皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 社会派 ] 巣の絵 |
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水上勉 | 出版月: 1960年01月 | 平均: 6.50点 | 書評数: 2件 |
新潮社 1960年01月 |
新潮社 1962年01月 |
集英社 1967年01月 |
角川文庫 1969年01月 |
No.2 | 6点 | 雪 | 2021/07/22 07:44 |
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秋の日の黄昏、東京山手大塚新町のとある地下壕で発見された死体。その児童画家・新田義芳は作業に用いるガラス貼りの幻燈箱の上に、身を伏すように倒れていた。箱の中の絵は何ともいいようのないもので、鉢状になった底の部分に羽毛が生きもののようにとび散り、底には一枚の千円札が貼ってある。自殺を推定する警察の見解に、童謡春秋の編集者・波元太郎の疑惑は深かった・・・。
巧緻な推理構成と暗い叙情性に、豊かな作家的才能を示した著者デビュー期の佳篇。 日共トラック部隊を題材に採り一躍ベストセラーになった『霧と影』の好評を受け、雑誌「週間スリラー」誌上に昭和三十四(1959)年八月から翌昭和三十五(1960)年三月まで、約八か月間にわたって連載された社会派作品。協会賞受賞の『海の牙』より確実に前の時期なので、あるいは第二長篇かもしれない。 組織犯罪の為〈印象的な犯人像〉という点では『火の笛』に劣るが、その分いくつかの趣向が凝らされており総合的にはほぼ同格。童話画家の謎の死、その友人の失踪、市川国分台の公園林で発見された毒殺者とみられる男の死体、行き詰まる捜査など、被害者の友人知人にそれぞれ影を見せながら最後まで引っ張っていく。解決の端緒となる思いつきはなかなか面白いもので、主人公・波元がそれに気付いたのも、画家の手紙に従い巣鴨拘置所から護国寺と、都電通りをあてどもなく彷徨ったからだろう。〈都会人の孤独な心情〉に寄り添う事で徐々に謎が解けてゆく形の小説で、社会派としてはやや異例ながら独自の叙情性を持っている。 波元の熱意が担当の衣斐警部補を動かし、それが別ルートの事件を追求していた同僚・古茂田警部補の注意を惹いてからは一気呵成。地味に置かれてあったピースが結び付いてゆき、画家の何気ない行為からその殺害にまで至る動機が明らかにされる。中盤はややキツいが知名度の割には良作で、採点は6.5点。 |
No.1 | 7点 | 空 | 2013/03/04 21:23 |
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水上勉と言えば、『飢餓海峡』の津軽海峡や『海の牙』の不知火海岸など、地方の情景を迫力ある筆致で描き出す名手で、一方証拠固めや犯人の行方追跡などの捜査小説としての面白味はあっても謎解き的要素は少ないのが普通です
本作でも、貧しいながらも人情味ある生活感がよく出ているところはこの作者らしいのですが、舞台は東京とその近郊のみです。そして何よりも驚いたのが、幻燈画家が殺される原因の意外性でした。大きな偶然を2つ組み合わせていて、作中で登場人物にも偶然が過ぎるというようなことを言わせているのですが、それでもこの被害者の仕事に関連した方の偶然の鮮やかさにはうならされました。いわゆる本格派ではなく、組織犯罪がらみの事件であることは第2の殺人で明らかになるのですが、謎解き面では水上勉の作品の中ではベストでしょう。犯人たちがあまりに策略をめぐらせ過ぎているところはありますが。 |