佐野洋の場合、短篇から長編に改変した(佐野氏作品以外の)作品の一覧で表したり等々の分析があるのが面白かったですね。それに、同一作家についてメインの1作品だけではなく、それにともなって種々の作品をさりげなく紹介している点で、評論としてよりもガイド本としての収穫が多かったように思います。評論要素がすくないせいかネタばらしもほとんどなかったです。
紹介された作家は、上記以外に半村、泡坂、西村京太郎、島田荘司、連城、天藤、小泉、阿刀田etc。第Ⅴ章では岡嶋二人、エピローグが折原一です。
第Ⅲ章が「解説20面相」(20名の紹介)となっているのが笑えました。

No.3 6点 ミステリーのおきて102条- 評論・エッセイ 2009/10/17 08:57
「小説はみなミステリーだ」。北村薫も阿刀田高と同じことを考えているのだなと思っていたら、よく見ると読みたかった北村の評論ではなく阿刀田高を借りてしまっていた。しかも、中身は評論というより週刊誌連載のエッセーだった。失敗したかなと思いながら、軽く斜め読みし始めたが、これが意外に面白かった。
乱歩、清張、ポー、クイーン、クリスティーなど、古今東西の有名作家と、著名作品が続々登場する。「おきて」や「書き方」というほどではなく、裏話的で、著名作品を絡めながら趣のあるエピソード話をしてくれるのが、ミステリー情報収集家?である私にとってはうれしい。著者は映画通でもあるため「シャレード」や「太陽がいっぱい」などのサスペンス映画の話もあれば、傍点は推理小説では使ってはいけないとかの書き方の工夫話もある。それから、書評済みの山本周五郎の『五瓣の椿』がコーネル・ウールリッチの『黒衣の花嫁』を下敷きにしたものである等々の種々の新たな情報が得られた点も良かった。

No.2 7点 ベスト・ミステリ論18- 評論・エッセイ 2009/09/24 12:15
北村薫、坂口安吾、都筑道夫、瀬戸川猛資、法月ら著名批評家13人による18のミステリ評論を集めたアンソロジーです。若島正の評論が目的で図書館で借りましたが、都筑道夫、坂口安吾の評論も楽しく読ませてもらいました。評論というよりエッセイという感じです。

若島正の「明るい館の秘密」では、クリスティーの名作「そして誰もいなくなった」を「アクロイド」と比較しながら、その心理描写を徹底分析し、叙述トリックを解析し、そして致命的な誤訳を指摘しています。この内容については予備知識があったので、どちらかというと裏づけがとれたという感じで、これですっきりとしました。章ごと登場人物ごとに詳細に分析していることには本当に驚かされます。「そして」を既読の方には絶対にお勧めです。「そして」の本格物としての面白さが倍増し、クリスティーの緻密さと文章力の豊かさを理解できると思います。若島正の著書には「乱視読者」シリーズもあるので、そちらも読んでみたいです。

また、都筑道夫の「トリック無用は暴論か」では、フィリップ・マクドナルドを例に挙げ、また森村誠一氏の「高層の死角」や斉藤栄氏の「奥の細道殺人事件」を槍玉に挙げながら、アリバイつくりや密室構成は従であり、解決にいたる論理が主であることを説いています。たしかに論理さえしっかりしていれば、少々無理のある真相、動機でも納得させられることがあるのは事実ですね。この評論が書かれたのが国内で新本格が登場するずっと前(1970年ごろ)の社会派全盛の時代ですから、時代に合った、国内本格を悲嘆したような内容といえますが、いま発表されたとすれば新本格ファンから反感を買うかもしれません(笑)。でも、論理が多少無茶でも、綾辻氏の「十角館」などのように、文章(叙述トリックなど)で驚かされるのも個人的には好きなほうなので、論理が全てではないと思いますが。。。

No.1 6点 松本清張を推理する- 評論・エッセイ 2009/07/15 07:09
『点と線』『ゼロの焦点』『黒い画集』『砂の器』など(11作品)を、作品ごとに批評しています。少しコメントを抜粋。

・「小説はすべてミステリーだ」 小説にはなんらかの謎が提示され、なんらかの解決がある。(大賛成)
・『ゼロの焦点』には、戦後の鄙びた風景の描写が、日本人の原点に属する懐かしさを表現している。(納得、戦後すぐのことは知らないが、その描写だけで心打たれる)
 冒頭の引き込み方がうまい。(これも納得)
・『黒い画集』所収の『遭難』の動機が、清張社会派ミステリーにしては弱い。(大好きな作品。考えもしなかった。この一文を読んで、実は私は社会派に向いていないのかなと思った)

こんな感じで、様々な角度で分析してあります。紹介された全作品を読んでないので評価が難しいですが、清張ファンなら楽しめると思います。
ところで著者の阿刀田高は、このサイトでは登録されていないようですね。

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臣さん
ひとこと
あいかわらず読書のペースが遅い。かといってじっくり読んでいるわけではない。
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平均点: 5.90点   採点数: 654件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(14)
松本清張(12)
東野圭吾(12)
アガサ・クリスティー(12)
アーサー・コナン・ドイル(11)
横溝正史(11)
今野敏(11)
連城三紀彦(10)
五十嵐貴久(9)
森村誠一(9)