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[ SF/ファンタジー ]
弥勒戦争
神シリーズ
山田正紀 出版月: 1975年01月 平均: 7.67点 書評数: 3件

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早川書房
1975年01月

早川書房
1976年01月

早川書房
1976年12月

角川書店
1978年01月

角川春樹事務所
1998年09月

角川春樹事務所
2015年05月

No.3 8点 人並由真 2022/05/02 15:34
(ネタバレなし)
 終戦後の広島で、ひとつの意志「かれ」が目覚める。一方、昭和24年11月の東京では「光クラブ事件」の首謀者・山崎晃嗣(やまざきあきつぐ)が服毒死。自殺に見えたその死の陰には、人類の歴史の裏に潜み、そして自らの一族の滅びの道を探る超能力者集団「独覚」の暗躍があった。だがその独覚のなかに、世界を第三次世界大戦に導こうとする謎の存在がいるという。T大学の文学部学生で、易者として生活費を稼ぐ20大後半の独覚・結城弦は、数少ない有志の仲間とともに戦いを開始するが。

 山田正紀の第二長編。大昔にSRの会の例会で、少し年上のなじみの会員から「山田正紀の初期作品のなかではこれがベスト」と聞かされたのを覚えている。
 例によって本そのものはその大昔に入手しており、さらにあろうことか本書は旧世紀のうちに家人に先に貸して読ませていた(家人は相応の感銘を覚えたようである)。だがその後、家の中で本が見つからず、2010年代の後半に諦めてブックオフで角川文庫版を改めて購入。読むタイミングを見はからいながら、昨夜ようやく読んだ。

 結論から言えば非常に面白かったが、色々な思いが過る作品。

 本サイトで虫暮部さんがおっしゃる「水面下の全体像がきちんと在って、その上で氷山の一角だけ断片的に描いている感じ。逆に言えば“ここをもっと深く掘ってよ!”と言う箇所があちこちに見られ」というのはまっこと同意で、いかにも作家が原稿用紙を筆記具で埋めるのが当たり前だった時代に書かれた作品という感じ。ワープロ普及以降の時代だったら、たぶん絶対にこの一倍半かもしかしたら二倍以上の紙幅になっていたと思われる詰め込まれた内容。

 ただし実際に出来た作品はそんな、例えるなら、鳥観図の地図を目の前に置き、特に高い山々の頂上を点と点で結びあっていったら、あまりにも美しい絵画が完成したというような奇跡の一冊であった。
 このコンデンス感と物語の疾走感は、紙幅を費やして書かれていたら、確実に失われてしまうだろう。
 戦後昭和史の裏面SFとして、人類の展望を見据えた壮大なビジョンの作品として、そして薄暗くもほのかに明るい青春ドラマとして、結晶度の高い一作。

 でも可能なら、いつか作者自身の手によって、二倍以上の紙幅になった補完増補版『弥勒戦争』を読んでみたい。
 そしてその上で、やっぱり自分の心はオリジナル版の方に戻るだろうけれど。

 ところで終盤のシーン(結城が××と対峙する場面)はあまりに印象的だが、すごくデジャブを覚えた。もしかしたらその大昔に一度は読んで、よく理解できないまま忘れているのか? いや、たぶん、いつかどっかでたまたま? この場面を先に見てしまっただけだとは思うが。

余談その1:人類の進化といえる超能力者の発生は、実は各肉体器官を使わなくなる人類の退化だとする視点は、あの萩尾望都の『スター・レッド』の名脇役ベーブマンの名言を想起させた。当然、こっち『弥勒戦争』の方が早い。遡ればさらにまだ先駆があるのかもしれないが、もしかしたら影響を与えているのか?

余談その2:読了後にTwitterを覗いていたら、作者ご本人が2012年に本作の続編『弥勒戦線』を書く構想があると語っていた。もちろんまだ書かれていないし、出来たものに受け手がどういう感慨を抱くかはまた別の話だが、やはり気になる。静かに状況を見守りましょう。

余談その3:これはおよそ半世紀の間に、どこかで映画化企画は動いていないのかなあ。昭和裏面史の映像化、良い意味で記号的に表現できる世界の終末、そして役者のライブアクションで主動できる本筋などなど、非常に映画人の創作欲を刺激する内容だと思うのだけど。なにか御存じの方がいたら、教えてください。

余談その4:2015年版ハルキ文庫の表紙のセーラー服の美少女、誰だよ……?

No.2 7点 クリスティ再読 2020/10/04 15:08
「裏小乗の独覚」というこのネーミングがすべて。裏高野、裏柳生、裏死海文書。「裏」ってロマンだ(苦笑)。
GHQの謀略云々が取りざたされる占領期の風俗と朝鮮戦争を背景に、GHQやら旧特務機関を向こうに回して、滅びを宿命づけられた独覚一族が超能力バトルを繰り広げる小説。ラスボスは弥勒。この超能力がブッダが備えたとされる天耳通やら宿命通やら、仏典に典拠を持たせたもの、というのがさすが。漏尽通で自殺的に宿縁を閉じて仲間を救うとか、よく考えてある。
アクションのネタに仏教を「使った」作品で、それこそ80年代以降菊池秀行やら夢枕獏、あるいは「孔雀王」なんかで盛んになる「密教バトルアクション」の先駆になるようなタイプの作品だけど、安っぽくならないのが山田正紀の実力をうかがわせる。さすがなものなんだけども、もう少したっぷりこってり、書いてほしかったなあ...

(坂口安吾が一瞬登場、なんだけど、弥勒に堕落をすすめる安吾とか、見てみたくない?)

No.1 8点 虫暮部 2020/01/05 12:45
 乾いた筆致の仏教SF。水面下の全体像がきちんと在って、その上で氷山の一角だけ断片的に描いている感じ。逆に言えば“ここをもっと深く掘ってよ!”と言う箇所があちこちに見られ、決して小説巧者ではない。しかし妙な生々しさが時折グイッと鎌首をもたげる。なんだこれ。


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