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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1701件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.861 5点 消人屋敷の殺人- 深木章子 2020/12/18 13:28
 それぞれのパーツを鑑みると私の好きなタイプの筈だが、何故かあまり惹かれなかった。トリックの使い方の問題、ってことだろうか?

 ネタバレっぽいけど気になった点。
 ・作中人物の台詞にあるように“招待状がニセモノである以上、(荒天でなければ)すぐに追い返されるだけ”と言う件が、結局曖昧なままになっている。
 ・Hが別人の振りをしてSと対面する場面がある。当然これはSがHの顔を知らないことが条件。SとHの職業からして、Hがそのことを確信出来る根拠は無い。言い訳の余地はあるけど、そこも含めて作中でフォローすべきだったのでは。

No.860 6点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 骨と石榴と夏休み- 太田紫織 2020/12/18 13:27
 ライトとはいえ、いやしくもミステリなら悪意が埋まっているほうが面白い。ってことで第壱骨は物足りなかった。
 第弐骨。櫻子さんかっこいい。
 第参骨。設定の割に東藤一族の面々はとても普通な感じ。その中に、妹が自殺しても尚あのスタンス、と言う告白がサラッと書かれていて効く効く。

No.859 7点 海を見る人- 小林泰三 2020/12/11 12:08
 本書は小林泰三のブライト・サイドだと思っていたけど、決してリリカルなだけの作品集ではないし、視覚的な想像を膨らませるとなかなかシュールかつグロテスクだし、こりゃあ表紙を飾る鶴田謙二のイラストに騙されていたわ(いいじゃないの幸せならば)。
 どれも面白いが、以前読んだ時と比べると結構“普通”な印象。変な世界の話はいっぱい読んだからね。

No.858 5点 - エラリイ・クイーン 2020/12/11 12:06
 天才的な女たらしが、引っ掛けた女を共犯にする、との設定なら、共犯者は幾らでもどこからでも調達出来る筈なのに、閉じられた人間関係・限られた容疑者の中だけで話が進行する不自然さにイライラした。出来が良いとは言えないが、テンポ良く進むのが救い。
 ハヤカワ文庫版の表紙はなかなかやってくれるぜ。大胆なネタバレでグッジョブ。

No.857 8点 バトル・ロワイアル- 高見広春 2020/12/11 12:05
 強引な引力を備えた話だ。バトル開始と同時に“他者の信義に期待する平和主義者=愚か者”と言う価値観に思考がシフト。殺人欲が刺激される。
 体力の無い私としては、前半は隠れて漁夫の利狙いか。一か八かで山火事を起こすのはどうだろう。機動性や脚の保護を考慮するとスカートは不利だから、女の子は死体から奪ってでもズボンに穿き換えるべきでは?
 文庫版解説では色々もっともらしい事が述べられているけれど、“中学生がガンガン殺し合う娯楽作品”と言う表層通りの読み方でもいいと思う。或る種の過剰さに意義があるとはいえ、1クラス分の人数を書き切るとは、作者も良く頑張った。

 あの彼がのべつ幕なしに煙草を吸っているでしょ。煙草の臭いは人の存在を示す重大な目印になって危険なのに。でもニコチン依存症になっちゃうと、そういう冷静な判断が出来ないらしい。
 山中に隠れた犯人が、警察の山狩りからは逃げおおせたのに、ニコチン切れに耐えられず煙草を買いに町に出て御用――と言う事例が実際にあったそうな。依存症って怖いね。

No.856 7点 万博聖戦- 牧野修 2020/12/11 12:04
 基本は壮大な与太話、されど前半の歪んだノスタルジーにせよ、後半の暗くて明るい未来予想図にせよ、塗り込められた悪意の質・量ともに半端ではない。世界は何故こんなに悲しいのか、うつろな笑いに託して問いかけてくる。
 最後まで主人公の心に潜む重石である割に、ヒロイン波津乃未明の存在感が弱い。或る種の過剰さに意義があるとはいえ、ちょいと長くて読み疲れたかな。

No.855 8点 新本格魔法少女りすか- 西尾維新 2020/12/11 12:02
 西尾維新は、理性を振り捨てた状態を描くのが実に上手い。また、キズタカの率直な一人称記述をフィーチュアしつつ、彼自身にも処理出来ないぐちゃぐちゃを浮かび上がらせて甘酸っぱい。色んな意味で痛い痛い。
 27歳りすか、潤さんと結構キャラが被ってない? あんなに台詞があって1分じゃ足りないでしょ。クトゥルー神話は正典を読んでいないので実はあまりピンと来ない。

No.854 9点 なめらかな世界と、その敵- 伴名練 2020/11/29 15:08
 凄いなこの人。“奇跡の才能”との謳い文句に偽り無し。
 非常にSF的なアイデアと、心を鷲摑みにするキャラクター設定と、それを十二分に具現化する文章力。おかげで私は、女子高生の向こう見ずな決断に驚き、百合めいた姉妹愛に悶え、“不可解な鉄道事故が日本中に与える影響”についての考察に感服する。
 どの短編がベストだとか打率何割だとかじゃなく全編グレイト(「美亜羽へ贈る拳銃」は構造を複雑にした割にその効果が薄い、とは思う)。
 「ひかりより速く、ゆるやかに」の、めくられた単語カードの言葉“ irrevocable /取り返しがつかない”――これが収録作品の共通したキー・ワードに思えるんだけど、どうかな?

No.853 6点 生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術- 泡坂妻夫 2020/11/29 15:04
 〈生者と死者のテスト〉について。描写が曖昧だけれど、六人の名前を書くところは隠しておらず、“その中の誰が死者かを当てる”ことが主眼? 隠して書いたら、作中の説明では透視出来ないよね。でも当てるだけなら6分の1の確率だ。場の雰囲気でその程度でも驚く、と言うこと? 良く判らない。
 また、自動書記の内容が同じ文字列のアナグラムなのは何を狙った演出なのか?

No.852 6点 スイス時計の謎- 有栖川有栖 2020/11/29 15:01
 二重基準を発見。「あるYの悲劇」で、“H○○○をY○○○と聞き違えた”との説を“イントネーションが別物”と退けている。一方「女彫刻家の首」では、“○○○○と×○○○を聞き違えたのでは”としているが、こちらだってイントネーションが違うじゃないの。小説であってもイントネーションをきちんと考慮に入れて欲しいと私は思う。しかしわざわざこの二つを同じ本にまとめなくとも……。

No.851 6点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている - 太田紫織 2020/11/29 15:00
 事前になんとなく予想した範囲内、ではあるが興味深いネタだし楽しく読めた。
 この語り手には、書かれている以上の鬱屈がありそうに感じる。これは行間に豊かな背景を潜ませていると言うことか、作者が語るべきことを語りきれていないのか、迷うところだ。

No.850 5点 我々は、みな孤独である- 貴志祐介 2020/11/29 14:57
 物語の描き方は巧みで吸引力がある。前世に対するスタンスがシームレスに変化するさまは可笑しいやらぎょっとするやら。
 しかし、辿り着くコトの真相がアレってのはどうなんだろう。特殊設定のミステリだと考えても大雑把過ぎだ。着地点がアレだからきちんと話を収斂させなくとも大丈夫、との前提で野放図に風呂敷を広げたのではないか、と言う疑惑が頭をもたげる。技巧的に見えて実は暴投?

No.849 6点 鏡の国のアリス- 広瀬正 2020/11/23 12:56
 天藤真と広瀬正を並べた解説を読んだことがあって、それは確かに的を射た意見だと思う。穏やかな文体にユーモアを潜ませて、ドタバタ劇を品良く読ませる。ただ結果として、ミステリは経年劣化したのに対し、SFはレトロな雰囲気が作品コンセプトと合致し得る点で、差が出たかもしれない。
 表題作は、読んでいるうちに、主人公がふと発狂したのではないかとの疑惑を抑えきれなくなり、そうなるともうミステリなのである。他に短編三編を併録。

No.848 8点 人類最強のヴェネチア- 西尾維新 2020/11/23 12:54
 物語としては単純だけど、殺し方はえぐいし、モノローグは気持悪いし、髪形は変だし、コレは決して水増しじゃないぞ。“コンコルド効果”なる言葉を西尾維新作品で学んだ身としては、プライベートジェットのコンコルドでヴェネチア入りなんて感無量。

No.847 9点 揺籠のアディポクル- 市川憂人 2020/11/23 12:46
 ホームランを狙って打って狙い通りに場外。見事です。ここまでやるとは。
 アプローチは違うけど似たコンセプトの作品が乙一にあったかな。
 訴求力に富むとは言いがたい題名は損。鳥頭には『揺籠のなんとか』との認識しか出来ないよ。

No.846 6点 暗い宿- 有栖川有栖 2020/11/23 12:41
 「異形の客」について。真意を伏せたまま他者をアリバイ工作に加担させるに当たり、どのような言い訳を使ったのか、設定しておいて欲しかった。力関係はその“他者”の方が上なんだよね。
 明確な理由付け無しで、無自覚の協力者に、不自然な行動をとらせることが出来る――それはつまるところ、作者は誰に何をさせてもいい、と言うことになってしまうじゃないか。
 ところで問題の行為が旅館側にバレたら、詐欺罪成立?

No.845 7点 漱石と倫敦ミイラ殺人事件- 島田荘司 2020/11/18 11:11
 洒落のめしつつもなかなか巧みに模倣しており感心した。
 犯人が不可解な状況を演出した動機が明快なのも良し。
 但し、犯行全体の動機には法律上の疑問が残る。あの人とその人の続柄でそういう権利が成立する? 死んでいないのに財産の移動が発生する?
 寧ろ、あっちの彼こそ正当な地位を得る可能性があるのだから、退場させずに関係を維持するほうが得策では。でも正体がばれるリスクもあるか。うーむ。
 
 それはともかく、ミステリとして洗練されたストーリー(或る程度は後発組のアドヴァンテージ)に、強烈なキャラクター(やったもん勝ちなので先人の方が有利)をぶち込めるわけで、シャーロック・ホームズは原典よりパスティーシュのほうが面白いんじゃないの?

No.844 7点 蜜の味- H・F・ハード 2020/11/18 11:09
 表紙にせよ粗筋紹介にせよ“ホームズ・パスティーシュ”と言うことを前面に打ち出していて、そりゃあそういう本だから当然だよね。ところが本文にその姓名は出て来ないのだ。もし予断無しで読んだら“アッ、これってホームズか!”と驚けただろうか。せめてもの抵抗として、あとがきを先に読むのはやめたほうがいい。
 1941年発表だから、ミステリの文法はそれなりに発達していた筈だが、それよりも“ホームズであること”を優先しており、展開に捻りは無い。
 しかし、ワトソンは登場せず、当事者の一人称で事件の成り行きをじっくり語らせるあたり、単なるホームズ愛ではなく意外と冷静に原典の弱点を対象化していると思った。具体的描写は少なくても敵のキャラクターが浮かび上がって来るし、化学実験の使い方も面白いし、短めの長編を引っ張る強度としては充分だ。

No.843 6点 世紀末ロンドン・ラプソディ- 水城嶺子 2020/11/18 11:05
 古いロックンロールを現代のスタジオでカヴァーすると音質が良過ぎて違和感がある、かと言ってわざと悪い音で録るのはあざとさが先に立つ、さてどうしたものか。アレンジに若干現代的な手を加えて、音響を鼻に付かない程度に懐古的なムードで処理して、少しずつ中道に寄せました。みたいな感じ。
 事件の単純さは原典に気を遣い過ぎでは。とは言え、このような原典への懸想文の如き作品でも、それなりに気持を共有可能なのはシャーロック・ホームズと言うキャラクターの特権か。作者が楽しんで書いているイメージによって読者が楽しくなる本もあるのだな~。

No.842 7点 恐怖の研究- エラリイ・クイーン 2020/11/18 11:04
 ホームズは殆ど偶然で犯人に辿り着いているように思える。もしかして、あの人がホームズを誘導した、と言う操りテーマなのか?
 “EQが描くホームズ”との前提で読むと、私は斯様にあちこちから批評性を勝手に読み取ってしまう。“容疑者が四人”なんて言うから、すわホームズが消去法推理を? と期待してしまったぜ。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1701件
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