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ことはさん
平均点: 6.34点 書評数: 222件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.122 5点 薔薇の輪- クリスチアナ・ブランド 2022/01/23 23:26
チャッキー警部登場作を、連続で読んでみた。
あいかわらず、ブランド特有の仮説の繰り出しはあるのだが、ひとつひとつの仮説の振り幅がちいさいのか、他作品ほど読みごたえがない。
しかし、他作品よりは、かなり読みやすかった。これは翻訳のおかげだろうか? それとも原文から書き込みが濃厚でないからか? 翻訳のおかげならば、他作品も新訳してほしいなぁ。
あと、構成(設定や全体のストーリー展開)をみてみると、もっとよくできたような気がするんだよな。(今もある程度あるが)コミカルな感じをもっと強くして、そのためにはメインの事件を深刻なものではなくして(日常の謎に近いような)……。例えば、スタウトのウルフもののトーンでこのプロットなら、すごく面白くなったような気がするんだけどな。

No.121 7点 猫とねずみ- クリスチアナ・ブランド 2022/01/23 23:26
いやいや、サスペンスということと、他の高評価の作品群ほど評価をきかないので、それほどでもないのだろうと思っていたが、どうしてどうして、ブランド特有の仮説の繰り出しは、この作でも健在。
執筆時期をみると、「ジェゼベルの死」と「疑惑の霧」の間で、ブランド最盛期にあたる。それを考えると当然なのかもしれない。
ストーリー展開はサスペンスにふっているので、仮説の検証/質疑には時間をさいていないが、繰り出される仮説のダイナミズムは、同時期の傑作群との比較に耐え得ると思う。
雰囲気はゴシック色が強く、前半は「レベッカ」が思い起こされた。登場人物のおかれた状況(あの人のあの状況は嫌!)や、登場人物の描写(終盤のあの人はサイコパス!)など、怖いシーンも多く、そこは、かなり楽しめた。
ブランド好きならば、読んで損はありませんよ。

No.120 5点 チャイナ蜜柑の秘密- エラリイ・クイーン 2021/11/08 00:37
数十年ぶりの再読。いまひとつの記憶だったが、やはり記憶どおりだった。
これは、冒頭の奇妙な状況の面白さがすべてかな。
途中の展開は、解決を知ってから読むと不要な部分も多いし、最後の推理にも切れがない。
伝記や書簡集や各種解説などの情報から、高級雑誌に売り込もうとして、クイーンはこの頃に作風を変えようとしたようだが(特に途中の展開に恋愛要素やスリラー的要素を取り込もうとしている部分)、まだこなれていないとしか思えない。
さらにそのために変わってしまった残念な点は、「あらため」がなくなってしまったこと。犯行の時間が限定的なんだから、各自のアリバイなんて、ぜひ知りたいのに、全く説明がない。これは私的好みでは退行としか感じられない。
国名シリーズ、私的評価最低は決定です。4点と迷った5点。
「奇妙な状況」と「解決の仕方」から考えると、世界設定を変えたほうが面白かったのではと妄想します。クイーンには「生者と死者と」や「帝王死す」のように、異世界風の設定作もあるので、そういった世界のほうが馴染むお話だったなぁと。あとは、なんとなくカーぽいよなぁ、これ。

No.119 5点 アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン 2021/10/31 23:08
数十年ぶりの再読。いまひとつの記憶だったが、やはり記憶どおりだった。
初読時に感じたことだが、なにが問題かというと、「xxがxxに気がつかない」とは思えないことだと思う。犯人指摘の場面で「そんなバカな!」と思い、推理をきいたあとも「そんなバカな……」と思った。納得させられない時点で、高得点はつけられない。
今回の再読で初めて気づいた点としては、本作が初期3作「ローマ」「フランス」「オランダ」のアップデートをねらったのではないかということた。.類似点としてよく指摘される「容疑者が多い」とい点だけでなく、構成がかなり似ている。例えば、初日の操作が完了するのは半ば過ぎで、アメリカでは220ページくらい。初期3作と似たようなボリューム感だ。そこまでは操作の段取りに筆が費やされていることも、初期3作と同様だ。
アップデートをねらったと思った点は、下記のような部分なる。「捜査者意外の視点をいれる」「映像的な場面が多い」「シーンが細かい」「章立ても多いし、章の中にも"*"で区切りをいれている」「事件の発生現場が派手」。
これらの改定はリーダビリティを高める狙いだと思うが、確かに読みやすくはなったが、同時に失ったものもあると思う。それは、すこしずつ事件の有り様がみえてくる感覚がなくなってしまったことだ。(事件の発生を2万人が目撃しているのだから当然だ。)けれど、謎解きミステリ好きとしては、これはかなり残念な部分だ。また、そのために捜査の段取りが(銃がみつからないことの)「あらため」としての機能しかなくなっていて、解決を知ってから読むと不要と思える部分も多い。
やはり評価は、クイーン全作品の中でも、下の方にならざるを得ないと思う。
とはいえ、よかった点もある。初読時は、最初に書いた理由で、相当に印象が悪かったが、再読してみると、手がかりの配置とそこからの推理展開は、クイーンらしくて魅力的だった。特に、17章の最後の「ある人物が驚いた理由」は、再読で印象にのこった。また、後半、エラリーが真相に確信をもってくる部分の盛り上げ方はよい。
とはいえ、全体の評価を変えるほどではなく、「構想に無理がある」という評価にはなってしまう。

No.118 5点 興奮- ディック・フランシス 2021/10/16 17:28
久しぶりに読むフランシス初期作品としては、最も有名な本作を選んでみた。
(再読なのだが、不正の仕掛け以外はなにもおぼえていなくて、初読のようだった。昔の記憶、どんどんなくしてるな……)
このサイトの書評を色々読んで、初期はメイン・ストーリー中心と思っていたが、それはそのとおりだった。また、私は他フランシス作の感想に「フランシスについては、メイン・ストーリーよりサブ・ストーリーのほうが好み」と書いたが、それもそのとおりだった。
楽しく読めたのだが、「面白いっ!」と感情が動かされるほどではなかった。
冷静に要因を考えてみると、主人公があまりにストイックであり、感情描写もすくなかったため、共感できなかったためだと思う。ハラハラドキドキさせる小説では、主人公の感情に寄り添えることが重要なのだとあらためて認識した。(中期フランシスでは、もっと感情描写があると思う)
構成としてもひとつ疑問があった。ラストの章がやや唐突に感じたのだが、これは「事件が主」で語られているからだと思う。「主人公を描くことが主」で、事件は主人公を描く手段とおもえるほど徹底したほうが、効果的だったのではないか。そうすれば、最後の1文など、主人公と一緒の感慨を感じられたのかもしれない。
やっぱり、フランシスは中期のほうが好きかなぁ。

No.117 9点 逆行の夏- ジョン・ヴァーリイ 2021/09/25 13:11
初ヴァーリイだったが、これは傑作。外れ無し。きっとヴァーリイのベスト盤といっていい選択なのだろう。
基本、全作品にアイデンティティ/コミュニケーションの問題があり、(発表年は70-80年代だが)それが今でも、まったく有効であり、面白い。
SFはかじる程度しか読んでいないが、この年になってオールタイム・ベストの入れ替えを考える本に出会うとはおもわなかった。特に「残像」は、(本でなく)短編で選ぶならば、私のSFオールタイム・ベスト短編の1つとなった。
1作ずつふれてみよう。
1. 逆行の夏: ネビュラ、ローカス賞ノミネート
八世界シリーズ。解説によると本シリーズは太陽系名所案内の趣があるとのことだが、水星の灼熱の世界が描かれる。そこで、八世界特有の性/親子の問題が、日常の問題として描かれる。青春小説の味わいもあり、趣深い。
2. さようなら、ロビンソン・クルーソー: ローカス賞ノミネート
八世界シリーズ。冥王星のディズニーランド(地球環境を模した地下世界)が舞台。ここでも八世界特有のアイデンティティが物語の根幹にあり、恋愛/青春小説の味わいもある、充実した話。後半のシーンの壮麗な描写もよい。
3. バービーはなぜ殺される: ローカス賞受賞、ヒューゴー賞ノミネート
同じ容姿の人物を自由に作れる設定(八世界と共通)での、殺人事件。このような状況で、なにが”普通(アイデンティティ)”なのかを考えさせられる。
4. 残像: ヒューゴー、ネビュラ、ローカス賞受賞(トリプルクラウン)
目が見えない人の閉鎖コロニーを舞台にした、一種のファンタジー。コロニー内で行われている独特のコミュニケーションが強烈。ラストはある有名作を想起させるが、私はその有名作では「気持ち悪さ」「不可解さ」をまず感じたが、本作では「説明できない感動」を感じた。傑作。
5. ブルー・シャンペン: ローカス賞受賞、ヒューゴー賞ノミネート
障害をもった主人公(視点人物の対になる人物)の、特殊な道具を使用したコミュニケーションと生き様を描く。世界設定は楽しげな空間だが、ストーリーはずしりと重い。
6. PRESS ENTER ■: ヒューゴー、ネビュラ、ローカス賞受賞(トリプルクラウン)
SFホラーと分類するのが適当といっていい。これだけは、ホラーに寄せたためか、少し古びてしまっている気がする。それでも、一種のコミュニケーションを主題にしたホラーで、日本の有名作を想起させられた。トリプルクラウンは出来すぎかな。逆にこれ以外が古びていないことがすごいといえる。

No.116 5点 黄金- ディック・フランシス 2021/08/28 21:15
フランシスのイメージとは違い、これも家庭内ミステリだった。
HM文庫の解説によると、本作以降(解説執筆当時で30作まで)、冒険小説敵要素が薄まり、心理的葛藤の要素が強まるとのこと。
なるほど、「標的」も同じ流れなんだ。
前半、家族の群像劇を描いていく部分は、ヒッチコックのコミカルな作に似た雰囲気がある。ドタバタ喜劇の感じだ。中盤の事件から、喜劇感はなくなるが、強烈なサスペンスというわけにはいかず、ウェルメイドなフーダニットという感じ。
ううん、これは違うな。悪くはないんだけど、これでは、たくさんいる優良作家のひとりになってしまう。以前の作にはあった「フランシスだけの味わい」が消えてしまった。
これ以降の作を読むのは後回しだな。フランシスの未読作を読むのは、これより前を優先するとしようか。

No.115 8点 奪回- ディック・フランシス 2021/08/28 21:14
いやぁ、よかった。フランシスはまだ10数作しか読んでいないが、文句なしに一番良かった。
この頃のフランシスには、発表当時に人気があった「情報謀略小説」(クランシーとか)の影響だろうが、特定の業界をリサーチして反映した作品がある。本作は誘拐対処企業。これが興味深くて、前半からすぐに作品世界に入れた。
そして、ヒロイン役のキャラ造形がかなり好み。主人公との関係では、距離感が微妙で、その距離感もまた好み。
最後の展開はやや定形どおりだが、そこで伝えられるヒロイン役の言葉にはぐっときた。ベタでも、こういうのは好きだな。
アマゾンの感想で「初期の話とはだいぶ雰囲気が違う」と書いている人がいて、それは同感だが、きっと私は初期フランシスより、こっちの方が好き。
中期フランシス、いいなぁ。もう少し読んでみよう。

No.114 5点 標的- ディック・フランシス 2021/08/28 21:13
中期のフランシスをいくつか読んでみようと考えて、2冊目として手にとった。
意外なことに家庭内サスペンス。フランシスらしいのは、主人公の造形と、家庭が厩舎であること。事件の構成は、クリスティー作品にもありそうなもの。
家庭内サスペンスは好みでないので、全体的にいまひとつだった。
主人公が陥るラストの苦境は読み応えがあったが、それ以外の部分はいまひとつ。解決の付け方も気に入らない。
でも、もう少し中期のフランシスはいくつか読んでみよう。

No.113 7点 骨折- ディック・フランシス 2021/08/28 21:11
久しぶりのディック・フランシス。
フランシスを何作か読んだのはだいぶ前だが、世評の高い初期作品より、(2、3作読んだ)中期の作品のほうが面白かった記憶がある。
このサイトの書評を色々読んで、中期はサイド・ストーリーを膨らませているのだなと認識し、「なるほど、私はフランシスについては、メイン・ストーリーよりサブ・ストーリーのほうが好みなんだ」と思い、本サイトでサイド・ストーリーの評価の高い本作を読んでみた。本作のメイン・ストーリーが「敵との戦い」なら、サイド・ストーリーは「少年との交流」になる。
うん、これは確かにサイド・ストーリーのほうが好み。いいなあ、フランシス。ハードボイルド風の語り口。ストイックで有能な主人公。せまる敵。おそってくる苦痛。こういうものが一体となって「これがフランシス」という世界がつくられている。
これは、中期のフランシスをいくつか読んでみよう。

No.112 5点 張込み- 松本清張 2021/08/28 20:47
やはり、社会派は好みでないことを再確認した。
本書は当サイトで点が高かったので、若い頃とは少し好みが変わったかもと思い手にとってみた。たしかに若い頃より楽しめる部分もできていた。若い頃なら「つまらん」と切り捨てていたと思うが、今回はそれなりに楽しめたしね。特に文章は簡潔でスッキリしていて、実に読みやすい。今でも読まれる理由はわかった気がする。それでも好みではないかな。
個々の作品に触れてみよう。
「張込み」。刑事の捜査のスケッチ。刑事が張り込む女の人物像が浮かび上がる。うまいなぁと思うが、ミステリ的興趣ではないかな。
「顔」。これは緊張感が全編にあり、面白かった。私としては、本編のベスト。
「声」。前半、事件に巻き込まれる女性の部分はサスペンスがある。後半、事件の捜査パートも迫真性があり、面白い。しかし真相がわかってくると、どうもいただけない。真相だけが作り物めいているんだよな。それまでの迫真性とマッチしないで、浮いている感じ。
「地方紙を買う女」。これも、前半の事件をかぎつける部分のサスペンスは秀逸。でも「声」同様、後半が作り物めいてくる。やはり全体のバランスは大事なんだなぁと思う。
「鬼畜」。犯罪が起きるまでを追ったドラマ。ジャンルとしてのミステリに入れるかどうかは、ボーダーラインですね。「罪と罰」がボーダーラインかな、と同じ感覚でボーダーライン。
「一年半待て」。定形的作品で、可もなし、不可もなし。
「投影」。犯行手段の手の込みようが作り物めいている。タイトルの意図も読み取れなかった。主人公の造形は陰影があってよい。
「カルネアデスの舟板」。考古学教授の「犯罪に至る心理」を追ったドラマ。「鬼畜」と同様、ミステリのボーダーライン。

No.111 7点 疑惑の霧- クリスチアナ・ブランド 2021/08/09 12:54
本作も、後半に仮説の構築を何度か繰り返す。そのなかのひとつのあるものを落とす説は、ゾクリとした。これはいい。
前半は、動機があることを示すために、いつにも増して愛憎劇に割かれているが、やはりキャラクターの立て方がいまひとつに見える。翻訳の問題なのかもしれないが、そうならば新訳してほしいなぁ。
フィニッシング・ストロークをよく言われるが、これは、最後に気の利いたオチをつけたといったもので、ここの期待値を高くしてもがっかりするだけだろう。
ブランドの最高傑作に推す気にはならないが、他ブランド作品を楽しめたなら、本作も十分楽しめるはず。

No.110 8点 自宅にて急逝- クリスチアナ・ブランド 2021/08/09 12:53
自分で勝手につくった「バークリー/ブランド/デクスター・スクール」と言葉があり、この作者たちの「仮説の構築を何度も繰り返すことを物語の面白さの中心にすえた作品群」をイメージしている。
上記作風の代表をブランド作の中で1作選ぶとすれば、それは本作になるだろう。
AさんがA’の仮説でBさんを犯人と指摘し、EさんがE’の仮説でFさんを犯人と指摘し……、と、都度「仮説の構築者」と「指摘された犯人」が違う説が繰り返される。しかも、そのひとつひとつが説得力があり、なかなか魅力的だ。
しかも、作の4分の1あたりから、それは始まる。残りの4分の3ほどが、すべて仮説の構築の繰り返しに費やされる。全体の構成を俯瞰すると、バークリーの「毒入りチョコレート事件」を彷彿とさせる。「毒入りチョコレート事件」の成功は、全体の構成を「趣向」として提示する”犯罪研究会”という設定にあると思うが、本作にも似たような”構成を提示する仕掛け”があれば、もっと評価されるのにと思う。
ただ残念なのは、最後に繰り出される真相が一番魅力的かというと、そうでもないところ。
けれど、謎解きミステリファン必読の作品と思う。

No.109 6点 緑は危険- クリスチアナ・ブランド 2021/08/09 12:51
ブランドの作では色々な仮説が繰り出される。後年の作では、それは「どうやったか」も含めた仮設のため、仮説毎におおきく事件の様相が変わっていた。本作でも後半に色々な仮説が繰り出されるが、動機に関しての仮説の構築が主のため、後年の作ほどのダイナミックさは感じられない。
また、(やはりこれは視点の問題が大きいと思うのだが)キャラクターの立て方がいまひとつに見えるので、愛憎劇の部分はそれほど楽しめなかった。
中盤の手術のシーンや、最終場面のコックリルの行動が引き起こす結果など、面白いシーンもあるが、この後の傑作群へステップアップする前段階の作品と感じた。

No.108 8点 ジェゼベルの死- クリスチアナ・ブランド 2021/08/09 12:50
まずは欠点から書いてみよう。(これはブランド作品全般に当てはまるのだが)読みづらい。
読みづらさの原因は、第一に、三人称他視点にあると思う。日本の小説では三人称他視点はあまりなく、あっても章ごとに視点を変えるなどして、読者は常に誰かの視点に寄り添っているのが普通だ。ところがブランドは「Aはxxと思った。Bはxxと思った」とつづけて書く。
(セイヤーズの「死体をどうぞ」の解説で法月綸太郎が「サタイア」について書いていて、「喜劇性の濃い風刺文学、イギリス小説の”伝統”を形成する」とあり、風刺文学との視点ならば、三人称他視点も違和感がないのかもしれない。こうなると、これはもう国民性/文化の差異で、しょうがないのかもしれない)
あと、登場人物の心理がわからない。色々な仮説が繰り出されるが、その仮説をふまえた心理的背景まで説明されないので、表面的に流れ去ってしまうところがある。また、状況説明の段取りも不十分、もしくは下手だと思う。本作でもアリバイの状況提示は断片的に会話で行われるだけだ。
それなのに”本作は面白い”というところがすごい。(まあ、面白がれるのは、謎解きミステリを好きな人だけだと思うが)
途中に繰り出される仮設がひとつひとつ魅力的だし、演出も冴えた部分がおおい。中盤、箱を開けるときの演出はゾクゾクした。
そして、最後に繰り出される真相……。これはいい。
多くの仮設が提出される作品ではよくあることだが、最終的な解決が最も魅力的ではないことが、よくある。しかし本作では、最終的な解決が圧倒的にいい。途中に繰り出される仮設もいいのに、それを上回っていい。いやいや、これはもう、ブランドの最高傑作であると思う。

No.107 6点 鷺と雪- 北村薫 2021/05/16 14:28
さらにミステリ度は下がっている気がする。謎は解決はあるが、検討がないために、そう感じるのだと思う。そのため直木賞受賞作だが、評価はあがらないなぁ。
不在の父:「馬さん」の人物造形がよい。やはり北村薫はキャラクターの作り方がいいなぁ。
獅子と地下鉄:謎自体がたわいもない。この話に直接関係なくブッポウソウが登場する。参考文献によると実際にあったこととのこと。前に出したのはこのための布石だったのだな。
鷺と雪:当時の時事の話が一段と多い。それは、やはりラストの効果のための布石なのだと思う。このラストは確かにいい。ミステリとしてはどこかで見たような手口。悪意の見せ方は、北村薫らしい。

No.106 7点 玻璃の天- 北村薫 2021/05/16 14:27
個々の話と、全体を通しての話が同等の分量で描かれている。個々の話はミステリだが、全体を通しての話はミステリではない。でも、面白いのは、全体を通しての話なので、ミステリを期待すると肩すかしかもしれない。シリーズ3作では本書がベストと感じた。
幻の橋:犯人が「すぐにばれない」と考える理由が思い当たらない計画なので、ミステリ的には杜撰かな。まあ、落とし所(意図を込めた絵の選択)が見せたいところなのだとは思うが。ここは好み。ベッキーさんの背景話、英子の出会いなどの別の部分が見どころ。
想夫恋:ラストのベッキーさんの諭しがよい。
玻璃の天:犯人の行動は「こんな複雑なてつづきが必要とは思えない」が、シリーズのテーマにそった動機が読みどころ。個人的にはこれがシリーズのベスト作。

No.105 6点 街の灯- 北村薫 2021/05/16 14:25
ミステリ部分と、当時の風俗を描く部分、キャラクター紹介部分が、同等の分量というところ。
ミステリ部分も小ぶりで、ミステリを期待すると肩すかしかもしれない。ただ、やはり北村薫はよみやすくて、するする読めてしまう。
また、桐原家の人々は、シリーズを通して登場するので、そのためキャラクター紹介部分の分量も多いのだろう。
虚栄の市:乱歩を引き合いに出したミステリ部分は、付け足し程度。第1話のため、舞台設定もふくめた主人公たちの紹介の話。
銀座八丁:暗号部分は、これもサブストーリー感がある。当時の風俗、桐原家の紹介、ベッキーさんの紹介が主。「鷺と雪」まで読むと、服部時計店の紹介もポイントだったのだなとわかる。
街の灯:ミステリ的には、これが一番しっかりしている。ある人物の気持ちが(北村薫らしく)どす黒いのが面白い。解決のしかたばどうなのかと思ったが、「鷺と雪」まで読むと、これはそういうテーマで作られているのだとわかる。また、ブッポウソウの紹介もポイントだったのだな。

No.104 6点 むかし僕が死んだ家- 東野圭吾 2021/05/16 14:24
プロットはいい。事実がみえてくる展開も軽快で(少し軽快すぎるかも)一気読みだ。
ただ、読んでいて、話が分散して感じられた。「その家の過去を推理する話」「女性の過去を探す話」「語り手の抱えている問題」のそれぞれが、うまく関連していない。展開としても「女性の過去を探す話」が、「その家の過去を推理する話」にかわり、最後に急に「女性の過去を探す話」に戻るという感じで、どこかアンバランス。ラストの落とし所も、少し無理が感じられる。
また、(上記展開のためもあると思うが)人物描写がよくない(悪くないけと、迫真性が足りない)ので、登場人物に共感できなかった。(共感が小説に必須とは思わないが)この話は登場人物に共感させてこそ、最後がいきるプロットだと思う。
ある程度面白いのだけど、「もう少しで、そうとう面白くなったのに」と悔やまれる作と感じた。

No.103 7点 白馬山荘殺人事件- 東野圭吾 2021/04/03 23:59
東野圭吾作品で一番愛着のある作品。
初期作品だからだろうけど、東野圭吾では珍しく作者の思いを感じる作品。
出版された当時に読んで、期待して何作か読んだけど、以降の作品は(少し冷めた)”職人”になってしまって、継続してよむことはしなくなってしまった。
冒頭の人物の属性に関することに触れている書評がいくつかありますが、出版が綾辻以前であることを考えると、こなれていないことより、先進性を評価すべきだと思いますね。綾辻以前の出版当時に読んで、面白い趣向だなとワクワクしました。

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ことはさん
ひとこと
ホームズ生まれの、クイーン育ち。
短編はホームズ、長編は初期クイーンが、私のスタンダードです。
好きな作家
クイーン、島田荘司、法月綸太郎
採点傾向
平均点: 6.34点   採点数: 222件
採点の多い作家(TOP10)
エラリイ・クイーン(23)
レジナルド・ヒル(19)
アンドリュウ・ガーヴ(14)
近藤史恵(11)
アガサ・クリスティー(9)
笠井潔(8)
P・D・ジェイムズ(6)
クリスチアナ・ブランド(6)
東野圭吾(5)
アンソロジー(国内編集者)(5)