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ミステリの祭典

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犀天犬郎さんの登録情報
平均点:2.00点 書評数:1件

プロフィール| 書評

No.1 2点 蒸発
夏樹静子
(2024/11/18 03:31登録)
 故あって、この著者のリメンブランスを思い立ち、最初に手に取ったのが本作。1973年第26回日本推理作家協会賞受賞作でもあり、代表作の一つと聞いていたのだが、相当凸凹の激しい出来。シヅ子リメンブランスの継続は、いきなり挫折の危機に瀕しているw。

(このガックリ感をお伝えすべくそれなりにネタバレ領域に踏み込むので、未読の方はご容赦を。)

 冒頭、航空機内からの消失トリックが、本作の評価の7割〜8割を占めると思われるが、正直、長編一本を支えるだけの強度はなく、短編ぐらいでとどめておくべきクオリティ。

 しかし問題はそれではない。
 この錯誤を仕掛けた人物は「失踪先を隠蔽するため」にこの小細工を断行したーーというのだが


1、探偵役の新聞記者が、物語冒頭からこの隠蔽工作を全スルーして、正解の失踪先を特定してしまい(by直感)一ミリも疑わない。
 これはプロット自体の問題なのだけれど、「本格ミステリ」と銘打つ上でどうかと思うし、何より目的の「誤誘導」が成立していないのだから、仕掛け損で終わっている。

2、さらには、結構な手間を弄したこのトリックを台無しにして、失踪者自身が失踪元へとんぼ返りしてしまっている。最優先の「ある目的」を達成するための避難だったはずなので、あまりに悪手。そして無駄。

 このメイントリックの弱さを補強するため投入されたとおぼしき時刻表トリックも、鮎哲や京太郎センセイを引き合いに出すのは申し訳ないようなお粗末の極み。真犯人の採った犯行方法に、解明部分まで全く検討がなく、唐突に仕掛けのみ提示されて終わり。それまでの推理と検証作業をゴミ箱行きにする。
 
 いずれもトリック優先のイディオット・プロットで弁護の余地がないわけだが、最終盤のツィストとして明かされる失踪者の心理の解明も酷かった。

 今で言うサ◯コ◯スの模倣行為なわけだが、対象によってブレがあり、「動機の謎」として提示するにはあまりに一貫性がない。

 これらのガタツキは主にトリックとプロットの衝突をきちんと整理しようとしていない=場当たりとコジツケに頼った書きっぷりに由来する。

 文章は平易で、そこそこリーダビリティはあるものの、全般に薄味。人物心理に一貫性も、迫真性もないので「トリックには無理があるが、ドラマ的に素晴らしい」といった弥縫的な褒め言葉にも該当するとは思えず。

 半世紀前の基準とはいえ、推協賞を冠するに値するほどの出来ではないなあ。

 

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