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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1716件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.656 7点 屈折する星屑- 江波光則 2020/01/05 12:50
 厳しく言えば、殺伐とした不良の青春小説の舞台を宇宙時代に移しただけ。とは言えアレンジの仕方としては悪くないし、小手先の技ではなく作者がきちんと作品世界を“引き受けている”感じで好感が持てる。タイトルを始めとして散見されるデヴィッド・ボウイ用語は鼻に付くが、作者にとっては重要だったのだろうからまぁ大目に見よう。

No.655 8点 神々の埋葬- 山田正紀 2020/01/05 12:48
 『神狩り』『弥勒戦争』『神々の埋葬』で“神シリーズ”とも呼ばれるらしい。しかし山田正紀は以降も繰り返し神をテーマに取り上げているわけで、その呼称はあくまで初期の視点による過去のものと捉えるべきだと思う。
 さて本作。スケールの大きさは言うまでもなく、若書きなりに『神狩り』等と比べると登場人物は存在感を増したが、まだストーリーを勢いで駆け抜けてしまった感がある。美味しいキャラクター設定だけしてガンガン使い捨てている。例えば後藤貢あたりのエピソードを一つでいいから(伝聞ではなく)挿入してあれば、ハードボイルドな結末の無常感もいや増したのではないか。

No.654 8点 弥勒戦争- 山田正紀 2020/01/05 12:45
 乾いた筆致の仏教SF。水面下の全体像がきちんと在って、その上で氷山の一角だけ断片的に描いている感じ。逆に言えば“ここをもっと深く掘ってよ!”と言う箇所があちこちに見られ、決して小説巧者ではない。しかし妙な生々しさが時折グイッと鎌首をもたげる。なんだこれ。

No.653 7点 落涙戦争- 森田季節 2020/01/05 12:39
 泣かせ屋にロックオンされた泣けない少年。涙の意味を問う(笑)理不尽な一週間が始まった――軽快な文章に絶妙な重さを乗せる才が映え、表層の雰囲気だけでなく堅いコアも持った作家のように思える。西尾維新の戯言シリーズの後半のパスティーシュ、のような騙しの物語。

No.652 3点 災厄の町- エラリイ・クイーン 2020/01/05 12:36
 何か変だ。“3通の手紙”が、どうにも納得出来ないのである。
 殺人計画を立てる。そして、実行したわけでもないのに、その状況を知らせる(つまり架空の内容の)手紙を書く――何の為に? そんな準備が必要? リハーサル(笑)?
 “妻を殺す”ごっこ遊びで、敢えて実際に書くことで心の奥の鬱屈を昇華させようと試みた、なんて解釈の方がまだ判るけどなぁ。“手紙=殺人計画の証拠”と言うことを誰も疑っていない。この奇妙な世界設定、目をつぶるには大き過ぎる。
 出番少ないけど長女ローラのキャラクターは好き。

No.651 9点 法月綸太郎の新冒険- 法月綸太郎 2020/01/05 12:35
 法月綸太郎の小説作品は概ね読んでいると思う。最も印象深かったのが本書に収録の「身投げ女のブルース」である。起点に偶然を含む点はちょっと引っ掛かるが、真相として提示される鮮やかな反転がそれを補って余りある。
 他の収録作も作者のポテンシャルを遺憾なく発揮した(もしくは、余計な寄り道で浪費することを上手く回避出来た)名品が揃っていると思う。

 ただ、以下ネタバレするけれども、「リターン・ザ・ギフト」の最終章を読んでいる途中で、穂波が“腑に落ちない”と言ったことと同じ疑問を私も抱き、それに対する回答には得心が行かない。ところが考えてみれば、偽装交換殺人(未遂)によって、弟を妻殺し犯に見せかけているわけで、理由としてはそれで充分な気もする

No.650 7点 いざ言問はむ都鳥- 澤木喬 2019/12/30 10:46
 分類学者の視点で世界を切り取る豊穣な筆致は、回りくどさも含めて大変心地良い。一方、掘り出される謎については、論理の面白さと同時に強引さも感じる。
 差し引きすると後者のほうが勝ってしまい、ミステリとしてはいまひとつ、なんだけどそう斬って捨ててしまうには惜しい魅力があった。

No.649 6点 天井の足跡- クレイトン・ロースン 2019/12/30 10:41
 記述者が地の文に挿むユーモアが良い。ストーリーはちょっとごちゃごちゃしている。これは書き方次第でもっと読み易くならないかなぁ。
 “天井の足跡”は事件に於いてさほど大きなウェイトを占める謎ではない。それがタイトルでなければ、あのトリックでもそこまでがっかりしなかったかも。私は、先入観で作品の総合的な傾向を見誤ったまま読み進んでしまった感がある。

No.648 7点 賞金稼ぎスリーサム!- 川瀬七緒 2019/12/30 10:37
 推理力ではなく調査内容から一歩一歩核心に迫る展開、はみ出し者が集まったチーム、結構唐突に出て来る犯人の異物感など、『法医昆虫学捜査官』に準ずるものではある。但し本書の主人公達は警察官ではないので、バックアップが少ない反面、行動の自由度は高い。そのへんの設定の違いを上手く使い分けられれば、前述のシリーズと並んで作者の二本柱になるポテンシャルはあると思う。個人的にはもう少し捻って欲しいけど……。

No.647 7点 マジックミラー- 有栖川有栖 2019/12/30 10:32
 ネタバレしつつ書くが、アリバイ・トリックで良く判らない点がある。某が、白鳥を小松で降りずに、わざわざ金沢まで行って小松へ引き返す手間をかけた理由は? 少しでも長く白鳥に乗っていたかった? どこかに書いてあるのを私が見落とした?

No.646 6点 気まぐれ指数- 星新一 2019/12/26 11:49
 都筑道夫みたい。星新一はエログロ書かないから、都筑道夫を漂白した感じ、とでも言おうか。謎と論理を重視する為に、過剰なメロドラマ性を排した都筑。無個性なキャラクターを多用し、“人間”を描く方法が必ずしも“人物”を描くことだけとは限らない、と語った星。両者が近いところに着地したのは、考えてみれば納得出来る。
 毒の無い世界観を一旦受け入れてしまえば、このイノセントな騙し合いも楽しめた。矢鱈と繰り出される様々な比喩が、長編で読むととても目立って苦笑。

No.645 7点 ドラゴンの歯- エラリイ・クイーン 2019/12/26 11:48
 遺産相続を巡るあれこれは、書き方が巧みなので飽きずに読めるが、飽くまで想定の範囲内に終始している気もする。ようやく事態が動くのは物語の半ばあたり、そこを過ぎて俄然面白くなるものの、最後に物凄い偶然による人間関係が発覚して呆然。国名シリーズにも似たようなサプライズがあったね。あと、前作『ハートの4』と同じような“雇用者と使用人の関係性”を連続して使い回すのは如何なものか。

No.644 8点 美少年蜥蜴- 西尾維新 2019/12/26 11:42
 講談社タイガ創刊ラインアップの1冊として始まったこのシリーズは、“薄っぺらい文庫本”というレーベル・コンセプト(?)を体現するかの如く、短編サイズのアイデアを舌先三寸で引き伸ばした作品に終始した観がある。そしてそれは、作者の言葉そのものに対する信頼を裏付けとした、少ない材料でどれだけ膨らませることが出来るか、と言う或る種倒錯的ながらも前向きな挑戦だったように思う。次々広げられる無茶な風呂敷にニヤニヤしつつ楽しませて貰いました。
 本作でもそれを反省するどころかますますエスカレートさせて天晴れ完結。殆どストーリーはありません、良い意味で。尚、【光編】【影編】とあるが要は上下巻。

No.643 7点 七十五羽の烏- 都筑道夫 2019/12/26 11:36
 他者の為に○○した、という真相の話は読んで辛いし、そこまでするキャラクターの心が怖い。
 “走り火”の情景描写は圧巻。縦横に火花が閃く夜の闇の中へトリップしてきた。個人的にはあの場面が本書の主役。

No.642 7点 不動カリンは一切動ぜず- 森田季節 2019/12/19 11:03
 青春小説。性・家族・コミュニケーション等の形が変化した時代が舞台で、発達したITがバックアップする殺し屋の手が迫ったり、変な宗教が神に迫ったりと、SF的ガジェットの面白さもあるが、それら全てを突き抜けて少女達の真摯な思いが光る。
 少女の一人、“言葉(ときは)”と言う名が、文中に混ざると読みづらい割にその命名による効果が無いのは失点。

No.641 7点 カナダ金貨の謎- 有栖川有栖 2019/12/19 10:58
 短編2編の“謎そのものよりも謎の出し方がメタ的なヒントになっている”状態が面白い。表題作中の“キャメルの由来”も同様。
 「船長が死んだ夜」。犯人の肉体的特徴の描写が少なくて読み流していた為、解決編で“アレッ、この人はそういうキャラだっけ?”とキョトンとしてしまった。ええ私の読み方が悪いんです。それを除けば、とても良い。

No.640 8点 レームダックの村- 神林長平 2019/12/19 10:54
 巫女。ムラオサ。穢れたら埋められる。受け入れを拒否されたら生きて出られないよ……ホラー系ミステリのような導入部だが、間違いなく神林長平の長編SF、しかも『オーバーロードの街』に連なる作品である。比較的きちんとまとめて終わっている、と思ったら続きがあった。
 タイトルが内容をそのまま示している。街(都市圏)がああいうことになっている時、田舎の村では何が起きるか。様々な思惑が絡み合い、国家論が右往左往し、ラストは結構な力技に呆然。そして話は全然終わっていない。人類はどうなるのか?

No.639 8点 ×××HOLiC アナザーホリック ランドルト環エアロゾル- 西尾維新 2019/12/12 10:58
 CLAMP のコミックをネタに西尾維新が書いた小説。そりゃ当然面白い。実はストーリー性は希薄で、御題を右から左へ動かしているだけなのだが、それでこんなに読ませるとは一体どういう仕掛けなんだか。
 しかし短編3本をこのサイズの豪華な書籍に仕立ててこの値段。売れっ子同士の組み合わせなんだからボってやれと言う版元の狙いが透けて見えるような気がする。(ビジネスのことは言うな!)

No.638 7点 ベンスン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2019/12/12 10:48
 思うに、最低限の作品なら或る程度スタイルを整えれば成立するミステリと言うジャンルは、気を抜くと堕し易い? あと、読者のマニア度が人それぞれなので、B級品の需要も常に存在する?
 つまりは、論理的なものと通俗的なものを巡る構造は当時も現在も変わっていないと言うことか、本作の批評性の強い書きっぷりが、90年以上過ぎた今読んでもそれなりに面白い。
 饒舌なファイロ・ヴァンスは知的と言うより道化だが、それはそれで楽しめた。なんで最初からあんなに自信満々なの。

No.637 8点 神狩り- 山田正紀 2019/12/05 12:50
 いや~、スッキリした小説である。余計な重複が無いし、多面性に欠ける一本気キャラばかりだし。かと言って貧弱なわけではなく、頑健な骨格に引き締まった筋肉を具えたアスリートの力強さだ。
 一方で、“説明出来ないことは説明出来ないのだ”と言う説明で押し切ろうとしているのは、若書きと言うかまだ手持ちの駒が少なかったんだなぁと感じる。それを形にしようと徐々に饒舌になったのかもしれない。
 まぁ読書に関して一神教である必要など無いのだ。熱いデビュー作と厚い近作と、面白さの質は変わったが山田正紀はどちらも面白い。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1716件
採点の多い作家(TOP10)
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