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[ クライム/倒叙 ]
復讐するサマンサ
女題名シリーズ
E・V・カニンガム 出版月: 1968年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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早川書房
1968年01月

No.1 6点 人並由真 2020/05/08 14:32
(ネタバレなし)
 1960年代の半ば。ビヴァリー・ヒルズで「ノースイースタン映画会社」の社長アル・グリーンバーグが急死し、彼と面識のあった日系二世の部長刑事マサオ・マストが現場に向かう。グリーンバーグは心臓が悪かったので病死と思われかけたが、彼の死の直前、何者かと口論して脅迫されていたようだとの証言が聞こえてきた。マストは、故人の疾患まで計算に入れた殺人の可能性を考慮する。やがて11年前に映画業界で複数の男に枕営業を強いられ、ほとんど使い捨てにされた若手女優「サマンサ」の名前が浮かんできた。しかも歳月を経て容姿と名前を変えたサマンサが、今はノースイースタン周辺の関係者の誰かの細君になっているかもしれない? やがてグリーンバーグの件に関連するような新たな事件が……。

 1967年のアメリカ作品。
 主人公マサオ・マストの設定は、当時のミステリ界における黒人系主人公の隆盛が背景にあるのだろうが、人物造形としては非常に親しみやすい、知的な紳士キャラになっている(物語後半のちょっとした心の移ろいまでを含めて)。意地悪なことを言えば、マイノリティ読者の視線を意識して無難策を採った可能性もあるが。
 キャラの味付け程度(?)には東洋の神秘を覗き込むニッポンジン観も盛り込まれており、さらに作中で出会う別の登場人物たちから何回か「チャーリー・チャン」だの「モト(モト氏、ミスター・モト)」だのと揶揄されるのはお約束(笑)。
 カニンガムがシリーズ探偵を創造したという話は知らないが、続編がもしあればまた付き合ってもいいなと思うくらいには、地味な魅力のあるキャラクターである。

 ポケミス巻頭の登場人物一覧にも「~の妻」というポジションの女性が5人並び、マストはその全員各人について、年齢層的な面からも「彼女がサマンサか?」と疑うのだが、ちょっと冷静に考えると立場も年齢もバラバラの関係者の細君がそろって30歳の初頭(11年前のサマンサの現在の推定年齢)というのは、あまりにリアリティがなくてバカバカしい。まるで、揃って同年代の息子ばかり生まれた『リングにかけろ2』みたいだ。
 各・奥さんの過去についてもそれぞれ(中略)。
(まあ一方で、そういったケレン味いっぱいの趣向にワクワク、な一面もあるのだが(笑)。)

 実際、作者カニンガム(別名ハワード・ファスト)がもともと映画人としても鳴らした書き手だけあり、緩急の効いた筋運びはなかなか快調。
 この設定のなかであえて、安っぽいレイシストなんかほとんど登場させない一方。警察の所轄同士の縄張り争いドラマをスパイス程度に盛り込む手際もよい。
 
 そんな一方で、途中で語られる女性の死亡事件をグリーンバーグの件に関連づけるマストの思考がよく見えないことは、ちょっと減点。
 かたや終盤のどんでん返しというかヒネリはなかなか気が利いていたが、一方で真犯人の動機が(中略)。まあそれを前提にした上で、犯罪そのものはそれなりにイカれたもので印象的ではあるが。

 3~4時間はしっかり楽しめる佳作。


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