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ミステリの祭典

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117号スパイ学校へ行く
OSS117

作家 ジャン・ブリュース
出版日1964年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/07/25 16:37登録)
(ネタバレなし)
 1960年代前半のニューヨーク。コールガール組織の運営で羽振りを利かす青年ロッキイ・レイメーカーが、ロシア側スパイの罠にかかった。殺人犯に仕立てられた彼はソ連への亡命をそそのかされる。ロシア側の目的は、アメリカ英語のスラングを工作員に学ばせる講師を求めて、適当な人材=ロッキイのような、適度に知性のある裏社会の人間を確保することだ。だがFBIがこの事態を察知。FBIはCIAと連携し、腕利きスパイの117号ことユベール・ボニスール・ド・ラ・バスの顔をロッキイそっくりに整形させて、替え玉としてソ連に送り出す。

 1964年のフランス作品。全部で72冊ほど書かれたというOSS117号もののうちの一編(そのうち、邦訳は4冊)。

 前に読んだ『蠅を殺せ』が薄いながら、それなりに読み応えのある楽しめる作品だったので、夜も更けた(というかほとんど夜明けになった)時間から、これを読み出す。
 今回もポケミスで本文150ページ弱と薄目だが、中味はシンプルながら無駄の少ない(小説的な意味での脇筋、余剰はある)コンデンスな筋立ての一冊。
 ゲストメインキャラのロッキイの苦境、彼の周辺の女性たちの動向、東西両陣営のスパイたちの思惑と行動、などが前半の主体で、そこから徐々に、途中から登場した117号を主軸としたストーリーにグラデーション的に移行してゆく。
 後半のあらすじをあまり書いても興を削ぐが、現地でのピンチとそこからの脱出、さらに……の東側からの脱出行の一部には、かの『ロシアから愛をこめて』を思わせる趣向もあり、今回も紙幅の割にコストパフォーマンスが良い。
 前作『蠅を殺せ』をカーター・ブラウンっぽいとも書いたが、今回はひきしまったときのハドリイ・チェイスあたりを想起した。
(任務の流れのなかで、必要に応じて冷徹に人を殺す117号の描写も、王道ながら確実にひんやりした気分を読み手に味合わせる。)

 ラストは、え、これで終わるの? と一度は思ったが、考えてみれば小説として書かれた物語のその先のベクトルは確かに覗いており、結局は(中略)という方向に向かうだろう。余韻のあるクロージングだったといえるが、受け手がその余韻に浸る前に当惑していちゃいけないか。
 佳作~秀作。

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