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[ 本格 ]
シャーロキアン殺人事件
ファーガス・オブリーンシリーズ 番外編
アントニー・バウチャー 出版月: 1995年01月 平均: 5.67点 書評数: 3件

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社会思想社
1995年01月

No.3 7点 人並由真 2020/11/11 03:00
(ネタバレなし)
 1939年6月のロサンゼルス。映画会社「メトロポリタン・ピクチャーズ」はシャーロック・ホームズものの新作映画『まだらの紐』の製作企画を進めていた。だが映画の脚本家に、かねてよりホームズの名探偵ぶりを揶揄しているハードボイルドミステリ作家スティーヴン・ワースを起用したことから、国際規模のシャーロッキアン集団「ベイカーズ・ストリート・イレギュラーズ」の苛烈な攻撃が始まる。この非難に恐れをなした「メトロボリタン~」のプロデューサー、F・X・ワインバーグはイレギュラーズの懐柔策を敢行。自社の宣伝スタッフの美女モーリーン・オブリーンに命じて、アメリカ国内の主なイレギュラーズ会員たちを映画の監修役として呼び寄せるという大技に出た。だがそんな参集したイレギュラーズ会員の周辺で、思わぬ殺人事件が?

 1940年のアメリカ作品。
 創作者というよりはミステリ批評家(&ビッグネームファン)として名高いバウチャーが著した7本の長編(別名義を含む)のうちの一本。
 本作は、短編作品『ピンクの芋虫』そのほかや未訳の長編作品で活躍するバウチャーのレギュラー探偵ファーガス・オブリーンものの番外編的な設定で、ファーガス当人は欠場だが、その姉の美人OL、モーリーンがメインヒロインを務める。
(評者はまだ読んでいないけれど、ブランドの『ゆがんだ光輪』がコックリル警部の妹のみ登場ということで、似たような趣向かもね。)

<偉大な名探偵ホームズの映画化、そのシナリオライターに、お門違いのハードボイルド作家を使うな>という、いかにもミステリファンダムにありそうな悶着(しかも実在のシャーロッキアン団体が実名で登場・笑)から開幕する序盤からしてケッサクだが、中身のミステリギミックも、消えた死体の謎、アリバイの検証、暗号、大戦の緊張の影響下でのスパイ探し……とふんだんな趣向に満ちていて、実に楽しい。
(あと、ネタバレになるのであまり詳しくは言えないが、この作品がレギュラー名探偵不在の番外編というスタイルをとったのも、最後の最後でなんとなく作者の意図が窺える。)
 
 お話の組み立ても中盤、ロサンゼルスに招かれたイレギュラーズ会員のひとりひとりが個別に奇妙なエピソードに遭遇。しかもそのエピソードの大半がホームズ譚に見立てた? 内容。そんないわくありげなが複数の挿話が、物語の半ばで並び立てられるところで、おお、これは泡坂の『11枚のとらんぷ』の先駆か!? と小躍りしてしまう(とはいえ本作の場合は、後発の『11枚』ほど、この構成が(中略)なのだが、そこは愛嬌?)

 ……まあ最後まで読むと、伏線の張り方ヘタだよね、思わせぶりな描写に意味がなかったよね、日本人にはわからないよね……とか、あれやこれやの不満は続々と湧いてくる(汗)。
 だけどそれでも、とにかくいろんな仕掛けを興じようとしたバウチャーの心意気はビンビン伝わってくるようで、個人的には結構なレベルで楽しめた長編なのだった。

 しかしバウチャーの実作といえば、クレイトン・ロースンと並んで小説がヘタで読みにくいという前評判であった(おかげで『ゴルゴダの七』を読むのに二の足を踏んでいるうちに、家の中で本がどっかに行ってしまった~汗・涙~)。
 しかも本作の翻訳は、近年さらに悪評が高まる仁賀克雄。こりゃ相当キツイかなあと予期したが、先にちらりと訳者あとがきを読むと駒月雅子に手伝ってもらったそうで、ほっとする。そういうことをあえて書いているなら、実質的な翻訳は駒月さんなんだろうしね。実際、日本語として、地の文も会話も特に不順なところもなくスムーズに楽しめた。
 そんなアレコレも含めて、個人的にはそれなりに愛せる一冊(出来がよいかというと微妙だが)。

 ちなみに最初の方に書いた、この作品世界にいながら最後まで顔を見せなかったバウチャーの名探偵ファーガス・オブリーン。大昔に『ピンクの芋虫』を読んで狐につままれたような印象だけは覚えているが、webで検索すると、かの渕上痩平氏のブログやTwitterなどで、改めてかなりとんでもない名探偵キャラクターだということが分かる。未訳の長編二本も読んでみたいなあ。
 来年2021年以降は、また未訳のクラシックミステリの発掘が活性化しますようにと、切に願う。

No.2 5点 nukkam 2016/08/13 06:38
(ネタバレなしです) 1940年に発表された本書は自身もシャーロキアンだったこの作者にふさわしくシャーロック・ホームズに関する薀蓄が散りばめられた本格派推理小説です。ユーモアは豊かだし時代小説的な描写もあり、暗号や不可能犯罪などの謎解きネタも満載ですが全体の仕上げはごった煮風で非常に読みにくく、ストーリーテリングに関しては「ゴルゴダの七」(1937年)と同じく低い評価にならざるを得ません。典型的なパズルミステリーで人物描写も精彩に欠けていて記憶に残らず、唯一ロマンスだけがわかりやすかったです(笑)。名評論家必ずしも名作家ならずを実践してしまった作品というのが私の印象です。

No.1 5点 mini 2009/09/26 10:09
昨日25日発売の早川ミステリマガジン10月号の特集は、”ドイル生誕150周年”
150周年なんて区切り方があるとは思わなかったよ
便乗企画としてシャーロキアンな話を

バウチャーと言えばアメリカを代表するミステリー評論家で、アントニー賞という賞もこの評論家を記念したものだ
SFも書いているがガチな本格も書いている
ただし現在普通に入手出来るものは無く、潰れた現代教養文庫とは言え最も古本屋で入手し易いのはこれだろう
ミステリー作家としてのバウチャーが活躍したのは、アメリカン本格が衰微していって貧血状態に陥っていた時期で、この作品を読んでもそれは感じられる
後に本格の主流がイネス、ブレイクらの英国教養派に移っていったのも仕方ないことだろう
この作品も完全にすれからし読者向きで、ホームズすら読んだ事がないような読者が読んでも面白さは分からない
ただしバウチャーにしては意外と文章は読み易い
アンソロジーでバウチャーの短編はいくつか知っていたが、文意がすっと頭に入ってこない文章を書く作家なので、長編だからなのか幾分マシな感じである
謎解き面も評判ほど悪くもなく、最初の事件などは映画会社なのを考慮して私は真相を見破ってしまったし、第二の殺人未遂事件も多分そうかなと見抜いたけど、ある重要な人物が登場人物一覧表に載ってないのを不思議に思っていたが、なるほどそういう事かよ


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アントニー・バウチャー
1995年01月
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