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[ 本格/新本格 ]
リバーサイド・チルドレン
梓崎優 出版月: 2013年09月 平均: 6.00点 書評数: 6件

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東京創元社
2013年09月

No.6 5点 E-BANKER 2020/12/21 21:09
処女作らしからぬ出来栄えと、独特な世界観に衝撃を受けた「叫びと祈り」の読了からはや数年。
今回、やっと次作を手に取ることができた! 期待感はかなり高まったのだが、さて・・・
単行本は2013年の発表。

~カンボジアの地を彷徨う日本人少年は、現地のストリートチルドレンに拾われた。過酷な環境下でもそこには仲間がいて笑いがあり信頼があった。しかし、あまりにもささやかな安息は、ある朝突然破られる。彼らを襲う動機不明の連続殺人。少年が苦難の末に辿り着いた胸を抉る真相とは?~

これは・・・やはり作者独特の世界観と呼ぶべきなのか。
何と舞台はカンボジア。なのに主役は日本人少年。作者としては、当然日本人の目を通してのカンボジアの姿というものを意識したのだろう。
その現実はかなり酷く、臭く、そしてやるせない。
そんな劣悪な環境下で発生した少年たちの連続殺人事件が本作の解かれるべき謎となる。

こう書くと、なかなかに魅力的な道具立て、筋立てのように見えるかもしれないが、ただ、どうしても「本格ミステリー」という枠をかぶせると、何ともガクガクして居心地の悪さが目に付いてしまう。
主人公の少年「ミサキ」や、前作の読者なら覚えている(かもしれない)あの「旅人」。彼らが真相に迫るために、繰り返す推理。
私の目には、そのロジックも動機も、現実感に乏しい絵空事のようにしか映らなかった。
でも、これが作者の世界なのかもしれない。
この世界を否定して、よりリアリティを追及してしまうと、作者の良さが消えてしまうのかも・・・
そんな危ういバランスに支えられている。それが本作なのかもしれない。

ある意味、本作はひとりの少年の成長を描くストーリー。なぜ少年はカンボジアという厳しい環境で生き抜く決意をしたのか? 厳しい中にも得難い友や明日への希望、そして前を向く勇気・・・そんなことが頭に浮かんできた。
単行本の表紙には川を渡る彼らの「舟」が写されている。もう「舟」っていうか、「木くず」だ・・・。
でも、こんなところから人間のエネルギーやダイナミズムは生まれてくるんだろうな。こんなご時世だからこそ、そんあことを考えさせられた。
でも、評価は辛め。

No.5 6点 猫サーカス 2019/10/16 19:59
前作と同じく異国の地を舞台にしたミステリながら、初めての長編作となっている。日本人の少年である「僕」は、ストリートチルドレンとしてカンボジアの田舎にある、川べりの小屋に住んでいた。拾ったごみを売って得たわずかな金で生活する過酷な境遇だが、信頼仲間たちとの自由な暮らしに満足していた。だが、ある時を境に状況は一変。仲間が次々と何者かに殺されたのだ。作者は観光客が寄り付かないスラム街の汚れた風景を叙情的な文章でつづりながら、いくつもの謎を織り込んでいく。なぜ語り手の「僕」はストリートチルドレンになったのか。なぜ仲間は殺されなくてはならなかったのか。あまりにもやりきれない現実をつきつけられ、心がゆさぶられる。前作でファンになった方の期待を裏切ることはない一作といえるでしょう。

No.4 7点 sophia 2018/10/25 23:59
ホワイダニットに重点を置いた作品。著者の短編「叫び」に近いものがあります。ミステリーというよりは文学作品として読むべき小説であり、「スタンド・バイ・ミー」のようなほろ苦さがあります。哲学的でやや難しいですが。一点気になったんですが、医者の所に乗り込むときに舟に置き去りにした墓守の少年のこと忘れてませんか?

No.3 7点 青い車 2017/02/09 19:02
 デビュー作『叫びと祈り』のハードルには及ばなかったかな。選んだ舞台やテーマの切り口がユニークですし、クライマックスの見せ方も上手なのは評価されるべきでしょう。ただし、動機の問題を始め推理の細部にこじつけ感があったのがどうしても気になるところがあり非常に残念です。あと一歩のところで傑作になり損ねてしまった印象。あの人物(直接言及はされてないけどたぶんそうですよね?)の再登場は嬉しかったです。

No.2 5点 虫暮部 2014/04/10 20:05
粗筋紹介には“鎮魂と再生の書”と謳われているが、そういう類の感動的な文章にしよう、とし過ぎている気がした。そのせいか語り手の感情の動きがやたら大仰でわざとらしい。ハイここで感動して下さいね、と判り易く誘導されている気分で、勿論それでは感動出来ないのである。

No.1 6点 kanamori 2013/09/24 18:02
カンボジアの貧民街近く川沿いの小屋で集団で暮らすストリート・チルドレン。親に売られかけて逃げ出しそのグループの一員となった日本人少年”僕”の周辺で、次々と仲間の少年たちが殺されていく------。

数年前のデビュー短編集「叫びと祈り」で年末ミステリランキングを賑わせ話題になった作者による第2作。
「叫びと祈り」の収録作にもあったが、”特殊な環境ゆえの歪んだ論理”によって動機の意外性を創出するというのが作者の得意とするところで、本書もそのパターンといえる。
人間扱いされず虫けら同然にみられているストリートチルドレンが、なぜ殺されるのかという”ホワイ”がミステリとしての中核の謎。たびたび挿入される殺された少年の”名言”フレーズや泥人形ゴーレムの逸話など、伏線も巧みに敷かれている。ただ、死体装飾の見立てなど全てがストンと腑に落ちるとはいえず、今回はミステリ的には弱いかなと思います。
それでも、透明感のある文章で語られる少年たちの生きざまは胸を打つ内容で心に残る物語となっている。あの”旅人”の再登場もうれしいサプライズだった。


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梓崎優
2013年09月
リバーサイド・チルドレン
平均:6.00 / 書評数:6
2010年02月
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平均:6.74 / 書評数:19