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[ 本格/新本格 ]
弓の部屋
陳舜臣 出版月: 1962年01月 平均: 5.67点 書評数: 3件

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東都書房
1962年01月

講談社
1981年05月

No.3 7点 2019/05/25 13:10
 桐村道子は英系船会社インターナショナル・オーシャン・ライン神戸支店に勤務するタイピスト。彼女は七月のある日、一昨日着任したばかりの新任支配人の妻イレーネ・ラム夫人から、人探しを依頼される。福住ハルというその女性は、偶然にもヘボ画家の叔父織田順太郎の三十年まえの恋人だった。
 順太郎の助けでハルを探しあてた道子は、彼女の唇に親友山添時子の面影を見る。時子は訳あって幼い頃実の母と別れ、養女に出された娘だった。道子は彼女にハルがラム夫人に迎えられ、女中として北野町の宿舎に住むことになった、と知らせる。時子も今では無事灘の酒造家に嫁いでおり、ふたりの幸せな姿は道子をふと微笑ませた。
 それから約一ヵ月後の八月はじめ、道子はラム夫人にパーティー客を連れてきて欲しいと頼まれる。ラム邸のボウ・ルーム―― 半円形に張り出したベランダ風の部屋から、生田神社の打ち上げ花火を見物しようというのだ。屋敷には叔父の順太郎、道子の縁談相手の大学助教授渋沢徹治、友人の時子、それにひょんな事で知り合った毒殺事件の容疑者八重子が招待される。
 そしてその当夜。皆にのみ物が配られ部屋の電燈が消された。菊花がパッと夜空に開き消えたかと思うと、三個の子花火が生まれまた消える。花火から解放された見物人たちがホッと息をつくと不気味な呻き声が聞こえ、ドサリと重いものが床に倒れる音がした――
 陳舜臣三連発。「三色の家」に続く第三長編で、同年1962年に発表。執筆には大変苦労した模様(東都書房版あとがきには「難産の子」と形容されています)。ただ最初のメイン・トリックを捨てて、なんども組み立てては解体しているうちにミステリのコツを掴んだようで、この作品はそれまでの二作に比べ非常にシンプルかつスマートな出来栄え。あからさまな伏線が大胆不敵な毒殺トリックをヌケヌケと支えています。
 別格の名作「炎に絵を」とは比較になりませんが、推理作家協会賞受賞の「孔雀の道」よりもこっちが好きですね。危険度が高すぎるという指摘もありますが、心理的にはかなり確実な手口だと思います。
 明朗闊達な女主人公の語り口もよろしい。奥手な恋人(探偵役)の存在感も相俟って、ほのぼの風味の読後感があります。「枯草の根」を読んだのはかなり前ですが、とりあえず現時点での陳舜臣お薦め作品です。

No.2 5点 蟷螂の斧 2016/01/14 08:56
(再読)裏表紙より~『夏の夜の神戸を彩る生田神社の花火。それを異人館のボウ・ルーム(弓の部屋)から眺める男女の間で突如殺人が。被害者はメード光子の夫の中山。彼は電灯を消した一瞬にすり替えられたコップを口にして、毒殺された。捜査の進展につれ、居合わせた人々の過去が次々にあばかれる。神戸情緒あふれる本格長篇。』~

一言でいえば、昭和ミステリーらしい一冊。昭和ミステリーって何といわれても困りますが。まあ、風俗や、当時の女性心理といったところですか・・・。ミステリー的なところでは、毒殺トリックはかなり危ういところがあるので高評価とはなりませんでした。3人が犯行を自白するというプロット(庇いあい)は他にもあると思いますが、本編のプロットは思わずニヤッとしてしまいます。全体的には、ほのぼの感を得られる作品であると思います。

No.1 5点 kanamori 2010/05/26 19:01
ノンシリーズの長編ミステリ。
ほぼ全編、神戸異人館の弓の部屋における推理劇の趣があります。数名で花火見物中に停電になり毒殺事件が起こるというストーリーで、毒殺トリックは単純ながらユニークです。
登場人物が次々と犯人だと名乗り出るプロットもなかなか面白い。


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陳舜臣
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