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[ 警察小説 ]
アキレウスの背中
長浦京 出版月: 2022年02月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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文藝春秋
2022年02月

No.1 7点 人並由真 2022/09/13 18:56
(ネタバレなし)
 2020年代の近未来。英国の国家公認ギャンブル業「ブックメイカー」に倣って、日本でも同制度が導入され始める世界。内外の各種スポーツ界には、一般市民の新たな種類の興味の眼が向けられていた。そんななか、警視庁は、特殊な事件ごとに各方面から人材を集めて捜査チーム「MIT」を編成するタスクフォース型の方針を採っていた。今回、4人の若手捜査官チームの主任となった29歳の下水流悠宇(おりみず ゆう)警部補は、国際的なスポーツ用品業界に深く関わる組織、スポーツ総合研究所「DAINEX」の案件に介入する。そこで悠宇たちが見たものは。

 評者は長浦作品は『リリー』に次いで二冊目。
 今回はまったくフリで、現物を見て面白そうなので手に取った。
 内容は21世紀の社会形態(設定上はちょっとだけ先の未来だが)を題材というか舞台にした組織論、人脈論などを大きなテーマのひとつにした、良くも悪くもよく見かけるタイプの今風の警察小説。
 ただしヤンエグ(死語か)である女性主人公・悠宇の過去の肖像と現在の葛藤と活躍、そして何より成長ドラマが語られる、ちょっと高めの年齢のキャラクターの青春小説にもなっているのが特徴。

 主要な登場人物連中は全体的に、程よいさじ加減で作者がそれぞれに愛情を込めて書いている感じで、読んでいてちょっとだけスレたつもりの読者(ホントか?)であるこっちは気恥ずかしくなるところもあった。
 だが大枠では、現実の塵芥のなかでまっとうな倫理やヒューマニズムを訴えて何が悪いと言わんばかりの作者の胆力が勝ちを収めた感じで、そういう意味でもかなり正統的な、青春小説っぽい。
 重要なメインキャラクターのマラソンランナー、嶺川も、彼を支援する年配のスタッフ連中も魅力的なキャラクター。捜査陣の面々もおおむね印象がよい。

 主人公の悠宇は、またいつかシリーズものの続編として再会したいなと思う一方、ここで彼女の成長の物語の一区切りを見終えたい(このあとの余計なことは見なくてもいい)とも思える、そんなデリケートな印象のキャラクター。つまり個人的には、かなりいい人物造形だと思う。


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長浦京
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