home

ミステリの祭典

login
金門橋

作家 アリステア・マクリーン
出版日1978年01月
平均点4.00点
書評数1人

No.1 4点 Tetchy
(2015/09/25 23:58登録)
王道のハリウッドアクション映画さながらの、テロリストによる政府高官を人質にした緊迫の籠城劇である。

金門橋で陣取ったテロリスト、ブランソンは政府に5億ドルもの身代金を要求する。大統領を筆頭に国賓として招かれていたアラブ産油国々王らVIPの身代金に加え、爆弾を仕掛けられた金門橋の身代金が上乗せされていた。
爆弾は上空を飛行するヘリに乗ったテロリストの1人がリモコンを持っていつでも爆破できるようになっている。
この一部の隙のない計画の中、唯一の誤算は人質の中にFBIエージェントで主人公のポール・リブソンがいたことだった、とまるで一級のアクション映画の煽り文句のような状況設定でありながら、物語が進むにつれて色んな綻びが見えてくる。

通常このような籠城物であれば、犯人の要求を数時間単位で成立させ、それが適わないとなると1人、また1人と殺されていくのが常だが、全くそのような緊張感はなく、ブランソンの宣伝のためにマスコミ連中が金門橋上を右往左往する余裕さえある始末。
さらに緊張感の無さに拍車をかけるかのように、完璧無比と思われた犯罪が次第に綻んでいくのだが、これが実に容易に事が進む。橋に仕掛けられた爆弾を遠隔操作する爆弾は早々と無効化され、絶大の信頼を置く片腕はリブソンによっていとも容易に捕獲される。そんなことにも気付かず余裕綽々で構えているブランソンに対し、対策本部の連中はもはや彼に畏怖を持たず、彼の部下が気付いた彼らの機器が故意にレーザー光線で壊された疑いに対して、小馬鹿にしたように反論し、論破する。さらにブランソンの切り札であった犯行後の犯罪人引き渡し条約を結んでいない国への逃亡は受入先の国の大統領から拒否されるという始末で、いつの間にか単なる道化役に堕してしまっている。片や火中のなんとやらでブランソンや彼の片腕に疑われながらも、敵の数歩先を読んで強かにやり過ごすリブソンも口笛を吹きそうな余裕さえ感じさせられ、アクション大作としてはスリルをさほど感じさせない構成が残念でならない。

またマクリーン作品の最たる特徴である専門知識も鳴りを潜め、金門橋に関しての薀蓄もたった2ページが費やされているだけである。最盛期のマクリーンならば金門橋を取り巻く周辺特有の霧の濃さに関する地形的な特徴などを延々と語り、また濃霧に縁のない人々を唸らせる思いも寄らない弊害なども盛り込まれ、サスペンス性をどんどん重ねていったことだろう。
舞台は一流でありながら、進行は牧歌的という実にアンバランスな内容を読むに、やはり往年のヴァイタリティは枯れてしまったマクリーンの作家としての衰えを激しく感じてしまった1作だった。

1レコード表示中です 書評