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ミステリの祭典

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白雪と赤バラ
ホープ弁護士

作家 エド・マクベイン
出版日1987年09月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点
(2018/10/24 22:28登録)
 短い金髪、ジャングルのように濃い緑色の瞳、豊かな唇、ほっそりときゃしゃな身体つきで、胸は小さいが完璧な形、そして、いまにもこわれてしまいそうなもろさ――。
 「わたしは初めてサラを見た瞬間に、恋に落ちてしまったのだと思う。」
 だが、サラはノット精神病院に入所する重症の精神病患者だった――。
 「ジャックと豆の木」に続くホープ弁護士シリーズ第5作。サラはホープに「わたし、気がちがっているように見えます?」と訴えます。シェイクスピアを引用する知性に満ちた会話に魅了されるホープ。実の母親、弁護士、精神病院の医師たちがこぞって共謀し、彼女を閉じ込めてしまったというのです。
 一方、主治医のドクター・ピアソンはホープにこう語ります。
 「彼女は、もうあなたを妄想の中へとり入れています。あなたの支持は、妄想を強めるだけです。あなたは彼女が破滅するのを助けているだけなのですよ」
 いったい、どちらの主張が正しいのか?
 ホープの登場はカットバック的に本編に挿入されるだけ、物語としては主に"ジェーン・ドウ〈女性の身元不明人〉"と名付けられた死体の調査の過程が語られます。赤いワンピースを身に着けた彼女は、喉を撃たれた上に舌を切り取られ、ソーグラス川に浮かんでいました。しかも、両足首をアリゲーターに喰われて。
 レギュラーキャラのモリス・ブルーム刑事は相棒のロールズ刑事と共に、地道な捜査を続けます。再読ですが、この辺のリーダビリティはかなり低い。ストーリーの9割がそんな感じです。
 しかし残り30P余り。ホープとブルームの物語が交錯し始めた時、一気に悪夢がホープを呑み込むのです。この辺りの展開は背筋に戦慄が走ります。
 都筑道夫氏は本作を評して「残念だ」と語りました。一方、池上冬樹氏は絶賛しました。正直、総合力では「黄金を紡ぐ女」の方が上かもしれません。ですが、本書がマクベインの精神分析への関心の集大成として、最後に書かれるべき作品であった事は疑い無いでしょう。敬意を表して、7点を付けさせて頂きます。

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